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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
115/220

88.満開交響曲

 ギシギシと音を立てて動く血塗れの人形は、既に動けるのが不思議なほどボロボロな状態だ。

 初めは驚いたけれど、動きに慣れれば対処できる。


「ヘルスワンプ!」


 血溜まりの底なし沼に足を取られた人形に、透かさず止めの一撃を与える。


「インフェルノハデシス!」


 人形の首を炎の刃で焼き切り、落ちた頭と胴体は僅かに動きながら沼へと沈んでいった。


「ベリィさん!」


 こちらにやって来たルカは、私が人形を倒したことを確認すると、直ぐにメフィルの方に視線を向ける。


「ルカ、まだ戦える?」


「勿論です、どうしますか?」


 依然としてメフィルは倒されず、奴に向けられた魔法は尽く抹消されてしまう。

 時折攻撃が当たったとしても、それは上位治癒によって直ぐに再生する。

 ビートとルカの毒が作ってくれた綻びへ、確実に強力な攻撃を与える必要が有りそうだ。


「作戦通り、手数を増やして奴の気を引こう」


「わかりました」


 その作戦とは、前日の会議にて決まった事である。


「メフィル・ロロの実力は未知数です。もしも奇襲が失敗した場合、魔力阻害から外れた状態で魔法を発動し、一撃で倒す事が必要となってきます」


 作戦指揮のヴェロニカは、そう言って腰に携えたレイブロッサムに手を当てた。


「そうなった場合、皆様にはメフィル・ロロの気を引いて頂きたいのです。その隙に私がウルティマを使います」


 ヴェロニカもウルティマが使える事を、この時に初めて知った。

 膨大な魔力を消費してしまうウルティマは、一発で確実に決めなければならない。


 だからこそ、ヴェロニカにメフィルの魔力阻害が及ばないよう、私達が全力でサポートするんだ。


「ハイドロスラスト!」

「水刃!」

「法陣展開……!」


 三人に分身したディーネが、同時にメフィルへと攻撃を仕掛ける。

 本体であろうディーネはウルティマの構築を試みたようだけれど、それは魔力阻害によって防がれた。

 そうして水刃は防がれ、ハイドロスラストという刺突攻撃魔法は直撃したものの、急所を外れている。


「邪魔なんですよ、特にあなたは」


 分身の影を刺され、一人になったディーネにメフィルの手が伸びて行く。


「ブレイジングヒート!」


 すぐさま助けに入ったサラマンダーだったけれど、今度は彼の魔法が阻害されてしまった。


「ディーネ、離れろ!」


「サラマンダー……!」


 サラマンダーはメフィルに捕まり、地面に叩き付けられるとそのままナイフで影を刺された。

 まずい、影を刺されたら……!


「あなたはまだ殺しませんよ? そこでゆっくり見ていてください」


 そうか、どうやら影を軽く刺されただけでは消滅しないらしい。

 その代わり、サラマンダーは地面から動けなくなっている。


「クソッ、固定されたかっ!」


 サラマンダーを助けるのが先か……否、確実にメフィルを倒すのが先だ。


「インフェルノアビシアス!」

「ブラッドロウル・サーベル!」


 今度は私とルカで攻撃をしたけれど、それも寸前で阻害されてしまった。

 ルカが生成した剣は一瞬でただの血に戻り、そのまま地面へとこぼれ落ちる。


「お邪魔ですねぇ、ベリィ様」


 メフィルはかなり苛立っている様子だ。

 攻撃は効かずとも、こちらに気を逸らしてくれるならばそれで良い。


「黙れ、お前だけは絶対に許さない!」


 私がそう言い終えるのと同時に、メフィルの腹部に氷の槍が突き刺さり、そこから広がった氷によって奴の身体は凍り付いた。


「アイススピア、オレは氷魔法には自信あるんだよ。なあメフィル、アンタには沢山世話になったよ。本当に……本当にあの時のお前は、全部嘘だったってのか!?」


「私もウールさんにはお世話になりました。あなたとは、とても仕事がし易かったので」


「クソがああああ!」


 その隙にルカはサラマンダーの影からナイフを抜き、更に続けて二人が攻撃を仕掛ける。


「ブラッドロウル……」

「フレイミング……」


「何度やっても無駄ですよ。いい加減諦めてください、この程度の拘束も、あなた方の攻撃も、全く持って無意味だ」


 ルカとサラマンダーの攻撃が阻害され、更にはウールの氷による拘束も壊された。

 背後からはディーネによる聖剣魔法。

 次にメフィルが視線を向けるのは、確実にディーネの方だ。


 次の瞬間、その詠唱は辺りに静寂を(もたら)す。


「法陣展開、満開に奏でよ———」


 メフィルがそれに気付いた時、既にヴェロニカの周囲を満開の花々に彩られた薄紅色の法陣が囲っていた。


 ウルティマは構築に時間が掛かるけれど、法陣さえ展開させてしまえば後は発動するだけだ。

 メフィルが焦った様子で視線を向ける中、ヴェロニカは遂にその名を力強く口にした。


「ブロッサムシンフォニー!」


 静寂(しじま)を裂くように花吹雪が舞い上がり、大地には色とりどりの花々が咲き乱れる。


「第一楽章・シラユリ」


 そうして目映い光と共に放たれた一突きは、メフィルに到達すると大きな音を立てて白い花びらを散らす。


「第二楽章・レンゴク」


 続けて放たれた魔法は、まるで燃え盛る炎のようだった。

 赤いリコリスの花弁だろう。


 これが乱咲剣レイブロッサムのウルティマ……

 不意に、あの日に見た刻星剣ホロクラウスのソワレを思い出す。


「第三楽章・アオバラ」


 宙に舞った青い薔薇の花弁が、無数の針となって一斉にメフィルへと向かって行く。


「フィナーレ・サクラカゼ!」


 薄紅色の花弁が舞い上がった空は、さながらダンスを踊っているかのように見える。

 それら全てを指揮者のように奏でるヴェロニカが、メフィルに向けて最後の突きを放った。


 暖かい光の中、舞った花弁の中には……


 メフィルが……まだ生きている!?


「いやぁ、驚きましたよ。直撃していれば確実に終わりでした」


 あの一瞬で、ヴェロニカのウルティマをどうやって防いだのだろうか?


「第一禁断魔法カース・オブ・ダークネスは、生物のみならず物や魔法にも作用します。ウルティマを相手にするのはギリギリでしたが、何とか肉体を保つことが出来ました。蠱魔、今度はこちらをやりなさい」


 メフィルに呼び戻された蟲の魔物が、ウルフの使役する獣から離れてヴェロニカへと攻撃する。

 獣と蟲は互角だったようで、既にお互いボロボロだ。


「そんなっ……どうしよう、魔力が!」


 まずい、ヴェロニカはウルティマを使って魔力切れだ。

 誰か、あの蟲を止めないと……!


「グオオオオオオォ!」


 直後、ヴェロニカと蟲の間に何者かが割って入り、それは大きな斧で蟲の脚を一本切り落とした。


 メフィルの仲間だったオークだ。

 どうしてヴェロニカを助けて……?


「ゴルゴンさん!」


「オデ、オマエに家族を守ってもらう約束、した。だから、オマエ、守る!」


 あのオークもメフィルに利用されていただけだったんだ。

 ヴェロニカは、彼の心を救ったんだね。


「でかしたぞ、ゴルゴン殿! 俺も助太刀する!」


 続いてジェラルドが後ろから蟲を斬り、ゴルゴンに加勢した。


「使えないゴミですね、まあいいでしょう。あなた方はそろそろ限界のはずです。これで終わりにしましょうか。第四禁断魔法……」


 もう勝ったつもりでいるのか。

 どうやらメフィルは忘れているらしい。


 否、そもそも眼中に無かったのかもしれない。


 魔力無制限で、ウルティマが使える“私”という存在が。


 作戦会議で、ヴェロニカの魔法が何らかの方法で防がれるか、攻撃に耐えた場合のプランも話し合っていた。


 そこで私がウルティマを使うことを提案したのだ。


 ルーナの補助もあるおかげで、あの時程では無いけれど出力も安定している。

 ずっと私から目を逸らしてくれていたおかげで、漸く構築が済んだ。


 これで、終わりだ。


「法陣展開、常闇に染め上げろ———」


 周囲は黒いモヤがかかったかのように暗くなり、私の足元に法陣が現れる。


「何っ!?」


 メフィルがこちらに目を向けようとしているが、もう遅い。


「アンダーワールドッ!」


 完全な領域も構築されていないし、魔法の威力もあの時には遠く及ばない。

 不完全だ。


 けどこれで良い。


 ヴェロニカのおかげでさらに広がった綻びは、あと一撃で確実に破壊できる!


「メフィルーーーーッ!」


 私はこれまでの怒り全てを剣に込め、全力でメフィルへと斬り掛かった。


 瞬間、私の剣は何者かによって受け止められ、辺りを包んでいたウルティマの領域が消滅する。


 そんな……どうしてウルティマが!?


「困るんだよ、今倒されてしまっては」


 白く輝く鎧を身に纏った男が、私の前に立って剣を交えていた。

 男の傍にはユニコーンがおり、(くら)が着いているという事はこれに乗って来たのだろう。

 そんな事はどうでもいい、コイツは何者なんだ?


「遅かったですねぇ、ディアス」


 メフィルは先程までの険しい表情とは打って変わり、笑顔でそう彼に言った。


 ディアス……?

 そんな、あのディアス・エヌ・アイテールだと!?


 アイテール帝国第一皇子、サーナの父であるルシュフさんを殺した張本人……


「初めましてかな、ベリィ・アン・バロル」


 その圧倒的な存在感に、私は思わず足が竦んでしまった。

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