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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
108/220

83.魔王と女神

 攻めないと……攻め続けるんだ!


「エタニティフォグ!」


 霧魔法によって一時的にメフィルの視界から自分を外し、その隙に死角へと入って攻撃する。


「イレジスト、サイコジェット、インフェルノハデシス!」


 業火を纏った刃を全力で振るい、メフィルの身体に出来た綻びを狙う。


「イミテーション・エタニティフォグ、ブラッドロウル……」


 突如視界が遮られた私は、危険を感じて即座に自身とルーナを反重力結界で覆う。


「アンチグラビロウル・フルカウル!」


「バレット」


 飛んできたのは血の弾丸……ルカのものでは無い。

 ルカの操血魔法をコピーしたサーナのものだ。


「サーナ、どうして邪魔するの!? メフィルに脅されてる? 一体何があったの!?」


 サーナは俯いたまま、私の顔を見ようとしない。


「お願い……もう関わらないで……」


 やっぱり様子がおかしい。

 操られている感じでは無い。

 サーナはサーナなのに、ずっと塞ぎ込んでいるみたいで……


「ネビュラメイカ……!」


「っ! フィアード!」


 聖剣魔法ならば法陣の改竄は不可能……って、まずい、メフィルの視界に入って……


「そんな……!」


 魔法が使えず防御も出来ない状態で聖剣魔法を受けたらまずい。

 早く視界から逃れないと!


 ガツンッという、剣と盾が激しくぶつかり合う音が聞こえる。

 サーナの聖剣魔法を防いだのは、シャロのアイネクレストだった。


「サーナちゃん……! もうこれ以上サーナちゃんと戦いたくないよ! 大丈夫、アタシ達が絶対に守るから!」


 サーナはシャロの言葉にも一切耳を傾けず、次の攻撃の構えを取る。

 ジェラルド達のおかげで、今はメフィルの視界に私が入っていない。


「グリムオウド!」


 改竄防止を施した魔法で、その隙にサーナを捕まえる。

 話せばきっと分かってもらえるはずだ。

 サーナのことは絶対に助ける。

 だって、約束したんだから。


「アルターライズ……対策してるんだね」


「サーナ、何があったのか話して。私達が絶対に守るから」


 拘束されたサーナはその場に座り込み、私とシャロは彼女に目線を合わせる。


「サーナちゃん、大丈夫だよ」


 シャロの言葉で、サーナは少しだけ顔を上げた。

 彼女の目には少しだけ涙が滲んでいるように見える。


「む、無理だよ。アイツからは……逃れられないの……」


「どうして? 何か脅されてるの? 一緒に協力して、メフィルを倒せないかな?」


 私の問い掛けに、サーナは首を横に振るばかりだ。

 一体どうすれば……


「サーナ様、何をしておられるのですか? しっかり戦って頂かないと困りますよ」


 メフィルに気付かれた。

 まずい、魔法が……!


 魔力阻害によりグリムオウドが解除され、サーナの拘束が解ける。


「ご、ごめんね、ベリィ。ごめんね、シャーロット……アタシ、もう辛いのは嫌なの……」


 サーナから急速に強い魔力が放たれる。

 やっぱり、メフィルの魔力阻害は視界に入っている一部の者を対象から除外出来るんだ。


「ネビュラメイカ……」


 そんな……一体どうすれば……どうすればサーナを説得できるんだよ……!


「青嵐・銀狐一閃」


 聖剣魔法を発動しかけたサーナが、突然吹き飛ばされる。

 シルビアだ……!

 彼女の銀狐一閃は、魔力阻害の範囲外から踏み込めば、そのままの速度を保って移動出来る。

 吹き飛ばされたサーナは地面に倒れ込み、シルビアに押さえ付けられた。


「離してよっ……あなたは関係ないでしょ……!」


「関係あんだよっ! ベリィもシャロもあーしの友達なんだから、助けんのは当然だろ! お前もだよ、ベリィが友達のお前を助けたいからって来てんだから、あーしもお前を助けんのは当然なんだよ!」


 シルビアはそう言ってから咳き込み、サーナを解放して口から血を吐いた。

 まだ怪我が治ってないんだ。


「あーしは……マジで弱いし足手纏いでしかないけど、友達を見捨てようなんて出来ないんだよ。頼むから、ベリィのこと信じてあげてよ……!」


 シルビア……

 彼女の強い訴えが効いたのか、サーナは逡巡するように少し俯いた。

 いける、説得出来る!

 すかさず私も駆け寄り、サーナに声を掛けようとした。


「おう、良い感じに荒れてんじゃねーか」


 いつから居たのか、黒い服の男が戦場の中心に立っている。

 背は高く、無精髭を生やした黒髪の男だ。

 魔族だろうか……?

 ふと、こちらを見たときに私と目が合った。


「あー、テメェが魔王の娘ってやつか。メフィルさんよぉ、オレぁこんなのに勝てないぜ? しっかり魔力抑えといて貰わねーと」


「仮にも用心棒で雇ったのですから、しっかりと働いてくださいよ、ボフリさん」


 ボフリ……?

 一体何者なんだ?


「テメェ……なんでここに……」


 男の登場に続き、その声で辺りは一瞬だけ静かになる。

 それはまるで、嵐の前の静けさと言わんばかりに……

 言葉を発したのはシルビアだった。

 彼女はボフリという男を見て目を見開いていたが、直ぐに剣を握って素早く駆け出した。


「テメェがぁ! なんでここに居んだよぉ!!」


 メフィルの魔力阻害で魔法が使えていない。


「シルビア、駄目だ!」


 そう叫んだけれど、もう遅い。

 シルビアの攻撃は男に受け止められ、そのまま腹部を殴り飛ばされる。


「うっ、ぶはっ!」


 私はシャロにサーナを任せ、激しく吐血したシルビアに駆け寄ると、ボフリという男に向けてロードカリバーを構える。


「お前、何者なの?」


 ボフリは嫌な笑みを浮かべ、ボサボサと頭を掻いた。


「オレぁ人族と魔族のハーフだから、人に嫌われることが多くてよぉ。敵が多過ぎて、誰が誰だか分かんねえんだ。でも、そこのお前はよーく覚えてるぜ。アンセル村のガキだろ。なぁ、大きくなったじゃねぇか」


 人族と魔族のハーフだって?

 シルビアのことを知っている……?

 まさか……シルビアの言っていた盗賊は……


「だま、れ……テメェは、テメェは絶対に許さない……! 殺す、殺す殺してやるっ!」


 メフィルは視線を別方向に向けている。

 シルビアは魔力で無理やり身体を起こし、立ち上がってヒスイを構えた。


「ヒスイ、疾風斬り……!」


 無茶だ……!

 私も攻撃しないと!


「インフェルノハデシス!」


 肩に乗ったルーナが魔力を強めてくれているのか、今の私が出せる魔力は殆ど100%に近い。

 だから、メフィルの視界に入らなければ……


「第二禁断魔法、ブラッディドール」


 メフィルの詠唱!?

 突如として私の行手を遮ったのは、大きな血塗れの人形だった。

 ドールと表現したほうがいいのか、可愛らしい服を着ているけれど、それは赤黒い血に染まっている。

 腕は6本あり、それが余計に不気味だ。

 セシルのパペティアに似ているけれど、おそらく違うのだろう。


 業火の刃とドールの腕がぶつかると、まるで剣と剣がぶつかり合うような音が鳴り響いた。

 こいつ、硬い……!


 けれどまだ魔法は使える。

 もっと強く、斬れろ!


 剣の当たっていたドールの腕にヒビが入り、やがて激しい音を立てて砕け散った。

 その直後、私は振り下ろされたドールの腕に張り倒され、地面に叩きつけられる。


「いっ……!」


「キュイッ!」


 ルーナが私を心配している。

 まずい、早く動かないと……!


 ドールは続け様に腕を振り下ろし、私への攻撃をやめようとしない。

 今は逃げるんだ……


「ワームホール!」


 空間移動で少し離れた位置に移動し、シルビアのほうを見る。


 なに、あれ……

 シルビアはボフリの前に倒れており、ボフリの両手からは青い炎が燃え上がっている。


「可哀想によぉ、大きくなってからオレなんかの前に現れちまうから、こうして殺されちまうんだぜ?」


 シルビアが危ない……!

 早く、早く助けないと……誰か……!


 ドンッ……!

 と、地響きのような音と共に何者かが現れる。


 それはボフリを蹴り飛ばすと、シルビアを抱えてジャックの元に高速で移動した。


「頼みます」


 そう言って、その何者かがボフリに向けて歩き出す。

 その姿はまるで……オーガ?

 魔物なのか?

 否、オーガではない。

 どちらかと言うと、オーガが進化した鬼人に近いような……


「ッハハハァ! なんだお前、バケモンのくせにそっちの味方するってか? メフィルの仲間じゃなかったのかよ」


「そっかぁ、シルビアのことは覚えてんのに、俺のことは覚えてねえってか? なぁ、アンセルのガキだよ。こんな姿だから気付かなかったかぁ!?」


 鬼人のような男はそう言って再びボフリを殴り飛ばし、まるで威嚇するかのように全身から青い炎を噴き出した。

 あの炎、ボフリと同じ……?


「兄……ちゃん……!」


 シルビアの言葉に、鬼人の男はそちらを振り返った。


「ずっと会えなくてごめんな、シルビア。あとは任せろ」


 という事は、この人が……


「シリウス自警団、バーン・フォクシーだ。地獄の業火に焼かれろ、クソ野郎」

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