とある聖女の物語~「祝」転じて「呪」となる~
ある村のある家の夜
「おかあさーん、なんかお話ししてー」
「えー、毎晩お話ししているから、お母さんもストックがなくなってきちゃったわ。どうしようかしら」
「おかあさんの話面白いんだもん。どんな本にも書いてないんだよ!」
「うーん、そうねぇ。じゃあとっておきの話が一つあるのだけどそれにしましょうか。
「本当!?やったあー!はやくはやく!」
「はいはい、それじゃあはじめますよ。これは昔のお話でね...」
以前、レイアスという名前の国があったわ。そこの国はそれはそれは豊かな国で、農作物もよくとれるし、気候もよく、精強な軍もあってものすごく大きな国だったの。
その理由に、その国は「聖女」という存在がいたから豊かであったとされているのよ。あなたも知っているとおり、この世界では土地に人が集まりすぎると「汚染」という状態になり、「魔物」という怪物が出てくるわ。それは人々を脅かし、一カ所の土地に人が集まれないため、どうしても発展するためには時間が必要だったの。
でも、あるときからレイアス国には聖女が現れるようになったの。ある若い女性が10年ごとに交代制で任命されるのだけど、彼女たちは「祝歌」を歌えたの。それは一晩中歌い続けることで、汚染を浄化して、しばらく汚染されない土地を作ることができるの。もちろん一晩中歌うのだから、その疲労はすごかったわ。
さらに汚染されない土地なんて、あればあるだけよいのだから、自国はもちろん、他の国にも莫大な報酬をレイアス国に支払うことと引き換えに、「祝歌」を聖女に歌ってもらっていたのよ。
聖女に選ばれるのは若い女性なのだけど、幼い頃から厳しい訓練を課せられたのよ。聖女になるための秘伝の儀式と一緒に、聖女としての慈愛なんだのを詰め込むように教えられたわ。だから、聖女はいつもニコニコ笑っているわ。まあ、そんなこともあって、聖女は任を解かれるとどこか知らないところでひっそりと暮らしていると言われているわ。解任された聖女を見たことをあるひとがいないから、実際はわからないのだけどね。
ちなみに聖女は一人しか存在しえないわ。なんでも、大きな力が2つ存在するとぶつかり合うからとかだった気がするけどよく覚えてないわ。え?ええ、そうよ。お話を忘れてしまったみたい。わたしも年をとったものね。ママはまだ若くて美人?もう、あなたったらなんてかわいいのかしら!うりうりー!
こほん、さて前置きはともかく、ある聖女がレイアス国にいたのよ。その聖女はかつてないほど聖女の力に適合し、汚染されない期間をかなり延ばすことができたわ。そのためか、本当に引っ張りだこでね。休む暇がないほど「祝歌」を歌ったわ。
でも、その聖女は教育のおかげか、人々の役に立つことがうれしかったみたいで、弱音を吐かず、まぶしい笑顔で「祝歌」をうたいつづけたわ。聖女たらんと、少しの会話でさえも気を遣う生活であるにもかかわらず、幸せそうだったそうよ。
まあでもそんなことをしていたら、喉のほうに限界が来るわ。それでも、壊れることをいとわずに10年も聖女の任をしっかり勤め上げたため、一言も声に出せなくなってしまったわ。
それでもなおその聖女は幸せだったわ。だって人々の役に立てたのですもの。自分の喉一つでみんなが幸せになるならよいことだわ。聖女は本当にそう思っていたのよ。任を解かれた後も人々の役に立つ仕事をしようと、そう思っていたわ。
しかし現実はひどかったわ。聖女の任を解かれて儀式で力の大部分を失ったあと、牢に閉じ込められたわ。聖女はその状態でも、ううん元聖女かしら?まあ、いずれにせよ何か考えがあってそうしているのだと思っていたわ。その後は地獄よ。口にも出せないようなことを散々とさせられた後、別人として処刑台に上らされたわ。なんでも、元聖女としての名声は、国のトップより高く、存在自体が邪魔らしいわ。ほかの元聖女も、様々な方法で「処分」されたらしいわ。
民は聖女が処刑されるのに気づかなかったのかですって?「私」の場合は、顔も変形するくらいひどいことをされたし、声も出せなかったからね。うん?私っていった?うーん、言い間違えたのかしら?まあ気にしないで。そうやって処刑台に上って初めて気づいたらしいわ。使い捨てに過ぎないんだって。民が元聖女に気づいてないのは仕方ないことだとしても、罵詈雑言はなかなか応えたわ。身に覚えのない罪だしね。それですべてを恨んだわ。
力が強かった、よく適応していた元聖女は力の酷使により、聖女の力剥奪された後でもそのかけらが残っていたのね。「祝」が反転して「呪」となり、ほんのわずかの力を振り絞って「呪歌」を歌ったわ。そしたら一瞬にして汚染されて魔物がでるわでるわで大混乱よ。
元聖女は力を使い果たして、死んだわ。でも死後、魂というのかしら?そんな感じのが体から上っていくようにして意識もつられて上ったとき、元聖女の顔が見れたらしいの。元聖女のそのときの顔は残忍で、残酷で、酷薄で、非情で。でも今までの中で最も幸せそうで、人間らしい笑顔だったそうよ。稀代の悪女の方が適性があったのかもね。聖女として最も適応した者がそうなのも皮肉が効いてるわね。
そうして元聖女は意識が薄れる中思ったそうよ。もしやり直せたら、この国が滅ぶまでを見届けて、幸せにいきたいってね。
「おしまい」
「えー!ここで?続きが気になるよー!」
「うふふ、元聖女がどうなったのかしらね?やり直せたのなら今もどこかで生きているかもね?」
「むー!おかあさんのいじわる!でも、聖女の話は学校で習ったよ!実際に私が生まれる少し前にある国が聖女の怒りを買ってほろびたって」
「あら、そうなの。実は本当にやり直したのかしらね」
「汚染は国の中央から徐々に広がったから民はほとんどしななかったんだってね!」
「...まあさすがにかわいそうだしね」
「おかあさんなにかいった?」
「いえ、お母さんがその聖女かもしれないわよ?」
「うっそだー!そんなわけないでしょ!あ!おとうさんかえってきたー」
「くすくす、おかえりなさいあなた」
ちなみに、設定としては乙女ゲーム的なのをイメージしているのでマルチエンディングです。ノーマルエンドのつもり。