リピート・エクスプロア。
ミズキは、大きめに切った野菜と、軽くお酒を馴染ませた豚スライムを煮込み、丁寧に灰汁を取り除きました。
それと同時に彼は、細かく挽いた穀物の粉とバターをじっくりと弱火で炒めます。
野菜が柔らかくなった頃には、透き通った濃厚なだし汁と、飴色に仕上がった香り豊かなペーストが出来上がっていました。
ペーストにだし汁を注ぎ込み、さらに細かくすり潰した野菜と果物、赤ワイン、調味料、香ばしく炒めたキノコ、そしてブーケガルニを加えて、再度丁寧に灰汁を取り除きながら、とろみがつくまで煮込みました。
こうして、完成したのは、豚スライムのデミグラス”風”シチューでした。
なぜ、風なのか?それは、デミグラスの名前に由来します。
デミグラスとは、半分に(demi)煮込む(glace)という意味です。
しかし、彼が煮込んだのはせいぜい七割ほどだったのです。
焚火の光を受けたシチューの表面は、夕暮れの大地を思わせる深い焦げ茶色で、小さな木のスプーンを入れると、跡がゆっくりと閉じていきました。
立ち上がる湯気の向こうで、すくい上げられたお肉の表面がゼリーのように震えながら、きらりと光ります。
ジゼルは、一度止めた息をそっと吹きかけました。
彼女の持つウィリを鑑みれば、それは単なる儀式のようなものでした。
熱々の豚スライムを、大きく開けた口で一口、食べてしまいます。
するとどうでしょう。口いっぱいに広がるのはただの美味しさだけではありません。
薫り、味、食感、どれをとっても、幾重にも連なる作り手の手間と、深い心づかいが感じられました。
気づけば、彼女の口の中は空っぽになっていました。そして、彼女はほんのりと赤面します。
最後によそった器を受け取ったクーコが、木のさじを握り締め、元気に言いました。
「んふふ。いただきまーっす!!」
それぞれが、それぞれの面持ちで、クーコに調子を合わせました。
シチューの中から、器用にお肉だけを別の器に移しながら、カゼハが言います。
「おいしそ・・・けど、もっと煮込まないの?具がぐちゃぐちゃに溶けるまで」
使い終えた道具を拭き上げながら、ミズキが答えます。
「うん。大変だから」
「そっか・・・」
カゼハは静かにシチューをかき混ぜると、少しだけ目を細めました。
器の中で、艶のある具材たちがごろごろと転がります。
「品がある・・・このお野菜の切り方・・・ミズキのくせに」
「猫になっちゃったときはどうしようかと思ったけど、よかった!ご飯作れるままで!うぅんっ!おいひぃっ!」
シチューをほおばりながら、クーコが言いました。
「そう言えば・・・」
食事のペースを考えて、ジゼルはいったん手を止めて尋ねます。
「皆様は、いったいどのようなご関係なのですか?」
皆様。彼女はそう言いましたが、質問は双子に向けたものでした。
双子は目を合わせて無言の会話を行います。
それは、すぐに終わりました。
クーコは若干の上目遣いを用いて、得意げに言います。
「うーん。なんていうのかなぁアイジン?みたいな?」
「愛人っ!?」
思いもよらない答えに、ジゼルはぎょっとします。
手から滑り落ちたスプーンが、半分ほど満たされた器の中にぽとりと落ちて、かすかな音を立てました。
「ふふ、おどろいた?」
カゼハは穏やかに目を細めながら、静かにシチューを口に運びました。
「え?ええ。すこしだけ」
自分よりも年下で、可愛い双子の女の子、それも相手は巨大な猫です。
まるで、強烈な一撃を顎に受けたかのような、言うならば、カルチャーショックでした。
「その、ええと、そういう、ご関係も、あるのですね」
そそくさと食事を再開しながら、ジゼルは気まずそうに言いました。
視界の隅で双子は、縦にしたスプーンを器の中で回したり、どこか物憂うげな表情で、じっと焚火を見つめたりしています。
そこはかとなく、オトナの魅力が漂います。
ジゼルは、言葉を詰まらせました。
「性格悪いよ?」
見かねたミズキから、どこか呆れたような声が響きます。
クーコはにんまりと笑い、器を口に当てると豪快に傾けました。
「っぷはぁ!へへ、あはは!冗談冗談!あたしたちはミズキに面倒見てもらってるだけ!」
カゼハは視線を落とし、静かに付け加えます。
「私たちね、家族がいないの。けどこの世界だと普通のことだよね?」
火の粉がぱちりと弾けました。
鏡のような双子の瞳が、多くを物語ります。
ジゼルはゆっくりと頷きました。
「素敵ですね。お二人も、ミズキさんも。とても」
「そうかもね」
ミズキの体から、白い毛がにょきにょきと延びて、それは器用に、ジゼルにおかわりを差し出します。
うつむいたまま、彼女はそれを受け取りました。
「けどね、あんまり甘やかしちゃダメだよ?人は甘やかされると絶対に堕落するんだから」
双子は横目でくすくすと笑いました。
しかし、ミズキは意に介さず。
「僕はそれでもいいと思うけどね」
と、付け加えました。
「そうだ!ねえ!ゲームしようよッ!ゲーム!」
「ゲーム?」
ジゼルは、まるで子供のような提案に、内心安堵しつつ首をかしげます。
クーコは、とても嬉しそうに、リュックから小さな人形とカップを取り出しました。
「じゃーん!ユニコーンゲーム!!」
こうして、突如として始まったのはユニコーンゲームでした。
ユニコーンゲームとは、器の中のユニコーンの状態を予測するゲームのようでした。
逆さまになった器の中で、それは時に、縦になっていたり、あるいは、横になっていたり、逆さまになっていたりします。
器が持ち上がるたびに巻き起こる小さな歓声を、セイムは静かに眺めていました。
彼は、この時ようやくシチューを一口、口に運びます。
「あんなにくだらないことに、よく夢中になれるね?」
いつの間にかとなりに座っていたミズキが言いました。
声は小さく、三人には届いていないようでした。
「僕はとてもいいことだと思います」
「ふぅん」
セイムは、聞きなれないジゼルの声を耳にします。
どうやら、彼女が見事、ユニコーンの状態を言い当てたようでした。
彼は静かに濃厚なシチューを味わいます。
「けどあれね」
前を向いたまま、ミズキが言いました。
「ユニコーンじゃないんだよ?だって翼があるから」
「?」
「どうしたの?」
「いえ」
セイムは、スプーンを逆手に持ち替えて、人差し指と親指を自らの口に入れました。
何らかの異変を感じ取ったジゼルが、駆け寄ります。
「どうかなさいましたかセイムさん?」
「いえ・・・これ」
「ふむふむ・・・これは」
取り出したものを焚火の火にあてます。
ジゼルが身を乗り出してそれを見つめました。
白く、細い毛でした。
「あ」
真ん中に寄った目が、ぐっと広がります。
「毛だね」
ミズキは少しだけ慌てたように、毛づくろいを始めます。
やがて、かっと吐き出した毛玉が、風に乗ってどこかへと転がっていきました。
「困っちゃう」
申し訳なさそうに言った彼を見て、二人は少しだけ笑いました。
セイムの視界の端で、なにかが小さく光りました。
家の方でした。照らされているはずのない位置で、淡い光が揺れていました。
「あれ?」
彼は眉を寄せました。
見間違いではありません。木の穴の入口に吊るしてあるランプが、闇の中で静かに灯っていたのです。
セイムはシチューの器をそっと地面に置き、立ち上がりました。
「どうしたの、セイム?」
ジゼルが穏やかな声で尋ねます。
「いえ、入り口の灯りがついているんです。慌てていたから、きっと消し忘れていたみたいです」
ジゼルは、少しだけ顔をしかめました。
「んもぅ」
続けて彼女は、可愛げのない横顔に向かって声を弾ませます。
「いいじゃありませんか、ランプくらい。今当てたのですよ?ユニコーン!」
「ええ、けど、心配ですし」
「もう、セイムさんったら。お行儀が悪いんですから」
どこか健気な嫌味を背中に浴びながら、セイムは足早に入口へと向かいます。
好きにすればいい。けれどやはり、放っておけるわけなどありません。それが乙女というものです。
ジゼルは、すぐに慣れない演技に耐えきれなくなって立ち上がりました。
「まって!ご一緒に・・・!」
振り返るとセイムは、すでに入り口まで続く階段を登り切った場所に居ました。
双子の冷やかしから逃れるように、ジゼルは小走りで、愛する夫の元へと駆け付けます。
入り口で、ランプを手に取るセイムの姿が見えました。
「食事中に席を立つなんて・・・」
そんな文句が、自然と口からこぼれます。
頭上でふっと、明かりが消えました。
それと同時に、少なくとも、ジゼルにはそう見えました。
明かりと一緒にセイムが、忽然とその場から消滅してしまったのです。
「セイム…?」
脚の感覚が遠のいて、ほの暗い闇の中、階段を上ります。
なにかの冗談。その懸念は一瞬にして、ジゼルの脳裏をかすめて消えていきました。
家の中には誰もいず、ただ入口に、ほのかに光るルーンが浮かび上がっていたのです。
「そんな、セイム!セイム!!!」
すがるような悲鳴が、夜の帳を引き裂きます。
尋常ではない様子にミズキは頭を持ち上げ、ジゼルの元へと向かいました。
双子もそれに追随します。
「ジゼルさん。なにがあったの?セイム君は?」
返事はありませんでした。
ジゼルは、両手で顔を押さえて膝から崩れ落ちていました。
ミズキを押しのけるようにして、双子も到着しました。
「・・・セイム。どうしちゃったの?」
「これ?なんだろ」
クーコの指先が、光を放つルーンに触れようとします。
ジゼルは、はっと我に返ると鋭く息を切りました。
「それに触れてはいけませんっ!!!」
持ち上がった顔は蒼白で、声は悲しみと恐怖で満ちていました。
クーコは指先をさっと引きます。
あまりの剣幕に、三人は言葉を失いました。
呼吸を整えた後、ジゼルは、声を震わせながら言います。
「・・・それはリピートエクスプロアの逆サモン印です。触れてはいけません」
双子は、言葉を失ったままでした。代わりに、ミズキが尋ねます。
「あぶないものなの?」
ジゼルは力なくうつむいたまま、小さく頷きました。
「リピートエクスプロアは、SWEの世界に存在する時空的な異常領域です。プレイヤーの行動や、エレメントのゆらぎによって偶発的に発生し、一定の条件が・・・揃うと・・・突然出現します。・・・逆サモン印は、その入り口が一つの形となったものです。これは、プレイヤーが触れることで発動する高度な転移ルーン。入り口と出口の座標そのものが対となり存在し、改変も、再現も、どのような技術をもってしても不可能とされています」
悲しみに打ちひしがれようとも、彼女は淡々と述べました。
あるいは、そうすることによって、無理にでも気持ちを落ち着かせようとしたのかもしれません。
カゼハが、ジゼルの肩をそっと抱きながら尋ねます。
「じゃあ、セイムも?」
ジゼルは、先ほどよりも大きく頷きました。
「リピートエクスプロアは、一度ドロップしたら、内部のダンジョンを攻略しなければ外に出る事ができませんし、入り口が消えることもありません」
ジゼルは短く言葉を切りました。
「でも。まさか。どうして・・・」
三人はお互いに視線を交わしました。
しかし、彼らが何かを告げるその前に、ジゼルは顔を持ち上げます。
気迫に満ちたその瞳に、彼らは言葉をのどに詰まらせます。
「絶対に、あとを追わないで・・・!」
ジゼルは消えてしまいました。
あとには、伽藍洞になった暗い部屋と、ぼんやりと光を放つルーンのみが不気味に残されておりました。
ジゼルの両足が、硬く平らな地面を捕らえます。
深く曲げた膝と、左手を地面につけた特徴的なポーズは、神聖教会が推奨している、ダンジョンへの突入姿勢のお手本とも呼べる姿でした。
頭上と背後から同時に襲い掛かるのは、カミソリのように鋭い逆鱗と、鞭のようにしなる巨大な体躯を持った『4号型汎用ヘリオン』と呼ばれる存在です。
暗闇で、エレメントソードが翻りました。
それは、4号型汎用ヘリオンのそれぞれの急所を的確に捉えます。
死亡時に、強酸性の体液を周囲にばらまくように、激しくのたうちながら絶命するという彼らの特性は、その適切な対応によって、あえなく不発となりました。
「この程度なら・・・」
続く、彼を呼ぶはずだった声は、胸の奥に沈みました。
わずかに遅れて静寂が戻ると、エレメントソードが光の粒子にほどけます。
倒れた4号型の体も、同様に、小さな光の粒となって消滅しました。
残されたいくつかの戦利品と、小さなエレメントコアには目もくれず、ジゼルは右手をそっと持ち上げます。
「ライトアップ」
彼女の右手の平から小さな照明が浮かび上がります。
効果や、見た目とは裏腹に、非常に難しいとされる光系統のエレメント操作によるものでした。
右手の上に浮かんだ淡い光が、ゆっくりと前方を照らし出します。
光は呑みこまれるように弱まり、代わりに、廊下の輪郭が浮かび上がりました。
そこは、学校のようでもあり、病院のようでもあり、研究施設のようでもありました。
真っすぐに続く、乳白色の廊下です。
床はタイルなのに、壁は木目調で、天井だけが金属製のパネルで覆われていました。
三つの記憶が継ぎ接ぎになったような、どこか不自然な空間でした。
窓が並んでいるはずの位置には、真っ暗な長方形だけがあり、そこから外の気配は一切感じられません。
ガラスがはまっているかどうかも分からず、光を当てても反射はしていませんでした。
「セイム!?」
呼びかけに、空間は無反応でした。
三拍ほど遅れて、それはわずかに反響します。
目前の安全を確かめた後、ジゼルの両足は硬い音を立てました。
光球は、ゆっくりと前へ漂いました。
進むにつれて、ダンジョン内のよどんだ空気は、むせかえるような甘い腐臭へと変わっていきました。
「アンデッド?・・・何号だろう・・・?」
ジゼルは頭の中で、かつて学んだ数々の記憶を叩き起こしました。
有効な対処法、種類ごとの習性、それぞれの危険な行動、絶対にやってはいけない行為など。それらは、『アンデッド』に分類されているものだけでも、分厚い本になるほどです。
しかしながら、その歩みが止まることは決してありません。
一歩、また一歩と、粘り気を増すような空気の中を慎重に突き進みます。
ふと、かき混ぜられる空気に、どこか懐かしいものが混ざりました。
それは乾いた木の皮の香り、朝の土の香りが混ざり合ったもの、いわゆる森の香りです。
自然と歩調が早まるにつれ、闇の中にぼんやりと、輪郭のようなものが浮かび上がりました。
それは、通路の隅で背中を丸め、膝を抱え込んでいる人影でした。
「セイム!!!」
ジゼルは、この上ない安堵の表情を浮かべます。
「・・・ジゼルさん?・・・ジゼルさん!」
素早く顔を持ち上げたそれは、間違いなくセイムでした。
安堵したのも束の間、ジゼルの表情は凍り付きました。
通路の奥から、ぬらりと起こる影、4号型汎用ヘリオンが現れたのです。
むき出しになった牙は、今にもセイムに襲い掛からんとしておりました。
全身に、力がみなぎります。
「伏せて!!!」
そう叫んだ時には、すでに体が動いておりました。
両手に生み出されたエレメントの対流は、瞬く間にすべてを切り裂く刃となりました。
踏み込みに応じて床はバネのように反発し、爆発的な風の流れは、弾丸のように飛び出した身体の姿勢を制御します。
「たああああっ!!!!!」
すれ違いざまに4号型の体は弾け飛び、それぞれが通路に四散しました。
「セイム!お怪我はありませんか?!」
遅れてやってきた光球が、セイムの横顔を照らし出しました。
すっかり血の気を失い、それは蒼白でした。
「もう会えなかったら。どうしようかと思いました。よかった・・・」
声を震わせながら、彼はそう言いました。
胸の奥を包まれるような温かさに、自然と笑みが洩れました。
「わたしもです。さ、早く帰りましょ?ここは危険です」
「はい、けど」
「?」
セイムはすっと立ち上がると、通路の奥を見つめます。
しゃがみこんだまま、ジゼルもそちらを見つめました。
右手を差し伸べながら、セイムが言います。
「実は、見せたいものがあるんです。ついてきてもらえますか?」
「え?ええ、しかし・・・」
手は、心配になるくらいに冷たくなっておりました。
きっと、恐ろしい思いをしていたのだろう。
そう思いながら立ち上がるジゼルの脳裏に、双子とミズキの姿がちらつきました。
きっと、彼女らも、自分たちのことを心配しているのだろうから・・・。
「大丈夫。きっとジゼルさんも気に入ってくれると思います」
しかし、セイムは、いつものように穏やかにそう告げました。
右手に、強い力が込められたような気がしました。
ジゼルは、ろくに反論もできないまま、彼の提案に従うことにしました。
しばらく進んだ先で、セイムが通路の壁に触れました。
分岐のない通路は、薄闇の中を真っすぐに延びていました。
「たしか、このあたりに・・・あった」
かちゃり、と小さな音がしました。
次の瞬間、壁の一部にわずかなすき間が生まれ、そこから縦長に白い光が漏れ出します。
どうやら、それは巧妙に隠された扉のようでした。
「さ、ジゼルさんここです」
ジゼルは、促されるままに、扉の中へと体を滑りこませます。
「眩しい・・・」
反射的に、彼女は目を覆いました。
その間に、背後で扉が、そっと閉じられます。
「ここは・・・?」
目の前には、古い板張りの、小さな部屋がありました。
机と、ベッド、透明の液体で満たされた瓶の並ぶ薬品棚。
木造校舎の保健室を思わせる佇まいです。
窓辺では、白いカーテンがわずかに揺れていました。
その向こうには、青い海と、白い砂浜が広がっています。
波の音は聞こえません。ただ、白波に揉まれる光だけが差し込んでいました。
「わかりません。安全エリアのようなものかと思うんですけど」
「・・・」
部屋の中ほどまで歩を進めると、床が、軽くきしみます。
ベッドのシーツは染みひとつありません。指先で触れるとそれは確かに、ぬくもりを宿しているようでした。
ぐっと、なにかに引き寄せられるように、まぶたが重くなりました。
「今日はどうしたんですか小日向さん?」
振り返ると、セイムの姿が見えました。
大人ぶった仕草で、セイムは椅子を軋ませます。
余裕に満ちたその姿に、ジゼルは、顔を赤らめながら答えました。
「すこし、体調が優れなくて・・・」
「ふむ」
セイムは、手元のバインダーに目線を落としながら、軽く曲げた指先を顎に当てました。
手から離れたバインダーが、机の上でぱたり。微かに音を立てました。
「すぐに横になると良いですね。さぁはやく」
「え、ええ。わかりました先生」
脱いだ靴をそろえて、ジゼルは言われるがままに、ベッドに身を預けます。雲のように柔らかく、そして、それは酷く清潔でした。
なぜだろう?
そんな、漠然とした疑問は、柔らかな光に溶けていきました。
ジゼル!
ジゼル!
まどろみの中で、何者かが、自らの名を呼んでいる声が聞こえました。
まぶたは、のろのろと痙攣を繰り返しながら、時折開きました。
弾けるように光を反射する薬の瓶を、彼女は眩しいと感じました。
「どうしましたか?栞さん?」
声は落ち着いていました。
「いえ・・・」
喉がうまく動かず、しばらくしてから、ようやく続けました。
「夢を見ていたみたいです」
「そうですか。それは何よりです」
気づけば、ぬくぬくと温かい羽毛布団の中で、片方の手が、誰かに握られていました。
冷たく、それでいて、強く求められるような力でした。
「セイム。いったい、どうしてしまったの?」
ぼんやりとする頭のまま、吐息交じりに言いました。
セイムの口角がそっと持ち上がりました。
「ここで暮らしましょうか?ここなら、誰の邪魔も入りませんし。僕とジゼルさんと二人きり、ずっと一緒にいられます」
「邪魔だなんて・・・そんな、いけません。セイムさん・・・いけません」
「けど、僕は本当にそうしたいんです。誰にもあなたを渡したくありませんし、ほかのことなんて、どうだっていいんです」
言葉にならない思いは、胸の奥で燻ります。
乾いた唇を舌がなぞると、先ほどのシチューがほのかに香りました。
ジゼル!!
確かに、誰かが呼んでいました。
心が引き裂かれるような思いで、ジゼルは、セイムに向かって尋ねます。
「セイム?」
「はい」
「聞かせてください。ドロシーさんのこと・・・」
セイムは。
ふっと微笑みました。
ただ、それだけでした。
ジゼルは泣いてしまいました。
世界は、あまりにも、寒かったのです。
クーコは、ジゼルの肩を揺らしながら、何度も、何度も、呼び続けました。
やがて、薄目を開けたジゼルは、ようやく喉を鳴らします。
「ん・・・クーコさん?」
「ジゼル!よかったぁー!」
視界はまだぼやけていました。
身体は鉛のように重く、すっかり冷え切っていました。
ふと、手の中に、なにかが握りしめられていました。
それは通路の隅にひっそりと群生していた苔の一部のようでした。
「これは、『夢苔』?」
夢苔。
洞窟などに生息し、代謝物質に幻覚作用を持つ苔の一種です。
「立てる?ケガしてない?お水いる?」
クーコの声が、すぐ近くで響いていました。
どの質問にも、ジゼルは答えませんでした。
「・・・どうして?」
ようやくひねり出した声が、縦長の空間に低く響きました。
「え」
クーコが、戸惑ったように身を乗り出します。
ジゼルは、握り締めた手に力を込めました。
湿った感触が、掌にじっとりと張り付いていました。
「・・・どうして」
もう一度、同じ言葉を繰り返します。
今度は少しだけ強く。
すると胸の奥で、なにかが押し上がってきました。
「どうして、来てしまったんです」
最後の言葉は、無理やり押さえつけるように震えていました。
けれど、次の瞬間。
「どうして来てしまったんですっ!!!!」
自分でも止められない声が、通路いっぱいに響いていました。
間髪入れずに、乾いた音が、ひとつ鳴りました。
ジゼルは、一拍遅れて、左の頬に手を当てます。
頬の内側が、じん、と熱を持っていました。
ぐらりと揺れた視線でクーコを追うと、痛みよりも先に、彼女の髪飾りの揺れが目に入ります。
見覚えがある。
ただ漠然と、そんな気がしました。
「しっかりしてよ!!セイムを見つけるんでしょ!?」
クーコの手は、まだ宙に残っていました。
瞳は怒りに燃え、指先が、わずかに震えています。
通路には、誰も言葉を足さず、冷たい空気だけが次第に戻ってきました。
粘り気のある大気が、先ほどの怒声を呑みこんでいきます。
ジゼルは、頬に当てた手を離しませんでした。
なにかを言おうとして、けれど喉の奥でそれは止まります。
床に落ちたままの苔の断片が、揃えられた靴の先に転がっていました。
踏みつぶされることも無く、ただ、そこに在りました。
クーコは一度だけ短く息を吸います。
それから、ジゼルの視線を避けるように、通路の奥を見ました。
「行こ」
その声は、先ほどよりもずっと低く、命令でも、叱責でもない調子でした。
ジゼルは、頷きませんでした。
けれど、立ち上がろうとして、膝に力を込めます。
少し遅れて、身体がそれに従いました。
「あの、クーコさん?」
少しだけ歩いたところで、ジゼルは声をかけました。
クーコは、前に進みながら、続く言葉を待っているようでした。
「その、カゼハさんと、ミズキさんは・・・どうなさったのですか?」
恐る恐るそう尋ねます。
クーコは、振り返ることなく通路を突き進みます。
漂う光球は、所在なくその背後を照らしていました。
『夜目』のウィリを持つ彼女にとって、光は、必ずしも必要なものではなかったのです。
「ミズキは入れなかった。カゼハは」
言葉をいったん切ったクーコは、依然として歩きながら続けます。
「・・・わかんない」
「そう、でしたか」
ジゼルは、唇を軽く噛みました。
「ごめんなさい」
ぱっと振り返ったクーコは、いつもの調子で笑っていました。
「ううん!あたしこそ、ごめんね!あたしたちが会えたんだもん。カゼハもセイムと一緒にいるよ!だから行こ!ジゼル!」
クーコは強く、ジゼルはその強さを、少しだけ怖いと思いました。
ダンジョンにドロップしたカゼハは、あまりの暗さに体の平衡感覚を失いました。
真っすぐな地面を踏んだのも、思えば都市を出て以来のことでした。
その場でよろよろと螺旋を描き、ようやく指先が触れた壁は、節目が浮き上がった木の質感でした。
床から直角に延びるそれを頼りにします。
「・・・クーコ?」
慎重に呼びかけながら、彼女はリュックを下ろし、明りになりそうなものを探しました。
ずるり・・・。
カゼハの正面です。なにかが床を這う音がしました。
反射的に、彼女は小さな悲鳴を、呼吸と一緒に引っ込めます。
それからそっと、リュックに掛けてあるライフルを構え、音のした方に向けて、撃ちました。
一瞬だけ照らされた通路の先で、異形の怪物が頭をもたげてこちらを向いているのが見えました。
「いや・・・いや・・・空子!」
胸の前でリュックを抱えて、彼女は反対側へと全速力で走ります。
しゅる、しゅる。
すると背後から、布が擦れるような音が付いてきます。
怒りでも、憎しみでもなく、ただそれは、自分のことだけを狙っている。
カゼハには、それが分かりました。
必死に走っていたためでしょうか。
あるいは、足元を確かめる余裕など、とうに失っていたからか。
永遠にも思えた時間は、何の前触れもなく終わりを告げました。
「・・・ッ!」
声にならない息が洩れます。
身体が前に投げ出され、重心だけが宙に取り残されました。
カゼハがドロップした通路の先は、崩落していたのです。
音もなく抜け落ちた床の縁が、足首をかすめます。
反射的に腕を伸ばしましたが、掴んだのは、指の間をすり抜ける澱んだ空気だけでした。
視界が、上下を失いました。
重力に引かれる感覚が、遅れてやってきます。
胃の奥が持ち上がり、肺から息が押し出されました。
ずっと上の方で、壁に激突した何かが火花を立てました。
ねじれた鉄骨が、通路の断面から何本も延びているのが見えました。
砕けた瓦礫が、飛び散る様子が見えました。
すべてが、すぐに見えなくなりました。
背中に強い衝撃を一度受け、彼女は再び落ちていきました。
身体はもう止まりません。
風を切る音と、自分の鼓動だけがやけに大きく響いていました。
目を開けたとき、そこは音のない場所でした。
どれほど落ちたのか、わかりません。
ただ、身体は不思議なほど静止していて、呼吸だけが、やけに大きく感じられました。
「………」
声を出そうとして、やめます。
喉がひどく乾いていました。
ゆっくりと、身体を起こそうとします。
その時、脚の奥で、鈍い抵抗がありました。
遅れて、痛みがやってきます。
息が止まり、視界が一瞬だけ白くなりました。
生きている。
まだ、生きている。
そう言い聞かせて、肩で大きく息を吸いこみました。
指先で、恐る恐る体を探ります。
大きすぎる痛みは、どこから来ているのか、カゼハにはわかりません。
わき腹、横腹・・・。
服のしわに阻まれながら、それは段々と下へと向かいました。
下腹部を通過し、太ももへとたどり着いたとき。
指先は、冷たい何かに触れました。
激痛が走り、カゼハは悟りました。
折れ曲がった鉄骨が、左脚を貫いていたのです。
血は、出ていませんでした。
そのことが、かえって恐ろしく感じられました。
動かせない。正確には、動かしてはいけない。
そう理解した時、身体の奥で、別の冷えが広がっていきます。
しゅる。しゅる。
しゅる。しゅる。
暗闇は、まだ続いていました。
上も下も、もう区別が付きません。
助けを呼ぶには、周りの音が大きすぎました。
泣くには、息が足りません。
カゼハは、リュックを胸の前に引き寄せました。
それだけが、今、確かに触れられる現実でした。
カゼハは、目を閉じてじっとしていました。
開けたところで辺りは暗闇で、どうせ何も見えないのなら閉じていよう。
それは、意地の悪い世界に対する、彼女なりの抵抗でした。
布のこすれるような音が、段々と彼女へと近づいてきました。
引き金に指をかけて、彼女は息を呑みました。
肩口に小さな接触を感じると同時に、カゼハの世界は、再び照らされます。
「・・・セイム?セイ…!」
「しっ!」
「・・・」
セイムは、人差し指を口元に当てて、もう一方の手に持ったランプをわずかに持ち上げました。
虚空を旋回する視線を、カゼハも追いました。
すると、暗闇にぼんやりと、いくつもの影が見えました。
機械のように規則正しく音を発しながら蠢くそれは、先ほどの異形の怪物でした。
「『洞窟カミソリビル』です」
「どうくつ・・・?」
「はい。カミソリビル」
「・・・」
名前がある。
その事実に、不思議とカゼハの不安はやわらぎます。
しかし、その安息は、激痛によってすぐに消え去りました。
喉の奥でうめき声をあげたカゼハを、セイムがのぞき込みました。
若干の身じろぎとかすかな目配せが、彼の視線を脚の鉄骨へと導きました。
かすかな光によって露わになるそれを、カゼハは直視できません。
「とれる?セイム?」
自分でも驚くほど、弱い声でした。
隠しきれない動揺を、それでも何とか隠そうと、彼はそっとランプを置きました。
「大きな声は、出さないでください」
低く告げられた最低限の言葉に、カゼハはセイムの機微を理解します。
ゆっくりと静かに頷きました。
袖口を噛み、痛みに備えます。
セイムの手が鉄骨に触れます。
冷たい。その感触が、ありえないほどはっきりと伝わってきました。
両手で触れても、それはびくともしませんでした。
慎重に角度を確かめて、一気にそれを引き抜きました。
―――ぎ、と、湿った音がしました。
痛みは遅れてやってきます。
鋭い、というより、内側から裏返されるような感覚でした。
カゼハの喉が、勝手に開きました。
セイムは傷口を強く押さえつけました。
小刻みに、途切れながら続いていた呼吸は、段々と落ち着いていきます。
同調する形で、セイムの呼吸も落ち着いていきました。
「傷口は、空気に当てないでください」
声は緊張しておりました。
「・・・うん。わがまま言って、ごめんね」
痛みは、嘘のように遠のいていました。
代わりに、胸の奥に、遅れて疲労が広がっていきます。
「ありがと」
静かに告げると、少年の青ざめた顔に若干の生気が戻りました。
「自分で、おさえるから」
「はい」
差し出されたハンカチを、セイムは黙って挟み込みます。
スカートのベルトが、それを留めました。
指先が一瞬、迷ってから離れました。
「いったんここを離れましょう」
「セイムは?」
「ダンジョンを攻略します」
「私がいたら邪魔?」
返事は、すぐには返ってきませんでした。
「・・・そんなことは、ありません。けど・・・」
「じゃあ、ここで見てるね」
言い切るように告げて、カゼハは視線を伏せました。
「私も、一緒だよ?」
カゼハはぽつりと呟きました。
二人は、それ以上何も告げませんでした。
REによって生成されるダンジョンの最深部には、必ず一本、武器が落ちています。
武器とは名ばかりのそれはなまくらで、プレイヤーたちからは『救済武器』と揶揄されておりました。
「カミソリビルは、強い刺激を与えると戦闘状態になってしまいます。戦闘状態になったカミソリビルは、感覚も鋭くなってとても危険です」
セイムは、ランプの光量をわずかに落としました。
「そうでない刺激の場合、カミソリビルは警戒状態に移ります。だから、叩きすぎてはいけません。けど・・・かといって、何もしないと、今度は索敵状態に移ってしまいます。この状態は、ほとんど戦闘状態と変わりません」
刃は鈍く、重量も頼りない。
セイムは、救済武器に視線を落としました。
「警戒状態と、索敵状態の切り替わり。その間が隙になるんです」
カゼハは、黙って聞いていました。
説明を理解するよりも先に、少年の声の調子が耳に残ります。
それは、教えるための声ではありませんでした。
すでに何度も頭の中でなぞった手順を、確認するような声です。
洞窟カミソリビルの、現在の状態は待機。
その頭に向かって、セイムは大き振りかぶりました。
「……ガンバレ♪……ガンバレ♪」
囁くような声にセイムは振り返ります。
彼は微笑み、カゼハもそうしました。
彼女の人差し指がそっと、口元に持ち上げられました。
気を取り直して、セイムは武器を振り下ろします。
ごん。と、鈍い打撃音が鳴り響きました。
即座にセイムは、次の一撃に備えました。
持ち上がった頭が、セイムの頭上で左右に揺れました。
独特の息遣いが一段高くなりました。
全身の鱗が、互いにこすれ合い、金属の光沢が蘇ります。
カゼハは、その不気味でありながらも、どこか美しい姿に見惚れておりました。
頭部は、全く同じ位置に戻ります。
その瞬間、セイムは迷いなく踏み込みました。
ごん。
カミソリビルは、低く唸り声を上げました。
頭部が、再び揺れます。
セイムは息を整えません。
ただ、腕を引き戻し、次の一撃、それのみに集中しました。
ごん。ごん。ごん。
一定間隔で、打撃音だけが響きます。
4号型汎用ヘリオン、またの名を、洞窟カミソリビル。
その性質を利用したこの方法は『警戒キャンセル』と呼ばれています。
繰り返すこと、およそ18回、その巨体は、しー、と音を立ててとぐろを巻きました。
「・・・やった」
セイムは額の汗をぬぐいます。
背後では、カゼハが目を輝かせておりました。
セイムは、それに気づきません。
三体ほどを無力化したところで、セイムの体は悲鳴を上げ始めました。
両手の感覚は薄れ、全身に引きつるような痛みを感じていました。
しかし、彼の頭に休憩の二文字が浮かぶことはありませんでした。
とぐろを巻いた巨体を後にし、次へと向かいます。
「あれ?」
小さな光の中で、セイムは目を細めます。
次の個体は、最初から様子が違っていました。
頭部に小さな傷があり、鱗のいくつかが欠けていたのです。
どこかで、すでに傷を負っていたのでしょうか。呼吸も乱れていました。
彼はわずかに躊躇します。
そして、何十回と行ってきた動作をいっそう強く意識しながら、両手を振り下ろしました。
すると、想定外の事態が巻き起こります。
すっと持ち上がった頭が左右に揺れました。
問題は、その数でした。
セイムは戦慄しました。
なんと、その場に横たわっていたすべての個体が同様の仕草を行っていたのです。
それは、次の打撃に入る、寸前の出来事でした。
彼の思惑とは裏腹に、体は止まりませんでした。
その一撃が、想定していたよりも強かったのか、あるいは、弱かったのか、もはや、確かめるすべはありません。
なぜなら、誰の予想にも反して、傷ついたカミソリビルは、その一撃で絶命してしまったのです。
全身を荒ぶらせて、のたうち回るカミソリビルから、強酸性の体液が飛び散りました。
呼応するように、戦闘状態に移ったたくさんの個体が、一斉に暴れだしました。
ダンジョンの最深部は、瞬く間に、酸の雨と鋭い刃がひしめく地獄と化しました。
削り取られた肉の一部が、顔のすぐ近くを、通り過ぎていきました。
一拍遅れて、セイムは振り返ります。
開いた瞳孔に、恐ろしい光景が焼き付きます。
顔をかばうようにしているカゼハの腕に、それがべったりとついているのが見えました。
込みあがる声をなんとか静めて、セイムはカゼハの元へ向かいました。
カゼハは目に涙を浮かべながら微笑み、唇に人差し指をあてました。
地鳴りのような音は、曲がり角の向こうから響いていました。
「セイム!!!」
ジゼルの叫びが、通路を木霊します。
「ジゼルまって!」
クーコの声は、ジゼルには届きませんでした。
たった一人で駆け出したその背中を、必死に追いかけます。
角を曲がった先の通路は、途中で崩れていました。
一切のためらいもなく、ジゼルが飛び込み、クーコもその後を追いました。
長い縦穴の先で、ぼんやりと何かが浮かび上がります。
まるで、氾濫した川の中州に取り残されてしまったかのように、弱々しく身を寄せ合う二つの人影です。
矢のように落ちていく二人が、それぞれに名を叫びます。
次の瞬間、クーコの全身の細胞が震えあがりました。
それは、ほかの何者でもない根源的な恐怖そのものでした。
「フォトン・マイン・・・!!!」
クーコは、一切動けませんでした。
雪のように白い光の粒が、凄まじい速さで最深部へと吹き込みます。
光は、触れるものすべてを抉り取るように消滅させました。
こうして四人は、見事にダンジョンを攻略したのです。
外は、驚くほど静かでした。
森を吹き抜ける風も、月の光も、何一つ変わっていません。
そんな中、四人は、呆然と立ち尽くしておりました。
「おかえり、案外早かったね」
その内の一人、ミズキがあくびをしながら言いました。
その言葉を受けて、というわけではありません。
ジゼルは、肩を震わせます。
「どうして・・・どうしてあのような危険なことをしたのです!!じっとしていなかったのです!セイムさん!」
見開かれたアイスブルーの瞳には、確かな怒りが宿っておりました。
セイムは言葉を失います。
ぼろぼろと溢れる涙を必死にぬぐいながら、彼女は言いました。
「そんなに私が・・・疎ましいと、思うのですか・・・?」
セイムは何も告げませんでした。
正確には、その時間が、彼には与えられませんでした。
すべてに背を向けて、ジゼルは、小さな隠れ家へと続く階段を足早に上ります。
その途中で彼女は、刃の一閃を見舞います。
それにより、リピートエクスプロアの入口は、永遠に閉ざされることとなりました。
小日向栞・・・ジゼル。年齢16歳。裕福な家庭に生まれる。仲の良い友人に誘われ、そこそこ名の知れたお嬢様学校に進学するが、友人に彼女が出来てしまい孤立する。習い事の帰り道に偶然立ち寄ったゲームセンターで、SWEをプレイ(1プレイ3900円)。スカイワールドへとやってきた。好きなものはこしあん。嫌いなものはゴリラとカレー。




