幕間 混沌と後悔
その日、あーしは地獄を見た。
シャロが殺されてベリィは暴走、サーナはメフィルに連れ去られて行方が分からない。
今回の作戦で、あーしがやった事って何だ?
奇襲に失敗して、みんなの足手纏いになっただけ。
最低だ、最低だよあーしは……
「シャロ……ごめんね……」
病室の中、まだ温もりの消えないシャロの手を握り、あーしはひたすら泣いていた。
謝ったところで、シャロが生き返るわけでも、ベリィが帰ってくるわけでもない。
もう、どうしようもない。
刑務所が襲撃されたことで、住民達は不安がり外に出なくなってしまった。
混沌とした状況の中、一部の店も営業を止めたり、常に町中を聖騎士団員達が見回りをしているような状態だ。
そのおかげか、シリウス内での大きな犯罪は、事件から三日経った今でも起きていない。
「シルビアさん、入りますね」
あーしがここに居ることを知っていたようで、ルカがそう言いながら病室に入ってきた。
「お腹空いてませんか? パン、買ってきたんですけど……」
「……うん、食べる。ありがと」
そう言えば、最近ほとんど食べ物を口にしていなかったな。
久しぶりに食べたそのパンは、何故かいつもより味が薄く感じてしまった。
「シャロさん、まだ希望はあるんですよね?」
ルカの問い掛けに、あーしは黙って頷く。
医者とセシル様曰く、今のシャロは死んでいるようで死んでいないような状態らしい。
突然シャロの傷が塞がったのも、アイネクレストによる治癒の可能性が高いと話していた。
「陽光アイネクレスト、過去にそのワードを検索した際、記憶があった形跡は残されていたのですが、そのワードを含む記憶が消されておりました。しかし“黎明魔法”と検索してみたところ、複数ヒットしたのです」
セシル様はそう話すと、閲覧した記憶の内容について教えてくれた。
「太陽より残火が尽きし時、そこに神の御使いあり。太陽に火が焚べられし時、黎明を訪う魔法が汝と共にあらんことを」
セシル様曰く、この太陽とはシャロのことを指しているらしい。
閲覧した他の関連記憶の内容を全て読んだ上で、そう判断したと言っていた。
「つまり、今のシャロさんは残火が尽きた状態です。彼女の身体から熱が消えないのは、まだ死んでいないから、という事になります。皆様は、ただシャロさんを見守ってあげてください」
本当にシャロが生き返るのか、まだ確証は無い。
それに生き返るとしても、いつになるのか分からない。
ただ、セシル様がそう言ったんだ。
だから今は、シャロを信じるしかない。
「ルカ、あーしも見回り手伝うよ」
パンを食べ終えたあーしは、ルカにそう言って立ち上がった。
「ありがとうございます。でも、無理はしないでくださいね……」
「大丈夫、せめてそれぐらいはしないと」
あーしは何の役にも立てなかったのに、今も後悔してばかりじゃ本当にただの役立たずだ。
少しでもみんなの為に、みんなに追い付けるようにしないと。