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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
118/220

90.希望の光

 煌々と輝くルミナセイバーの魔力があまりに眩しく、全員が目を瞑った。


「エドガー!」


 名を呼んだ私に彼は笑顔を見せると、光の手で捕らえた三人を拘束したまま、空からこちらに降りてくる。


「全員無事か?」


「うん、何とか」


 勇者だ……エドガーが光竜剣ルミナセイバーを取り戻したんだ!

 相手は強敵だけれど、まだ負けたわけじゃない。

 こちら側に勇者がいるなら、勝機はある!


「ユーリ、久しいな」


 ディアスがそう言うと、エドガーは彼を睨み付けた。


「そんな奴は知らねえ。俺はエドガー・レトリーブ、シリウス自警団の黒い一等星だ」


 ユーリ・アラン・アイテール、エドガーの本名だ。

 アイテール帝国の元第二皇子に当たる彼は、父親であるクロード陛下のやり方に疑問を感じ、遂には帝国を抜け出してシリウスへとやって来たのだ。


 そうして今、目の前には兄であるディアスがいる。


「厄介な事をしてくれたものだな。流石は我が弟、その実力だけは認めよう。だが、ワタシはアイテール帝国の第一皇子だぞ? こんな事をして、お前の住む国がタダで済むと思っているのか?」


 ディアスが不的な笑みを浮かべて言うと、エドガーは左手で拘束を緩めないまま、右手に持ったルミナセイバーを構えた。


「馬鹿を言うな。シリウスに正真正銘の勇者である俺がいる限り、アンタらも迂闊に手出しは出来ないはずだ。前はそうやって、散々俺の名前だけを都合よく使ってたもんな。どうせこの場にユニコーンナイツを向かわせてるんだろ? これは警告だ、今直ぐ撤退しろ」


 この世界において、勇者の存在はそれほど大きなものだ。

 圧倒的な力を持つ魔王への抑止力であり、人々を守る平和の象徴。

 それがシリウスに居るというだけで、他国はその国との戦争を避けようとする。

 それが例え、圧倒的な戦力を誇るアイテール帝国であったとしても、勇者のいる国に戦争を仕掛けた等と知れたら、アイテールの国民達は自国の皇帝を責めるだろう。


 流石の皇帝も、そうなるのは望んでいないはずだ。


「……ユニコーンナイツは撤退、アストラ共和国への進軍も撤回する。だが、このまま大人しく引き下がるわけにもいかないのだよ!」


 ディアスはそう言って自身を拘束する光の手に虚空剣ヴァニタスの刃を当て、僅かに入った切れ込みからその魔法を消滅させた。

 それによってボフリと、視線がエドガーへと向かないように捕らえられていたメフィルの拘束も解けてしまう。


「流石ですねぇ、ディアス。おかげで折角の機会を逃さずに済みました」


 拘束された隙を狙っていたディーネとシャロ、そしてウールが、メフィルに向けて攻撃を仕掛けている。

 しかし今、メフィルの拘束は一瞬にして解けてしまった。


 そうしてメフィルの視線が、その三人へと向く……


「これで漸く、四精霊仲良くあの世行きですねぇ」


 魔法を構築するメフィルの手は、真っ直ぐディーネへと向けられていた。


 まずい、このままだとディーネが……!


「第一禁断魔法、カース・オブ・ダークネス」


「しまっ……」


 咄嗟に防ごうとしたディーネだったけれど、あの距離ではもう間に合わない。

 早く助けないと……ディーネ……!


「ぐっ……!」


 瞬間、ディーネの前にサラマンダーが割って入り、メフィルの魔法は彼へと直撃した。


「サラマンダー……!」


「オレも馬鹿じゃねえ。だから魔皇……否、メフィル・ロロ、呪術系の魔法が本体以外にも作用するってのは分かってんだ……けどなぁ……」


 影を攻撃されていないにも関わらず、サラマンダーの身体は徐々にドロドロと崩れていく。

 カース・オブ・ダークネスは魔法そのものに作用する。

 つまり魔法によって作られたスワンプのサラマンダーは、それを受けた時点で……


「惚れた女ぐらい、自分が死んでも助けねえとよぉ……」


 サラマンダーはそう言ってから、自信が持つ灼炎剣ビートルビーを遠くに放り投げた。

 投げた方向に居たのは……バーンだ。


「バーン・フォクシーだったか!? お前にソイツを託す! 魔力解放の言の葉は……燃え上がれ、灼炎剣ヒートルビー!」


 サラマンダーは力強い声でそう叫んでから、溶けかけた身体のままその場に倒れ込む。


「火の精霊サラマンダー……お前に託されたこの剣、使わせてもらう。燃え上がれ、灼炎剣ヒートルビー!」


 バーンがヒートルビーを手に取り、それを掲げて詠唱すると刀身から赤い炎が噴き出した。


「嫌っ、逝かないでよ……サラマンダー……」


「オレはもうとっくに死んでんだ。ディーネ、今日までオレを分身として生かしてくれて、ありがとうな」


「そんな事……言わないで……また、またスワンプで分身させればいいんだ……ああ……なんで……いいじゃん、本体じゃなくてもいいじゃん! なんでスワンプはコピー出来ないのっ!」


 そうか、ディーネのレンダリング魔法は、自身の魔法で作られたスワンプからコピーを取ることが出来ないんだ。

 コピー元は、必ずオリジナルでなければならない。


 サラマンダーはもう……


「ディーネ、愛してる」


 溶けゆくサラマンダーの口から、その言葉がはっきりと聞こえた。

 ドロドロになった彼を前に、ディーネは泣き崩れる。


「鬱陶しい。ならばウンディーネ、あなたも向こう側へ送ってやりましょう」


 メフィルはニヤリと笑い、再び奴の手がディーネに向けられると、今度はシャロとウール、そしてルカがその前に立ち塞がった。


「メフィル・ロロ、アタシあなたの事が大嫌い。みんなを傷付けて、どうしてそんな風に笑っていられるの?」


 シャロの言葉で、メフィルの表情から笑みが消える。


「私もあなたの事が嫌いです。弱者の癖に鬱陶しい、私が最も苦手な部類だ」


 このままではシャロが危ない。

 今なら魔法が使えるから、早くメフィルを倒さないと。


「インフェルノハデシス!」

「第四禁断魔法、蛇霊(だれい)


 突如現れた巨大な何かに、私は身体を掴まれて拘束される。

 それはまるで……ラミア……?


「いやあああっ……」


「私が殺したラミアの怨念、その集合体です。いくらベリィ様とは言え、簡単に勝てるとは思わないでください」


 強く締め付けられて身体が潰されそうだ。

 どうにかして、反重力結界で防がないと……


「ブラッドロウル、ハルバード!」

「アイススピア!」


 ルカとウールの攻撃で蛇霊の拘束が緩み、私は咄嗟に抜け出して剣を構える。

 ラミア……最悪だ、ミアのことを思い出してしまう。


 まさか……ミアを殺したのも……


 メフィルなのか?


「……許さない、メフィルーーーッ!!」


 怒りが収まらない。

 兎に角、今は身体がどうなっても構わないから、絶対に奴を倒すんだ。


「キュイッ……!」


 急に強い魔力を放出してしまったせいで、肩に乗っていたルーナが悲鳴のような声を上げた。


「ごめん、ルーナ……大丈夫、私は大丈夫だよ」


 冷静にならないと……怒りに身を任せて剣を振っても、メフィルを倒すことなんか出来ない。


 ルカとウールが蛇霊を食い止めているうちに、一度状況を確認するんだ。


 バーンとルーク、そしてブラストとバーナはボフリの制圧で手一杯だ。

 エドガーはディアスを食い止めてくれているけれど、やはりディアスは強い。


 ザガンはポルカが見張っているが、今のところ動きはないようだ。


 フルーレは、まだ悪足掻きをしているようだけれど、ジャックさんを相手にできるような魔物はもう出せないらしい。

 ウルフは先程まで戦っていた獣を撫でると、召喚を解除した。


 メフィルが召喚した大きな虫はまだ生きているが、既に全身がボロボロでじきに倒されるだろう。

 しかし相当強かったらしく、ジェラルドは魔力切れとなりオークも傷だらけだ。


「皆殿、助太刀致す!」

「もう魔法は使えませんが、私も!」


 ビートとヴェロニカが、武器を構えて蛇霊に攻撃を仕掛ける。


「ありがとうビート、ヴェロニカ!」


 私は二人にそう言うと、サーナの方に目を向けた。


「サーナ、力を貸して!」


「え、あ、アタシ……うん」


 サーナはホロクロウズを強く握り、私と共にメフィルの元へと向かう。

 とてもシャロ一人で敵う相手ではない。

 けれど、恐らく対抗手段はある。


 メフィルの魔法が効かなかったアイネクレストならば、ひょっとしたらメフィルを倒せるかもしれない。


「シャロ、何でもいいから魔法を使って!」


 そう叫んだ私を見て、シャロは若干戸惑ったような表情を見せる。

 彼女が使える魔法は一つしか無いけれど、もしもアレが発動さえ出来れば……

 その為の隙は、私とサーナが作ってみせる。

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