幕間 化け狐
「いや~、やめといたほうが良いっすよ。この身体になったら、もう二度と人には戻れなくなるんで」
俺は忠告した。
「キミが人の心を失っていないのだから平気だろう。それに、ワタシはもう覚悟を決めているんだ」
そんな簡単に人を捨てるな。
「人の心? 俺に? いや、こっちは仲間と妹捨ててブライトさんに協力してるんすよ。超残酷じゃないっすか?」
「キミ、本当は優しいんだろう。最近よく話すようになって分かったよ。そんなキミがなぜ皆を裏切ってこちら側にいるのか、深くは詮索しないけれどね」
そんな事はどうでもいい。
アンタは人を捨てたら駄目だ。
アンタのことを慕っている奴も、リタさんだってきっと悲しむ。
俺と同じ苦しみを味わって欲しくない。
だから忠告したんだ。
アンタが死んだら、創星教は……
「バーン、ど、どうした?」
おっといけない。
敵地でこんな顔をしていたら、俺の計画がバレる可能性があるからな。
「よぉ、ゴルゴン。何でもねーよ」
心配そうにこちらを見つめるゴルゴンに、俺は笑顔でそう返した。
コイツはオークだが、高い戦闘能力を持つ創星教のメンバーだ。
純粋なやつで、敵とは思えないほどに優しい。
「そ、そうか。お、オデは、時々オマエが寂しそうな顔をしているのが、心配だ」
「そんなん気にすることねーよ。俺はただ人生が楽しけりゃそれで良い。今は楽しいぜ? メフィルさんはすげーからなぁ。あの方がテッペンになれば、俺らも楽しい生活し放題だぜ?」
嘘が上手くなってしまったのは、嫌な事だな。
「そう、だろうか?」
「そうそう。さ、集会は明日なんだから、作業に戻ろうぜ」
もうじき、この教会で創星教の集会が開かれる。
その日、メフィルは壇上で女神サーナを信者達の前に出す。
狙うのはその瞬間だ。
俺は後から合流し、メフィルの野郎が雇った用心棒を倒す。
メフィルが奴を雇ったのは本当に偶然だった。
因縁の相手だ。
一度顔を合わせたが、こっちが鬼人アモンに変身してるからなのか、向こうは俺があの頃のガキだってことに気付かなかった。
俺達の村を燃やした奴の顔を、忘れるわけが無いだろう。
そうして、ついにその瞬間が来た。
「シリウス自警団、バーン・フォクシーだ。地獄の業火に焼かれろ、クソ野郎」
目の前には奴がいる。
あの時、幼い俺が倒せなかった因縁の……
ボフリ、故郷のアンセル村を襲った盗賊のリーダーだ。
「へぇ〜、なるほどなぁ。そんな化け物になってたのか」
「バ、バーン……」
あーあ、ゴルゴンが衝撃の余り口が開きっぱなしだ。
お前は優しいからな。
だが、どこまで行っても俺はこっち側の人間なんだよ。
「バーン・フォクシー、裏切りましたか」
何言ってんだメフィルの野郎?
「裏切るってなんだ? 俺は最初からテメェらの仲間なんかじゃねーよ」
用心深いくせに、今日まで俺を信じてくれてたことが意外だった。
否、そもそも眼中に無かったのかもな。
だがおかげで勝機が作れた。
反撃するぞ、みんな。