3年がかりのお引越し
このところ転居準備にかかりっきりになってましたが、ようやく家具と荷物を運び終えることが出来ました。
とはいえ、ここから荷解きや本の整理など、やらねばならないことは山積みなわけですが。──荷造りしたダンボール箱の半分近くが自分の本だったのには、我ながら呆れましたけどね。
いやあ、しかしここに至るまで実に長かった! 何と、自分と嫁は3年がかりで転居の準備を進めてきたのです。
今回は、そんなちょっと変わった我が家の転居事情のお話です。
まず、転居先は嫁の実家です(以下『義実家』)。これまで住んでいたところから車で片道30分ほど。
数年前に義母が亡くなってから義父がひとりで暮らしていたのですが、ちょっと健康面で不安を抱えているため、以前から同居を考えていたのです。
まあ、義父とは関係も上手く行っている方だと思いますし、家の構造的にもほぼ独立して生活を営むことが出来るので、まさに『スープの冷めない距離』というやつです。
しかし我々には、すぐに同居に踏み切ることの出来ない、とんでもなく重大な問題が立ちふさがっていたのです。
──義実家、とにかく物が多すぎ!!
何しろ、義父・義母ともになかなか物が捨てられない性分の方でして。
嫁がものごころつく前に遊んでいたような玩具や落書き帖なんかも、山ほど残ってましたしね。
さらに、ふたりが仕事で使っていた道具や資料なども数限りなく──。
おまけに、ふたりとも趣味に関してはかなり重度の収集癖があります。
義父はもっぱら本や模型など、義母は服や人形!
これら趣味のものや『思い出の品』がうず高く積まれ、言葉通りに『足の踏み場もない』部屋がいくつもあったのです。
──実は結婚して10年以上、自分も応接間以外には入らせてもらえませんでしたから。
義父と同居することに関して、自分の気持ちの上では全然問題はないのです。ですが、まず物理的に我が家の荷物が入るスペースがありません。
そこで自分と嫁は、数年計画で義実家の物の処分と整理を断行することにしました。
とはいえ、ひと様のものを闇雲に捨ててしまうわけにもいきません。そこは慎重に事を進めていかねばならないのです。
義父の持ち物の中で、かなり大きなウェイトを占めているのは『録画済みのビデオ・テープ』でした。映画や科学系のドキュメンタリーなど、実に広範囲なジャンルの番組を大量に録画していたのです。
もっとも、録画してラベリングした時点で満足してしまって、録画したものを見返すことはほとんどないようなんですけどね。
──では、このビデオ・テープの山を処分するか、最低限これ以上増やさないようにしてもらうために、どのように言えばいいのでしょうか。
『どうせ見直さないんだったら無駄ですし、もう止めたらどうですか?』とでも言うべきでしょうか?
──いいえ、無理です。確かにド正論ですが、ご機嫌を損ねてしまう危険性は高いです。
高齢の方が生活のセオリーを変えるのは、そう簡単なことではありません。同居のために物を減らす必要があることは、頭では理解していても、気持ちの上ではなかなか納得できないでしょう。
『大好きな趣味をひとつあきらめてください』と言われるようなものですから。
そこでまず自分は、義実家のビデオデッキが故障して買い替えねばというタイミングで、義父にハードディスク・レコーダーを猛プッシュしたのです。
『番組表で選ぶだけなので、録画が楽ですよ』
『野球中継とかで時間がズレても、自動で対応してくれるんですよ』
『そこからDVDに保存するのも簡単ですし、省スペースにもなります。それに何より、デジタルだから画質が劣化しませんよ』
そうして義父にビデオからハードディスクへと移行してもらい、『録画済みのDVD収集』を新しい趣味として存分に楽しんでいるのを見計らってから、それとなく切り出したわけです。
『古いビデオを見るにはわざわざデッキを買わなければいけないし、そろそろ古すぎるテープは処分してもいいんじゃないですか?』
──このやり方で、ようやく義父からビデオ・テープ処分のお許しをいただいたのです。
もっとも、そこからも大変だったんですけどね。
とても通常のゴミ収集に出せる量ではないので、他のゴミも併せて自分の車に目一杯に積み、市の焼却施設に直接持ち込むこと数十回(!!)
職員さんに『この量のビデオって、ホントに家庭ゴミ? おたく、事業者なんじゃないの?』などと疑いの目で見られたりして……。
まあ、そのように義父の気持ちを尊重しつつも、慎重かつ大胆に断捨離と整頓を進めてきたのです。
すぐに処分できないものや判断に悩むものは、物置に決めた部屋にぎっちりと詰め込んだりして──。
おかげで、何とか自分たちの荷物を入れて生活できるスペースが確保できたので、このたび転居を実行に移しました。
コンビニが遠くなったり、坂が多くなったりなどと不便になった点は多いです。最も残念なのは、元の家の窓からの景色が見られなくなったことです。団地のけっこう上の階に住んでいたので、建物はオンボロながら景色だけは抜群だったんですよ。
左向こう側は淡路島、夕日の下に見えるのは明石海峡大橋です。
──窓が西向きなので、夏の夕方は地獄の暑さでしたけどね。
まあでも、恐らく今の家が自分たちの終の棲家となるので、少しずつ住みやすい環境に整えていこうと思ってます。
──まだ不用品の処分は道半ばですし。
最後にちょっとだけ自慢を。
何と、今の家には『書庫』があります!
義父は本好きが高じて、8畳ほどの部屋を1つ、大きな書架だけがずらりと並ぶ書庫にしてしまったのです。
そう! 多くの本好きが憧れるであろう『書庫のある生活』が始まるのです!
これで半分くらい。ちょっと凄いでしょ?
──ただ残念ながら、義父の本で埋め尽くされていて、自分の本が入る余地はほとんど残ってないんですけどね。