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酒場のシンボル計画。

『三週間・・・!?』


誰かがばたばたと慌ただしく酒場に入っていく音を、3人の大人たちは背後で聞いていました。振り返る者は誰も居ません。3人はそのままの脚で次の目的地へと向かいます。

実を言うと、元々、教会騎士団の一員として神聖教会を守ってきたうでこきの彼女たちもまた、今回教会が行う人事粛正の対象となった者たちなのでした。

当然、セイムとドロシーはその事を知りません。なので、二人の目標は自然と、いつか彼女たちのような立派な人になる事となっていました。礼儀正しくて、親切で、とても賢い。そんな人です。ですが、千里の道も一歩から。二人は当面の目標と向き合う事にします。地底に住むとされる危険な生き物に食べられないために、この、そぼくな村に人を沢山集めなくてはならないのです。

間もなくして、セイムがここを訪れた頃からずっと開いていた酒場の扉に、初めてお休みを現す看板が掛けられました。

せっせと後片付けを済ませた二人は、何やら物々しい様子です。テーブルの近くに立って、ドロシーの顔をのぞき込みながらセイムが言います。

「・・・では、ドロシー。グリモアをお願いできますか?」

「わかった!」

ドロシーはそう答えて、椅子の一つにどっしりと掛けます。それから、何やら気難しそうにおでこにしわを作ってむむむとやりました。次に彼女はぱっと開いた手をぴかぴかのテーブルにかざします。

「んんん・・・・いでよっ!ぐりもわー!」

すると、何という事でしょう。どこからともなく一冊の本が現れます。なにをかくそう、これが教会から貸し出されているグリモアです。ここには、教会に所属するプレイヤーたちの手によって古今東西あらゆる情報が書き込まれていました。

「ほら見てーセイム。浮きシップがのってるよ?」

「・・・すごい!このシップはレトリバー型ですよ!ドロシー!」

「それでこれがね、教会都市だよ?」

「これが?なんて・・・なんて綺麗なんだろう」

「あー!見てこの人の着てる服!スケスケだよッ!へんなの!」

「あっ!あっ!だっ駄目ですって!もう!」

ご覧の通り、グリモアは充実した生活を送るためにはとても便利なアイテムですが使うたびに通信料が発生してしまうので、今まで二人は滅多に使ったことがありませんでした。しかしながら、今は二人にとって大切なこの酒場の一大事です。すこしでも早く問題の解決方法を探さなければなりません。

「ドロシー!まじめにやって下さい!お願います!」

「わかってるってばぁ」

ドロシーは綺麗な瞳を細めて、んもーと言いました。引き続き彼女は得意げにグリモアのページをめくります。

他愛ない日常風景を移した写真から、武器や防具などさまざまな品物を売り買いするための交渉の場、協力してくれる人を探すための掲示板など、他にも数えきれないほど沢山のページがありました。それらは、今この時でさえ増え続けているほどです。

はじめセイムは、その掲示板を利用しようと考えました。けれど、すぐに考えをあらためます。もっともっと、素敵な、彼らしいアイデアを思い付いたのです。

「・・・これだ。これにしましょう!これを作ってこの村のシンボルにするんです!」

「うーん・・・どれどれぇ?」

セイムが止めたページをドロシーが覗き込みます。すると彼は熱っぽく付け加えました。

「ジャージー型浮きシップ。この世界で一番初めに空を飛んだ浮きシップですよ!」

両手を力一杯握りしめてそういった彼にドロシーはどこか納得のいかない様子です。

「ううん、いいけど・・・セイムならもっとすごいのつくれそう・・・たとえばぁ・・・」

ドロシーはグリモアのページをぺらぺらとめくります。セイムには内緒にしていますが、彼女は週に一度だけ、夜中にこっそりとグリモアを読んでいたので、扱いはお手の物です。

ページは狙い通りの場所でピタリと止まります。

「これとか!大きいし!きれいだし!びーってビームも出るんだよ!」

今度はセイムがグリモアを覗き込みました。綺麗なシップの写真がのっている記事にひととおり目を通して、それから彼はひとりで勝手に慌てだします。

「無理ですよドロシー!これは教会のヌートリア級防衛艦!こんなにすごいもの作れるわけがありません!」

「ええー!じゃぁじゃあ?これは?」

「それはビーバー級センチネルです!無理です!」

「ふぅーん。じゃぁこれ!」

「それはカピバラ級強襲母艦とモルモット級インターセプター!無理です!」

「じゃぁ!これは?!」

「それはドブネズミ級ヴァンガード!無理です!」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」・・・。

しばらくして、ドロシーはまたんもー!と言いました。

グリモアのページは、セイムが一番初めに止めたジャージー型のところで止まっています。

「じゃぁセイム?これにしよっか?」

セイムは元気にはい!と答えました。それを聞くと、ドロシーはページに手をかけて慎重にビリビリと破ります。

「ドロシー!いいんですか!?」

「だいじょぶだいじょぶ!もう一回出し直せば戻るからッ!はい。セイム」

手渡されたページの感触は本物の紙のようでした。それには、ジャージー型浮きシップを正面から写した図、真横から写した図、真上から写した図、真後ろから写した図、さらには、真下から写した図に加えて、どこにどのような材料がどんな形でいくつ必要なのかもこと細かに書き込まれています。それはまるで、現実世界のプラモデルの説明書のようです。さらにさらに、裏面のページは、大空を悠々と飛んでいるジャージー型浮きシップの写真が一面を飾っています。その、活き活きとした姿ときたら、それはもう、いますぐページから飛び出して来るのではないかと思えるほどでした。

幸いな事に、いくつかの部品を除いて、シップはそのほとんどが木で出来ているようでした。これは勿論それぞれが不思議な性質を持つ珍しい木でしたが、初めから形を似せた模型を作るつもりだったセイムはひとまず胸をなでおろします。

「よかった。これなら僕にも出来るかも知れません。あとドロシー。木を加工するための道具を取り寄せてもらえますか?」

「はーい。お酒の在庫は大丈夫?」

「はい。今のところ大丈夫です」

「はーい」

ドロシーは、言われた通り、木材加工用の道具を取り寄せます。当然の事ですが、どの道具がどのように使われるのか彼女は知りません。目についたもの端から取り寄せます。途中、彼女は、あの使者の女性が掛けていたような素敵なメガネも取り寄せてしまおうかとも考えましたが、どれも高そうだったのでやめました。

「ほかにはセイム?なにか見たいものとかある?」

セイムはゆっくりと首を横に振りグリモアを閉じました。

「もう十分です。ありがとうございますドロシー」

「ふふん。またいつでも言ってね?」

閉じられた本の上をドロシーの小さな手が通過するとグリモアは小さな小さな光の粒となり、跡形もなく消えてしまいました。セイムは、手に持った紙をテーブルに置いてそれに人差し指を乗せます。

「道具が届くまで、まずはこれを集めましょう」

「ふむふむ」

ドロシーがセイムの指先を覗き込むと、セイムが言いました。

「船体の接着剤に使われる・・・・のりムシです!」

ヌートリア級防衛艦・教会騎士団所属第一空挺師団が運用している。現在までに1番艦から3番艦までの3隻が存在している。旗艦はマリーゴールド。同艦長は老練プレイヤーであるヤマモト。乗組員は140名+急襲部隊47名。全長220メートル。重量1万4千トン。最大速力170ノットを誇るSWE最大級の戦闘用大型浮きシップ。主兵装に原子摩擦圧縮分離反転砲(通称糸くず砲)。全天周対艦防御障壁展開アレイ。拠点制圧用部隊を送り込むための接着式アンカーボルトキャノン、非公式ながら、肉眼で姿を視認できなくするステルスクローク機能、当艦と全く同じ見た目の立体映像を作り出す疑似ジェミニウィリ機構などがある。船体の一部には非常に強固な特殊合金(元素鍛鉄)が使用されていて、それを活用した体当たり(ラムアタック)は非常に強力。推進剤に炸薬を用いる事で最大速度の180パーセントの速度を瞬間的に出すことが出来る。


ビーバー級・カピバラ級・モルモット級・ドブネズミ級・以下省略


のりムシ・地面の中にいる小さな虫。すり潰してから乾かすと強力な接着効果が得られる。光に極端に弱く夜行性。食性は肉食。

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