第三話 出会い
扉を抜けると、そこは廊下だった。
確かに廊下だった。けど、僕の家の廊下は絶対にこんな風じゃない! だってこんな、まるでホテルじゃないか。扉を開けたり閉めたりしても、景色は変わることはなかった。
「気でも狂ったかい_」
僕は室内からの声を無視して、扉を閉めた。するとホテルの持つ、ゆったりとした、それなのにどこか緊張した、あの静けさが場を支配し始めた。あのにぎやかさが恋しくなるほどに、ここはしんとしている。
はっ、と出てきたところを振り返ると、ホテルの扉だった。この向こうに、僕の部屋があるだなんて、到底信じられない。廊下側だと重厚な木製、室内からだと一般的な材質、つまりこの扉は表裏で別物なのだ。扉を開けるとチープな蛍光灯の自室が輝いていて頭がくらくらする。
「おっ、戻ってきたんだね_」
僕はそっと扉を閉めた。
廊下には、ランプ型の照明が壁からにょきっと生えていて、薄暗い廊下をぼんやりと照らす。床には、幾何学な模様のカーペットが敷かれていて、特有の芳香がある。個人的にだけど、パソコン室とか、業務用の冷房に似てるかな。
この空気感、設備、中学生時代に訪れたホテルとよく似ている。いや、そのものだ。違いは、この廊下が、自室と対面の部屋だけで完結しているということだ。電車一両分の廊下である。
―――――――――― こんこん
向かいの廊下をノックする。返事なし。留守だろうか、それとも居留守だろうか。いずれにせよ、返事はなかった。ということで、残す扉は一つとなった。そう、この廊下の出口である。
廊下をすとんと分断する異質な白い壁。この壁のせいで廊下は二部屋という短さで完結している。この巨大な間仕切りの左端に、鉄扉が一枚、填め込まれている。体重を傾け、鍵はかかっていない。
「ひょっ!」
僕は仰天した。だって、まさか人が佇んでるとは思わないじゃないか。毛先でくるくると螺旋を描く優雅な髪、グラマラスな体系、はっきりとした眉と目鼻立ち。不安そうな顔で背を壁に預けている。
彼女は確か、隣のクラスの財閥の娘ではないか。今、話しかけたことはないけども、知っている人を見つけ小躍りしたい気分だった(相手を不安にさせそうなので自重した)。
「き、きみは」
「ふふふ」
彼女はフリル付きの袖からすくっと出た指先を口に当てた。その衣装はよくよく見ると、学校指定の制服をベースに改造したものなのである。改造といっても、フリル付きにもかかわらず、装飾過剰ではなく、むしろすっきりして見えるあたり、それなりの技術を持ってして作られた代物なのだろう。
さっと腕を出すと、自身も制服を着用していたらしい。夏にもかかわらず、冬服。ただ、室温的に、この服装が丁度よいようだ。と、そのとき、今が夏だなんて確証はないのだとよぎる。
「おはようございます。といっても、朝かどうかも定かではありませんが」
こんな状況でも、落ち着いた口調。ただ、不安定に揺れる目線が動揺を如実に伝えていた。目は口ほどに物を語るのである。
「君も、状況を把握していないのかい」