表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

ケイタ、いつライブやるの?

新作はじめました。バンドの話です。

「ケイタ、いつライブやるの?」


母が僕に聞いてくる。僕は、嫌々答える。


「お母さん、先走りすぎ。まだメンバーが決まっただけだって。」


199x年、この春、高校2年生になった僕は、リビングのラジカセにお気に入りのカセットテープを入れて音量を大きめに変更して再生ボタンを押した。すると、ニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」が大音量で流れ出した。母は大音量にため息をついて、キッチンに去って行った。


母が居なくなったのを確認して、ギターを取り出した僕は、肌触りの良い布でギターを綺麗に磨きだした。「ついにみんなでバンドができる!」ギターを磨いている時間、期待で胸がいっぱいになっていく。


それなりに長い時間かけて、ギターを磨いたあと、音楽を止めてギターをチューニングした。初心者にチューニングは難しい。もちろん、音感なんて当てにならないから、エレキギターのチューニングが簡単にできるギター専用のギターチューナーを使うのだけど。


ギターとチューナーをケーブルでつないで一弦ずつ弾いていく。するとメーターが揺れるので、メーターがちょうど中央になるようにペグを微調整する。そんなに難しい作業ではないんだけど、なんかうまくできないことがある。ぴったりに合わせたつもりなのに、実際に弾いてみると、なんか違う音が鳴るときがある。


「むー。」


僕は唸って、もう一度上の弦から順にチューニングを始めた。


●翌朝の学校


僕はジンジンと痛む左手の指でギターのフレットを押さえる練習しながら、学校の教室に入った。


そして、窓際で静かに座り外を眺めているショウを見つけて声を掛けた。


「ショウ、おはよう。」


「あ、ケイタか。おはよう。今日も眠たいな。」


「何だよ、今日も寝不足なの?ベースの練習してたのか?」


「そうだよ。ケイタ、お前も練習してただろ?」


「もちろん!」


そして、僕らはニヤリと笑い合った。そして僕は言った。


「『情熱の薔薇』なら簡単そうだから、我々の一曲目に良いって思ったけど、やってみるとなかなか難しいよな。」


「そうそう、聞くと演奏するのではぜんぜん違う。」


「ふーむ。まずは、豊橋一番を狙っていたけど、先は長そうだ。」


「何言ってるんだ、余裕だよ。余裕。こんな小さな場所で一番なんて余裕だよ。豊橋中のバンド全部ぶっ潰してやるよ。」


僕が大声で気合いを奮い立たせていると、後ろからボーカルのリョウコがやってきた。


「ははは。良いねー。実力も何もないのに勢いだけは一人前だね。今度のバンド練習が楽しみだよ。」


「えっと、今度の土曜、南栄のシライミュージック集合だったよね?」


ベースのショウがみんなに確認する。それに、リョウコが答える。


「そうだよ、絶対忘れるなよ?」


▲土曜日の朝


僕は緊張していたのか、いつもより早く起きてしまった。


それで、自分の部屋で、バンドの一曲目「情熱の薔薇」を何度もリピート再生していた。リピート再生って言っても、両面20分(片面10分)のカセットテープに、レンタルCDショップで借りたシングルCDを何度も録音したものだ。もちろん、ぴったりにならないから、片面4回目の最初の方で曲が途切れてしまう。でも、そんなの、ぜんぜん気にならなかった。


気になるのは、今日の練習、みんなでしっかり合わせることができるか否か、それだけが心配だった。


何度も何度も練習した。左手の指がジンジン痛むのがその証しだ。バンド結成して、曲決めしてから、一日も練習を欠かしていない。


そして、指が痛いから、もうスタジオ練習に備えて、実際にギターには触らない。曲を大音量で流しながら、ギターのコード符とにらめっこしていた。


▲練習スタジオのある楽器店にて


「うわー、危ない。時間忘れてイメトレしていた。」


僕は、危うく約束の11時に遅れそうだった。自転車を全速力で漕いで今日の練習スタジオのシライミュージックに向かった。


僕がゼイゼイ荒い息でスタジオ併設の楽器店に入ると、ベースのショウとボーカルのリョウコはもう着いて二人で店内をうろうろしていた。そして、時間になったので、店員に声を掛けてスタジオに入る。


「わー、これが憧れの練習スタジオかー、ヤバイ、ヤバいよね、絶対ヤバイ。」


リョウコは、スタジオに入るとテンションマックスになっていた。普段寡黙なショウでさえ、「うわー」とか「おぉー」とか唸っていた。


僕はそんな二人を見て「おいおい、はしゃぎすぎだろ?」と言いつつも、自分の心臓がバクバクして、それを抑えることができなかった。


僕はさっそくエレキギターをギターケースから出して、ギターアンプ(ギター用のスピーカー)に接続した。電源を入れると「ぷちっ」と謎の音が鳴った。スゴイ、これが憧れていたマーシャルのギターアンプか。


しかし、肝心の音が鳴らない。あれ?アンプについている、いろいろなつまみをねじってみる。すると、突然大音量で「ガガガー」とギターが鳴った。スゴイ、これが僕がマーシャルでかき鳴らす最初の音なんだ。心のレコーダーに一生記録されるだろう。


その後、少ししてショウのベースの音も聞こえてきた。ブブーン、ブーンと下半身を揺らす大音量だ。良い!すごく良い音だ。


二人の音が鳴り出した頃、ボーカルのリョウコも「あー」とか「うー」とかアンプから音を出すことができたようだった。これで準備万端だ。


いよいよ始まる!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ