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↑ドクラク館の殺人↓  作者: タカギモリヤ
第一章 初日
12/13

第十一話 回収


 肝をつぶす。


「あら。わたくしの友人がお騒がせしました」


 と、眉をハの字に金持ちさん。振り返ると、入口の方に、あるクラスメイトが倒れていた。彼女は、皆より遅れて起きて来たらしい。


「この人を下ろしてやらないかい! もしかしたら、まだ助かるかもしれない!」


 ジャージ君は提案する。彼の言う通り、シャンデリアに首吊りする彼女は、仮死状態なのかもしれない。望み薄なのは、うっ血した顔色を見れば明らかだけれど、ただ、何もしないよりかはずっと後味が良いよね。


 男衆はやぐらを組む。


 丁度、運動会の要領で。ジャージの彼が、安全な塔の組み方を指南してくれた。三段に及ぶ、先細りの肉のピラミッド。立位で臨んでいるので三メートル以上ある。天井は五メートルだが、シャンデリアと少女の分、地上に近づいているので、この高さで十分だ。


「おい、危ないぞ。揺れるんじゃない」

「無茶を言うな。あんまりうるさいともっと揺らすぞ」


 野球君は、作家君に抗議する。


「やめてよ。上はもっと揺れるからさ」


 一番てっぺんの僕は、肝が冷える思いだった。下のしわ寄せが、上に成長しながら昇って来る。この高さから落ちたなら、打ち所が悪ければ死んでしまうだろう。


「早く外してほしいですな。おいら、もうつぶれそうです」


 一番下のヲタク君は今にも消え入りそうな声で求めた。彼は筋肉質ではないが、体重の関係から一番したにならざるを得なかったのだ。


「今、やってるって」


 さて、僕は足のない彼女を抱え込んで、どうにか固く食い込んだ首の縄を外す。ふわりと人の匂いがした。身体は固く冷たかった。まるで、人形のように死んだ瞬間を維持していた。

 そして、五人の不安定な梯子は、下から解体される。建築物の解体みたいに、垂直に地面へ吸い込まれるような崩落。


「見せて」


 不思議さんが前に出る。そして、彼女は手首を強く圧迫した。それが終わると、目や鼻、口、顎、胸部などを検分する。そういえば彼女は、科学の生物の授業だけ、飛びぬけて成績が良いのだった。


「死んでます」


 皆が察していたことが、彼女の確認を経て、ようやく確信に変わる。この人は死んでいるのだ。


「死んでから、どれくらい経過してるんだ」


 作家は彼女へ質問した。


「手足の先がやや柔らかい。死後八時間か、それ以下だと思うのですけど。もちろん、私は専門家ではないので、数字は正確ではないかもしれませんけど。蠅がいたら、もっときっぱりと言えるのですが」


 地図で確認する限り、この建築は密閉構造だ。なんといっても、窓がない。換気扇くらいはあるだろうが、それらしきものは、未だに確認できていない。


「なるほど、八時間は目安として考えるか。不都合が出れば、その都度、修正すればいい」


 広井さんは、ヲタク君を壁にして(確かに丁度いいのだけど)、おっかなびっくり死体を見物している。信じられない、という目つきで。


「死んでるの?」

「そうみたいでやんすな」


 ヲタク君は静かに手を合わせ、むにゃむにゃと何かを唱えた。どこの宗派かはわからないが、お経を言えるらしい。


「お前らは、先にここに来て、ただ見上げていたのか」


 責められた二人、稲崎さんと不思議さん。後者はソノォと、なんと言うべきか迷ってから、こういった。


「おろす手段がないと、思いまして」


 不思議さんの制服には、いろいろな缶バッチがくっついている。これに関しては元からそうだ。だから、僕やジャージ君と同じく、制服に変化がないパターンである。


「僕たちだって、二人だけなら、その場に居合わせても、この人を下すことは出来なかったはずだよね」


 と、僕は彼女をかばう。


「おい。死後八時間なら、こいつはどのみち助からなかったぜ」


 野球君も弁護する。


「いや、別に責めるつもりはなかったが。まあいい、そうとらえられてしまったのなら、すまなかった」


 と、物書きの彼は、さしてそうでもなさそうに謝罪した。結果、一番申し訳なさそうにしていたのは、謝られた彼女だった。


「しかし、自殺でないならだれが殺した。車いすを必要とする奴が、あのような高い位置で首をつれるはずがない」


 この文学士は自問自答する。


「作家君! 彼女は腕の力だけで、この装飾過多な壁をよじ登ったのかもしれない! 体に障害があると、ボルタリングが出来ないというのは、真っ黒な偏見だ!」


 壁には絵画、蝶が展翅された標本箱、ブラックバスのはく製(野球君の私物らしい)などがちりばめられている。これらに手をかけ、シャンデリアへ飛び移るのは、たとえ足があれど至難に思えるが。


「元をたどれば、この女が自殺でないというのは、お前の推理だろうが」


 作家は指摘した。そうだったっけ。言われてみれば、そんなような気もする。


「まあ、お前の意見も一理あるが、しかし、こいつの腕の筋肉はアスリートのそれとは真逆に見えるな」

「人間、気合があればなんでも出来るものだよ!」

「限度があるだろ。限度が」


 彼との問答に披露したのか、作家君は深いため息をついた。

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