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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
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86.乱咲の譜面

 気付けば、メフィルから距離を離されてしまっていた。

 目の前で暴れ狂うオークは、魔力の籠った防具を身に付けている。


「グオオオオオオ! なんで、バーンが裏切ったんダアアアア!」


 バーンさんは創星教への潜入中、このオークと親しくしていたらしい。

 気の毒だけれど、今は大人しくして頂くしかない。


「コブラスティング!」

「フラワーラプソディ!」


 私の魔法は盾で防がれ、ジェラルドさんの魔法は鎧が邪魔で上手く通らない。


「ヴェロニカ殿! どうにかして奴の鎧を破壊出来ませんか!?」


 とは言われても、私一人の力ではどうにもならない。

 今はまだ魔力を温存しなければならないし、そう何度も聖剣魔法を使ってしまうと魔力が切れてしまう。


「同時に攻撃致しましょう! 彼を拘束してください!」


「了解した! アナコンダスクイーズ!」


 ジェラルドさんの魔法で締め上げられたオークは、酷く苦しそうな声を上げている。


「ボアコンストリクター!」


 更に魔法を重ねたにも関わらず、その鎧はびくともしない。


「咲かせます、リリーコンチェルト!」


 白い百合の花弁が舞い踊る中、たった一枚の赤い百合の花が鎧の一部に落ちて行く。

 ジェラルドさんの魔法によって出来た、鎧の最も脆くなる場所……


「そこ、ですね」


 花弁が落ちると同時に、私はその箇所にレイブロッサムの剣先を当てる。


 そうして一部のみ砕けた鎧に、すかさずジェラルドさんは次の攻撃を入れようとした。


「コブラスティング!」


「邪魔だ、邪魔ダアアアア!」


 しかし直後に暴れ出したオークが持っていた斧と盾を振り回し、まるで近寄れそうにない。


「タイミングを逃したか……」


「狙える隙間は出来ました、まだ機会はあります」


 とは言ったものの、私が魔法を使える限度は残り一回ほど。

 あとは温存しておかなければならない。


「私が彼の気を引き付けます。その間に攻撃を」


「了解しました」


 出来る限り魔法は使わないように、少しでも気を引くことが出来れば……!


「オオオオオオオオ!」


「私がお相手致します! さあ、かかって来なさい!」


 動きは私のほうが速いけれど、あのオークは一振りの幅が大きい。


「邪魔をするなァ!」


 あまり距離を取り過ぎずに、尚且つジェラルドさんが狙える隙を作る。


 オークは相当怒っている様子で、もはや斧だけでなく盾まで振り回し、防御をする気がまるで無い。

 鎧があるから必要無いってことかしら?


「人族の雌ごときがぁ!」


 私は一ヶ所を狙う必要は無い。

 何処かに必ず、一瞬でも動きを止められるような攻撃を当てることが出来れば……


 私は隙を見て、暴れ回るオークの頭上を飛び越える。


 あとは譜面通り演奏するのみ。


 背後に回り、一撃の聖剣魔法を発動する。


「ローズセレナーデ」


 そうして舞い上がった薔薇の花弁は、オークを四方八方から激しく切り付けた。


「グアアアアア!」


 これで隙が出来た。


「ジェラルドさん!」


「感謝する! コブラスティング!」


 ジェラルドさんの剣先が、オークの鎧が欠けた箇所に突き刺さる。


「俺の魔絞剣(まこうけん)コンストリクターは、蛇魔法特化型の特注品だ。魔力により生成された毒を、一瞬で貴様の体内に流し込むことが出来る。魔王ローグのミメシスと戦った際に破壊されたが、更に改良して作り直して貰ったのだ」


 その毒は一瞬で効き始めたようで、ジェラルドさんがオークは皮膚から剣を引き抜かれた直後に倒れ、苦しみ悶え始めた。


「オオオ……貴様、何を……」


 このオーク、始末するべきか?

 敵とは言え、ただ利用されているだけの者を殺すのはあまりにも……


「貴方のお名前は、ありますでしょうか?」


「……ゴルゴン」


 ゴルゴン、やはり名前を持っている魔物。

 オークと言えど、これ程の力を持っているのだから、何者かに名付けをされた可能性は考えていた。

 そうして、名付けの親は恐らく……メフィル・ロロ。


「ゴルゴンさん、貴方を保護します。メフィルに利用されているだけなのでしょう?」


「ヴェロニカ殿、何を!?」


「彼は被害者です。何か事情があって協力しているのであれば、我々が助けるべきです」


 戦っている時の彼の目は憎悪に満ちていたけれど、それは私達だけに向けられた物のようには見えなかった。

 彼は悪い魔物では無い。

 救える命が目の前にあるならば、私は迷わず救いたいと思っている。


「オ、オデ……家族が……危ない……守らなければ」


 まさか、家族を使って脅されているの?

 何てことを……否、相手はあの魔王ローグ様を暗殺するような者。

 何をしても不思議ではない。


「でしたら、貴方のご家族もお守り致します。ゴルゴンさん、こんな事はもうやめましょう」


「無駄、だ……メフィル、逆らえない……家族が……」


 簡単には信用してもらえないと分かっている。

 だから……


「ならば、メフィル・ロロを倒せば良いのですね?」


 今のメフィルは本体ではなく、あくまで仮の肉体を使っているに過ぎない。

 アレを倒したところで解決した事にはならないけれど、ゴルゴンさんのご家族を守る為の時間稼ぎ程度にはなるはず。


「そんな……無理だ……」


「大丈夫です、我々にお任せください」


 私は再び乱咲剣レイブロッサムを強く握り、メフィル・ロロに視線を向けた。

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