幕間 パノプティコン
問題無い。
そうだ、殺したのだから問題ない。
私に抜かりは無いのだ。
「お前は、絶対に……逃がさない……!」
あの目、あの言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。
たかが脆弱な人族の分際で、私を逃がさないだと?
「ふざけるなァ!」
暗い部屋の中、椅子を蹴り飛ばした私は、壁に凭れ掛かり頭を抱えた。
そうだ、あの時も同じだったのだ。
半神の鍛治師ヘロディス、奴は私が半神アラディアを手にかけ、息子のゲオルグを唆して聖剣を奪うように仕向けたことに気付いた。
それから奴が、ずっと私に目を光らせてきたせいで、フェレストとしての人生ではそれ以上何かを成し遂げることは不可能だった。
だからこそ、私は次の人生でヘロディスを暗殺する計画を立てていたのである。
そうして、転生した私はヘロディスを手に掛けた。
「お前は絶対に逃がさないぞ。覚えていろ、フェレストォ!」
先日あのシャーロット・ヒルという小娘が死に際に放った言葉は、当時のヘロディスと全く同じものだった。
そうして、その目も……あの魔法すらも……
黎明魔法は、半神ヘロディスの作り上げた始まりの聖剣に刻まれた魔法だ。
あの日、私はヘロディスの聖剣を破壊しようと試みた。
しかし奴は死に際に、あろうことか聖剣を封印してしまったのである。
だから有り得ないのだ……シャーロット・ヒルの盾が、黎明魔法を使ったという事実が……!
きっと何かの間違いだ。
否、しかし念のため殺しておいて正解だったのだろう。
殺した者は、もう私の脅威には成り得ない。
残る不安要素は、ベリィ・アン・バロルか。
とは言え、魔力を阻害してしまえば、魔王の力は大したものではない。
それに、私自身も新たな力を手に入れたのだ。
全方位監視魔法、パノプティコン。
シャーロット・ヒルに止めを刺される直前に会得したこの力さえあれば、私の魔力阻害を全方位に向けることが出来る。
だが、ベリィ・アン・バロルの成長は予想以上に早い。
暴走した奴はどこかへ消えたという報告はあるが、念の為に刺客を送っておいた方がいいだろう。