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ショウの家で練習した件

今日はベースのショウ君の家にお邪魔します。どんな部屋なのかお楽しみに!

月曜日、快晴だった。スタジオ練習のあった土曜日の大雨がウソのように晴れていた。


バンドメンバーはみんな消化不良を起こしていたので、言葉少なめだった。


それで、昼休みにいつものプール前廊下に集まっても、何か議論するのではなく、ラジカセでトップオブザワールドを繰り返し聞いた。もう、ここ何日もずっとトップオブザワールドだけをリピートして聞いている。


この時の僕らは、世界で一番少年ナイフの「トップオブザワールド」を連続で聞いている高校生なのではないかと思い始めていた。


週末に必死で練習したので、僕もショウもなんとなく形になりかけているとメンバーに報告した。とは言え、二人とも自信はない。


それで、僕は放課後、ショウに一緒に二人で練習しようと持ちかけた。


「それなら、二人で一緒に帰って、僕の部屋で一緒に練習しようよ」とショウが言った。


ショウの家は僕の家から近いのでとても便利だ。その提案にすぐに同意した。


ちなみに、リョウコはこの後、アルバイトがあるらしい。何でも焼肉屋で働いており、接客をするのがとても楽しいとのこと。お店の新メニューが賄いとして出ることがあり、大変お得なバイトだと力説していた。僕も、ショウもポンタも、アルバイト経験がないので、リョウコが語る大人の世界がキラキラして見えた。


▲ショウの部屋 - ケーキの差し入れ


僕は家にギターだけ取りに行って、すぐにショウの家に行った。ショウの部屋はこざっぱりしていた。前に行った時は、結構ごちゃごちゃしていた気がするんだけど。


「ショウの部屋、ずいぶん片付いたね?」


「うん。片付けしたばかりだから、今日ケイタを呼ぼうと思ったんだ。」


なるほど。この点について、僕の部屋はいつも汚いから、何とも言えない。掃除について反省すべき点は多い。


「改めて見ると、この部屋、なかなかいいね。快適だね。」


だからと言って、僕は、人様の家に行って部屋のインテリアについてあれこれ語るほど、文化レベルが高いわけではないことを認めよう。それはショウも同じ気持ちのようだ。


「ありがとう。」


もともと口数が多い方ではないが、一言お礼を言っただけで、彼が部屋のインテリアのポイントについて語ることはなかった。


「それじゃ、練習しよっか。」


どちらともなく言う。そして、何度も何度も練習した。


しばらく経った頃、ショウの母親がやってきて、ケーキとオレンジジュースを出してくれた。一口食べて僕は叫んだ。


「あまーい、そして、おいしーい!ケーキ、ありがとうございました!」


ケーキを持ってきて、そのまま部屋に居座っていたショウの母親は、「どういたしまして」と言って笑って部屋を退出した。たぶん、僕がお礼を言うまで、ずっと一緒にいるつもりだったのだろう。ケーキが甘いのは事実で、ケーキが練習で疲れた身体を癒やしてくれた。



●天才になりたいかどうか?


「ところで、めちゃくちゃショックだったんだけど。」


オレンジジュースを飲みながら、僕が切り出す。


「あぁ、カートコバーンの自殺の件か?」


さすがは幼なじみのショウ、僕の言いたいことはだいたい分かっている。


「そう、そう。ニルヴァーナのカートコバーン、人気絶頂の今、なんで自殺なんかするのかな?」


「ニルヴァーナは天才だからな。常人にその気持ちは分からないね。」


「うん。本当。しかし、天才の生涯って本当短いよね。27歳だって。」


「ニルヴァーナ聞きたくなってきた。確かCD持ってたよね?流してよ。ニルヴァーナのセカンドアルバム『Nevermid』は後世に残る名盤だと思っていたけど、カートコバーンの自殺で決定的になったね。」


ショウは立ち上がってCDを再生した。そして僕に質問する。


「カートコバーンは、どうして自分で命を絶ったんだろう?どんな絶望があったんだろう?天才なのにね。」


「それは分からないけど、とにかく悲しい事だよね。天才だったなら、もっと他にやりようがあったのではないかと思うけど。でも、天才というのは常人には理解不能だから、それ故に孤独だったのかもね。」


激しく切ないカートコバーンの絶叫が部屋の空気をかき乱した。「天才が命をかけて作った曲だ。」と呟くと、激しい情熱と狂気が僕の心を揺さぶった。


それで、僕は何気ない質問を発した。


「ところで、僕ら17歳だから、カート・コバーンの死去の年齢27歳まであと10年か。10年後、僕ら何していると思う?」


「どうしているかな?その辺の大学出て、そこそこの企業に入って、サラリーマン?」


ショウは、ぼそっと何だか夢のない言い方をした。それで、僕はそんな言葉を打ち消した。


「何だよ、それ。僕ら、その頃には、メジャーデビューして、CD出してTVの歌番組に出たりしてるよ。それで、CMに出たりして、バンバン稼いでると思うよ。」


「わっ、それは良いね。夢がある。成功してお金持ちになったら、女子にもモテるね。」


「そうそう、可愛い女子にモテまくるだろうね、イヒヒヒ…」


僕らは急に下品な笑い声をあげて、妄想に妄想を重ねるのだった。しかし、それを打ち消すようにショウが言った。


「それでも、メジャーデビューして、世界的に売れて、女子にモテたとしても、27歳で死ぬのは嫌だな。」


「確かに、それは間違いない。そう思うと、僕ら天才じゃない方が良いのか?」


「とにかく、僕はおじいちゃん、おばあちゃんになっても、このメンバーでバンドやっていたいよ。」


「うんうん、孫がライブ見に来たりしてね。」


「いいね、孫に囲まれて、バンドやるなんて、楽しいだろうね?」


「そうだね。でも、孫の前に子供作らないとね。子供作るには奥さんが必要だけど…」


しばらくの沈黙の後、僕は尋ねた。


「ショウは、将来のお嫁さんにしても良いっていう女子クラスに居る?」


「うーん、どうだろう…」


ガタン!そのとき、部屋の外で何か物音がしたのだった。


「えっ、もしかして、ショウのお母さん、外で会話聞いてない?」


「まさか!」


ショウが立ち上がって扉を開けると、そこには誰も居なかった。しかし、キッチンでわざとらしく鼻歌を歌っているショウの母の姿があったのだった。





27歳で散ったニルヴァーナのカートコバーンは殺害されたという説もあるそうです。と言うのも、彼が自殺に使ったとされる銃からは指紋がひとつも検出されなかったそうです。いずれにしても、当時の天才ミュージシャンの死は世界中に衝撃を与え、今なお影響を与え続けてます。


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