幕間 緑青の一等星
果たして俺がこの席に相応しいのか、あの日からずっと悩んでいた。
「ジャックさん、私にもしもの事があったら、自警団は頼んだぞっ!」
あの人の言葉は、どういう訳かいつも未来に起こる事柄を示唆しているように聞こえる。
この時もそうだった。
あの人は自分の死に場所を、知っていたのかもしれない。
元々騎士の生まれではなく、小さな村で農民の子として生まれた俺は、幼い頃から騎士になる事への憧れを抱いていた。
無論、周囲は俺のことを笑ったが、諦めずにシリウスの学舎へと入学するまでに漕ぎ着けた。
しかし、現実は厳しかった。
やはり農民である俺は周囲に馴染めず、田舎の下級市民であることを見下されながら学舎生活を送っていた。
そうして遂には騎士になることは叶わず、自警団に入るまではシリウスの鍛冶屋で働いていたのだが……
俺はまだ、騎士として人々を守る事を諦めてはいなかった。
そうさせてくれた男が、学舎で周囲に馴染めず夢を諦めかけていた俺に、こう言ってくれたのだ。
「良い腕をしているな。お前のような者が、騎士団を率いてくれればいいのだが」
あれは聖騎士団の任務に同行した際に言われた言葉だった。
当時まだ若かったあの人は、もうあの時自分が言った言葉を覚えていないだろう。
恐らく、あの頃の若者が俺だという事も忘れているはずだ。
だが俺は、今日までずっとその言葉に支えられながら生きてきた。
そして、これからも……
ジェラルドさん、あなたは俺にとっての英雄だ。
「スピアリーファ!」
フルーレが召喚する無数の魔物に向け、緑の槍を拡散させて放つ。
倒しても倒してもキリがない。
だが俺は託されたのだ。
シリウスの鍛治屋にいた俺を誘ってくれたのは、まだ若い女性だった。
何度かこの店に来ていた為、顔見知りではあったのだが、まさかこんな事を誘われるだなんて思ってもみなかった。
「私設軍隊を作りたいんですけど、手伝ってくれません?」
女性は無邪気そうな笑顔でそう言った。
簡単に言うが、話を聞けば諸々の準備は済ませてあるらしい。
若いのに凄い人だと感心したが、それ以上に俺は嬉しかった。
騎士ではないが、人々を守る役割が自分にも与えられるのだ。
「勿論です」
二つ返事で引き受けた俺は、それから間も無くしてその女性、リタさんと共にシリウス自警団を立ち上げた。
それからリタさんの弟さんであるルークと、その友人のバーンが入り、エドガー、ウルフ、シルビアも入った自警団は賑やかになった。
更にベリィさんや多くの人達が自警団と関わりを持つようになって、最近では遂に魔族のウールまでもが自警団の仲間入りを果たしたのだから、ある意味これは大きな第一歩なのかもしれない。
種族関係なく、共に助け合っていける世の中か。
いつからか、リタさんはそんな世界を目指すようになっていたな。
団長を任されたからには、俺がその夢を引き継いで見せよう。