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魔王の娘は勇者になりたい。  作者: 井守まひろ
四霊/百花繚乱花嵐 編
103/220

79.帰国、決戦前日

 サーナ救出作戦まで残り5日となった日、私達はディーネとサラマンダーを連れてシリウスに帰って来た。


 ディーネ達は国が用意してくれた場所で泊まることになり、諸々の詳しい説明などを終えた私は、すっかり疲れ果ててその日の夜は爆睡してしまった。


 特訓の続きは、翌日から再開した。

 私はシルビアやルカ達と同じ訓練場で、シャロのことを鍛えつつ自身の魔法をより強力に発揮できるよう練習を続けている。


 魔力を全身に巡らせると、内側から湧き出すように外側を纏うような黒いオーラが自然と現れるようになった。

 感覚だけれど、グラトニュードラ戦で出した力が自分の100%なのだとすれば、今は80%近くの出力が出せている気がする。

 まだこの感覚に慣れなくて身体が痛くなるけれど、上手く使いこなせればウルティマも出せるかもしれない。


 みんなが力の底上げに勤しむ中、私はまだ自分の力を使いこなせてすらいないんだ。

 生まれながらに持っている魔王の力は強力だけれど、それが発揮出来なければ元も子もない。


 せめてリタと同等の力が出せるようにならないと、みんなの期待に応えられるような抑止力にはなれないのだから。


「お疲れ様、ベリィさん」


 不意に声を掛けられたかと思えば、ルークとジェラルドがパンの入ったバスケットを抱えてこちらに歩いてきていた。


「ルーク、ジェラルド、ありがとう」


 パンはいつものお店、パピーベーカリーのものだ。

 その良い匂いに釣られてか、奥のほうで特訓をしていたシルビアやブラスト、バーナ達もこちらへとやって来た。


「ルークさん、ジェラルド騎士団長、お疲れ様です!」


「わお、めっちゃ美味そう」


 ブラストは礼儀正しくて、バーナは一見怖そうだけれど話すと良い人、というのが私から見た二人の印象。

 実力もプラチナ級なのは頷けるし、本当に頼もしい人達だ。


「ベリィ殿の魔力が訓練場の外からでも分かったぞ。結界を張ってあるにも関わらず漏れ出す程とは、凄まじいな」


 ジェラルドはそう言って少しだけ笑顔を見せてくれた。

 けれど、それって近隣の方々を怖がらせてしまっているのではないか?


「私の魔力、威圧になってない? 周りの人とかは大丈夫なのかな?」


「強力な魔力だが、威圧は視認しない限り感じることはない。問題ないぞ」


 それならよかった。

 私の力で民を怖がらせるなんて事、絶対にしたくないから。


「おいヘビ団長、アンタが変なこと言うからベリィさんが気ぃ遣っちまうじゃないっすか。ベリィさん、訓練場の中では思いっきり暴れ回ってもいいからね」


「いや、そんな思いっきり……というかお前、それは俺のバケット……!」


「うるさいなぁ、ガキですか? バケットなら余分に買ってあるじゃないっすか」


「焼きたてだったんだ……まあ、うむ」


 ああ、ルークは相変わらずジェラルドのことが嫌いなんだな。

 二人のやりとりを見て、私はクスッと笑ってしまった。

 一周回って仲が良いような……


 それからも毎日、朝から夕方までひたすら特訓を続けていた。

 ある時は助っ人としてポルカが来てくれたり、ある時はシャロとバーナが戦ったり……


 バーナと戦ったことで、シャロの実力が既にプラチナ級へと達しているという事が分かった。


 基本的に互角ではあったのだが、同じ炎系の魔法が使えるとは言え、シャロはアイネクレストの魔法しか使えない上に、そもそも魔力がない。

 それを知った上で戦ったバーナは、自身の火焔拳・弾を純粋な力だけで受け止めたことに驚いていた。


「私の火焔拳が……ま、まじか……」


 少し落ち込んでしまったようなので


「シャロは私の剣も受け止めた事あるから」


 と、よく分からない慰めの言葉をかけたところ、それなら仕方ないと思ってくれたらしい。


 それともう一つ、嬉しかったことがある。


「キュイ〜!」


 ルーナと久々の再会だ。

 あの子が目を覚ましたのは、ポルカからの念話で話を聞いていた。

 ルーナに関してはまだ分からないことが多いけれど、ブライトの仮説が正しければこの子はサーナと同じ力を持っている。

 あまり負担をかけさせたくはない。

 けれど、ルーナも戦力としては非常にありがたいと思っている。

 何より、私の大切な友達だから。


 そうして、決戦の前日……


 この日は明日に備えて特訓は無し。

 自主的にしたい人は、作戦会議の後にという事になっている。


「それでは、明日のサーナさん救出作戦に向けての会議を始めます」


 メンバーは最初に行った会議のメンバーに加え、ブラスト、バーナ、ディーネ、サラマンダーも入っている。


 ディーネ達から得た新たな情報や、メフィルの弱点等も含めて話し合われたが、やはり最初は魔力無しでも十分に戦えるメンバーが奇襲を仕掛けることになった。


 仮に私が奇襲を仕掛けたとしても、魔力で察知されてしまえば阻害される可能性がある。


 そこで選ばれたのは、シャロ、ビート、シルビアの三人だ。

 魔力無しでプラチナ級相当の戦闘力を有するシャロならば申し分無いし、シルビアもビートに剣技を鍛えられたおかげで、魔力を使わずとも戦える技も身に付けたらしい。


 作戦指揮については、セシルの知恵の眼を活用しようという話だったけれど、彼女は自身が不在のカンパニュラもその力で守らなければならない。

 その為、こちらの作戦指揮は主にヴェロニカとジェラルド、ジャックの3名が行うことになり、セシルには最低限の監視と念話による情報共有のみをしてもらうことになった。


「本作戦の指揮を行うカンパニュラ騎士団長、ヴェロニカ・グリーンウッドです。お手元の資料にもある通り、えーっと……新作ケーキ……あっ、これ違っ……失礼いたしました。えーっと、これですね」


 ヴェロニカは普段から高潔で凛としたイメージの強い人だったけれど、関わっていくうちに結構可愛らしいミスをする人だと分かった。

 彼女の手元には、どこかから貰ってきたであろうスイーツ店のチラシがある。

 間違えて混ざっちゃってたんだろうな。

 この一瞬で場が一気に和んだ。


 それから入念に明日の作戦を話し合った後、特訓をしたい者は訓練場に行き、そのほかの者は家に戻ったり、その場に残った者は明日のことについて話し合ったりしていた。


 私はと言うと、その場に残りセシルと話をしている。


「そうですか、遂にウルティマを」


「うん。まだ不完全だけど、構築しようと思えば出来るようになったし、魔法さえ発動できれば確実にダメージを与えられると思う」


 メフィルの魔力阻害の対処法は、奴に見られない事だ。

 上手く気を逸らせば、背後からウルティマを構築する時間稼ぎも出来る。

 私は魔力に際限がないし、強力な攻撃を連続して出せるから、メフィルを倒す為には奴に隙を与えないようにしなければならない。


「うちのヴェロニカも、普段はドジっ子ですが実力は申し分無いので、頼ってあげてくださいね」


 セシルは自分の横に立つヴェロニカを見ると、可憐な笑顔でそう言った。


「セシル様っ……ドジってどう言う事ですか! 私はこれでも聖騎士団長で聖剣使いなんですケド〜」


 私はヴェロニカが腰に携えた剣に目を向けた。

 美しく彩られた柄の先に伸びる細長い刀身は、現在鞘の中に収められている。


「ヴェロニカ、復興の時も今回の作戦も、協力してくれてありがとう。頼りにしてます」


 彼女は私の言葉に、少し頬を赤らめて照れ笑いをした。


「そ、そんな〜、ベリィ様の頑張りに応えられるよう、精一杯努力致しますね!」


 私が頑張れたのはみんなのおかげだ。

 こちらこそ協力してくれた人達に応えられるよう、絶対にサーナを救うんだ。


「ベリィさん、変わりましたね」


 不意にセシルからそう言われたけれど、私には何の事だかさっぱり分からない。


「そ、そう?」


「ええ、初めてお会いした際には、もっと悲観的で引っ込み思案な方のようにお見受けしましたが、今のベリィさんは美しく輝いて見えます。やはりあなたは、天爵をお持ちの方ですね」


 そうか、言われてみれば以前の私はもっと後ろ向きだった気がする。

 それを変えてくれたのは……


「シャロやみんなのおかげだよ、勿論セシルもね。明日、よろしくお願いします」


「ええ、よろしくお願い致します」


 あの時に約束したんだ。

 何があっても私が守るって……


 だから今度こそ、必ず助けるからね。

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