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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
119/220

91.エクリプス

 メフィルはシャロを前にして、未だ攻撃をする気配がない。

 まさか、恐れているのか?


 一切の魔力無しで、自身の魔法を防いでしまったあの盾を……

 陽光アイネクレスト、メフィルを倒すにはあれしか無い。


「サーナ、兎に角動き続けて! メフィルに攻撃し続けるんだ!」


 私の言葉に、サーナは少し迷いながらも剣を構えてメフィルに斬りかかる。


「ネビュラメイカ……!」


 メフィルの視界に入り、魔力阻害によってホロクロウズの聖剣魔法は消滅させられた。


「サーナ様、何のつもりだ?」


 メフィルの声には、これまで感じた事が無いほどの強い怒りが籠っているようだった。

 何をされるか分からない。

 けれどみんなで力を合わせれば、負けない!


「アタシは……アンタなんかの言いなりになんて、絶対にならない……! アンタは……ここで絶対に……!」


 サーナは酷く怯えながらも、剣の柄をしっかりと握りしめてその刃をメフィルに向けている。

 大丈夫、サーナ。

 私達で絶対に倒そう。


「ゴミ共に毒されて血迷ったかぁ!? サーナ様ぁ、私は言ったはずですよ! 逆らえばどんな仕置きが待っているか、しっかりとお伝えしましたよねぇ!?」


 先程の怒りが籠った表情とは打って変わり、今のメフィルはまるで高笑いをしているかのような声色で顔には笑みを浮かべている。

 気持ち悪い……何なんだ、こいつは……!


「嫌っ、もうアンタなんかに……アンタなんかに絶対従わないっ!」


 今だ!

 ロードカリバーに魔力を込めた私は、一瞬でメフィルとの距離を詰めて聖剣魔法を発動する。


「ハデシス!」


 メフィルがこちらに目を向ける前に、ロードカリバーの刃は奴の左腕に到達した。

 斬った!


「今だ、シャロ!」


 私の合図で、シャロが遂にアイネクレストの魔法を発動する。


「照らせ、陽光アイネクレスト! プロミネンス!」


 渦を巻いたような炎が、メフィルに向かって伸びて行く。

 あの攻撃がメフィルに防がれる前に、まだ攻撃を続けなきゃ……


「第七禁断魔法、スカルギャラクティカ」


 不意に足を何かに掴まれたかと思えば、突然空が暗く染まり私の全身が何かに覆われて行く。

 ゴツゴツとした歪な形のそれに、身体を雁字搦(がんじがら)めにされて全く動かない。


「ひっ……!」


 思わず悲鳴を上げてしまった。

 私の全身を拘束していたのは、メフィルを中心に広がった骸の山だったのだ。

 そうして暗い空には、まるで星座を模したかのように無数の骸がこちらを見下ろしている。


「キュイッ、キュイッ!」


 私のすぐ側で、ルーナも骸の山に埋もれている。


「ルーナ……!」


 手を伸ばしたくても、無数の骸に邪魔をされて上手く腕が動かせない。


「サーナ……シャロ……!」


 二人も同じように拘束され、必死に抜け出そうとしている。


「はっはっはっはっ! 残念ですが、もうあなた方は私に負けたのですよ。大人しく全員纏めて死んでくださぁい!」


 こんな……メフィルがこんな事を……!

 昔のことは考えるな、もうメフィルはあの時のメフィルでは無い。

 あんな下衆な高笑いをするような……


「うぅ……もう嫌だ……なんで……痛いぃ……」


 最悪だ……今は泣いてる場合なんかじゃ無いのに、辛い感情が濁流のように押し寄せてきてどうしようもない。


「ベリィ様、大丈夫ですか? もう良いのですよ、諦めて楽になりましょう」


 メフィルはこちらに歩いて来ると、あの頃のような優しい笑顔を浮かべてそう言った。


「嫌だ! こっち来ないで! もう嫌だぁ!」


 もう無理だ……無理だよ、こんなの……最初から間違ってたんだ。

 お父様を殺した相手に、私なんかが敵うわけ無い。

 助けて……助けてお父様……


「お父様ぁ……助けて……」


「はっはっはっはっ! 祈っても死者は帰って来ませんよ! 勇者になりたいんでしょう!? でしたら泣いても仕方ないでは無いですかぁ! 本当に、馬鹿な子供ですねぇ。大切な友人を助ける事すら出来ないのなら、勇者失格ですよ。そもそも、お前は勇者ではなく魔王だ。忌々しい魔王、ベリィ・アン・バロル!」


 ああ……いやだ……

 おとうさま……わたし、もうだめだ……


「ふざけるな……」


 声がきこえる……だれ……?


「ベリィちゃんを侮辱するな……! ベリィちゃんは、アタシ達にとって勇者だよ! お前なんかにそれを否定する資格は、絶対に無い!」


 直後、大きな音を立ててシャロが骸の山を破壊し、大剣でメフィルに斬りかかる。

 シャロ……!


「ベリィちゃん、しっかりして! 大丈夫、アタシが一緒だよ! ベリィちゃんは誰よりも立派な勇者だ! こんな奴の言うこと、間に受ける必要なんて無いよ!」


 シャロ……そうだ、シャロが言ってくれたじゃないか。

 私は勇者になるんだ。

 こんな奴、絶対に倒して……


「雑魚がぁ! 第一禁断魔法、カース・オブ・ダークネス!」


 メフィルの放った魔法はアイネクレストによって防がれ、シャロはメフィルの再生した腕を再び斬り落とす。

 そうして奴の視界から外れた直後、シャロのアイネクレストから凄まじい魔力が放たれ始めた。


「エクリプス」


 シャロが詠唱したのは、聞いたことのない魔法だった。

 アイネクレストは見る間に黒く染まり、骸の夜空を塗り替えるように一瞬空が晴れ、その後に太陽は何かに覆い隠される。

 これは、日食……?


「貴様、何故その魔法を……」


 メフィルがそう訊くや否や、シャロが向けた刃は既にメフィルの喉元に迫っていた。

 咄嗟に避けたであろうメフィルは、少し体勢を崩して隙を見せる。


 そこへシャロが剣を手放し、黒く染まったアイネクレストでメフィルの腹部を殴打した。


 メフィルの身体は直ぐに再生するけれど、先程できた綻びはまだ残っている。

 シャロはそこを狙っているんだ。

 早く私もここを抜け出して、加勢しないと……!


「貴様は何者だ、シャーロット・ヒル……! 何故、貴様が黎明魔法を……!」


 黎明魔法……?


 それは聞き覚えのある名前の魔法だった。

 本で読んだことがあったから、記憶に残っていたんだ。


 聖剣を生み出した鍛治師である、半神ヘロディス。

 彼が自身の為に創り上げた始まりの聖剣、その魔法が黎明魔法という名だったのだ。


 という事は、アイネクレストは始まりの聖剣と、何か関係が……?


「プロミネンス!」


 それにシャロは、メフィルの視界に入ったまま魔法を使っている。

 この領域の影響だろうか?

 けれど太陽に覆い被さった月は徐々にずれ始め、日食が終わりを迎えつつある。


「舐めるなああああっ!」


「どりゃああああああっ!」


 プロミネンスの炎に覆われたメフィルに、再び剣を握ったシャロが斬りかかる。

 直後、炎が消え去ったかと思えば、その中にはボロボロのメフィルが立っていた。

 周囲を覆い尽くしていた骸の山は消滅し、私とルーナ、そしてサーナも身体の自由が利くようになっている。


 シャロの剣は、メフィルの綻びへと向かって行く。

 遂に刃はメフィルへと到達し、太陽が完全に姿を見せると同時に大剣は綻びを突き刺した。


「プロミネンス!」


 シャロは再び魔法を発動し、メフィルに刺さった大剣に炎を纏わせる。


 いける、倒せる!


 否、メフィルは……どうして笑っているんだ?


「はっはっはっはっ、見事だ、シャーロット・ヒル……おかげで、漸く見えました……」


 瞬間、シャロの発動していた魔法が消滅する。

 メフィルとシャロは向かい合っているけれど、奴にシャロの姿はまだ見えていないはずだ。

 何故ならば、奴はずっともがく様に上を向いていたのだから。


「全方位監視魔法、パノプティコン……!」


 全方位監視……それじゃあ、今メフィルには全ての方向が見えているのか……?

 本当に、そうかもしれない。

 今、どういうわけが私は魔法が使えない……!


 しまった、シャロが!


「漸く、これでお前を消せる……散々邪魔をしてくれた報いは、受けて頂きましょう」


「くっ、しまっ……」


 メフィルの手が黒い魔法の渦を纏って、シャロの腹部へと向かって行く。


 駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だっ!!


「やめろおおおおおお!!」


「さようなら」


 メフィルの手は鋭い刃物の様に、一瞬でシャロのことを突き刺した。


「ぐはっ……!」


 一度だけではない。

 笑いながら、何度も何度も何度も……


「はっはっはっはっ! 貴様だけは生かしておけない! 死ね! 死ね! 死ねぇ!」


 ああ……だめ……やめ……て……


 あああああああ…………


 あああああアアアああああアアアアアアアアアああアアアアアアア———

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