89.天空の騎士
ディアスがメフィルと通じていたなんて……
そんな……否、別におかしな事ではない。
一連の事件を仕組んだのが全てメフィルだとすれば、協力者であるディアスがルシュフさんを殺したのも納得がいく。
「お前、なんで……どうしてお前がここにいるの……!?」
サーナが剣を構え、ディアスにそう言い放った。
「友が困っているのだから、助けるのは当然だろう。初めから君もそうするべきだったのだ、サーナ・キャンベル」
「黙れ……黙れ、黙れええええ!」
メフィルの視界に入っているせいで、私もサーナも魔法が使えない。
今この場でディアスに攻撃されたら、私は確実に死ぬ。
隙を作らないと……何とか、何とか引き延ばせ……
「貴方とは話してみたい思っていたの、ディアス第一皇子。その剣が虚空剣ヴァニタス?」
私は未だ、ロードカリバーと鎬を削るほどの強い力でこちらに刃を向けた剣を見て、そうディアスに問い掛けた。
「よく知っているな、その通りだ。虚空剣ヴァニタスはその刃で斬ったもの全てを無に帰す。それが例え強力な魔法であろうとも、全ては虚しく消し去ってしまうのだよ」
だから剣がぶつかった時、アンダーワールドが消されたんだ。
「いやっ、離してっ!」
不意に声がした方を見ると、ボフリがサーナの腕を掴んで連れ去ろうとしていた。
「サーナッ!」
「よそ見をしている場合か?」
直後、私はディアスに強く押されて尻餅をつく。
「あなたの目的は何なの? サーナをどうするつもり?」
「我が国は古くより彼の恩恵を受けている。ワタシにとって、メフィルは友人だよ。だから助けるのは当然だ」
メフィルが、ずっと前からアイテール帝国を裏で支配していたということか?
だとしたら、ディアスも騙されているということなの?
「あなたはメフィルに騙されてる! こんな事をしたら、他国を敵に回すってことがわかってないの!?」
「ワタシは我が国以外の事など、心底どうでも良いのだよ。君の国のこともね、ベリィ・アン・バロル」
ああ、最低だ。
こんな奴が帝国の時期皇帝だなんて、信じたくはないな。
そうか、だから奴隷制度とかいって、人を苦しめるような事が出来るんだ。
「そもそも、我が国の兵力に他国が敵うはずがないだろう。そうだ、じきにワタシの率いるユニコーンナイツが此処にもやって来る。他国からの侵入者は、我々で裁くとしよう」
ユニコーンナイツ、聞いた事がある。
アイテール帝国最高戦力である、100頭ものユニコーンに乗って現れると言われている精鋭騎士団だ。
まずい、そうなる前に早くサーナを助けないと……
「くっ、ヘルスワンプ!」
私は咄嗟にメフィルの視界から遮られた場所に移動し、ディアスの足元に聖剣魔法を放った。
サーナを掴んでいたボフリは、バーンとルーク、そしてサラマンダーによって引き剥がされ、未だ戦闘は続いている。
血の泥濘に足を取られている今のうちに、サーナを助けて……
「剛翼円舞!」
刹那、凄まじい暴風が巻き起こったかと思えば、血溜まり諸共吹き飛ばしながらディアスが宙へと舞い上がった。
何だ、あの魔法は……
「この程度の子供騙しで、ワタシを止められると思うな!」
途轍もない魔力だ。
これがアイテール帝国の最高戦力、ユニコーンナイツ団長の実力……
「さあ、死にたくなければ降参しろ」
「……嫌だ」
私はディアスに向けて剣を構え、どうにかして魔法を発動する為に必死で力を込める。
駄目だ、奴の視界に入っている限り出来るわけもない。
「そうか、少し躾が必要だな。プリズムスラスト!」
剣先を向けたディアスが、再び激しい暴風と共に舞い上がる。
空は虹が掛かったかのようにキラキラと輝き、その光を纏った剣がこちらへと迫って来ていた。
向こうには魔王のツノが無いのに、凄い威圧感が放たれているように感じてしまう。
もう、駄目だ……
「エンジェオウド!」
……その一瞬で、辺り一面が光と静寂に包まれる。
今の詠唱は何?
この光は……
咄嗟に周囲を見渡すと、ディアスもボフリもメフィルも、空から伸びた光の手によって掴まれていた。
まさか……光魔法?
「遅れてすまない!」
空を見上げると、光り輝く剣を手にした……まさに、そこには勇者が居た。
「勇者エドガー・レトリーブ、只今戻った。輝け、光竜剣ルミナセイバー!」
そうして煌々と輝きを放った光は、今までに見た何よりも眩しいものだった。