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教会都市からの使者

『教会都市・・・!?』

思わぬ報告に二人は目を輝かせます。そもそも、一日に二人目以上の、さらに、プレイヤーのお客さんと来たものですからそれは当然と言えば当然の事でした。

都市からやってきたというその人たちは3人組で、真面目そうなその女の人を先頭に、きびしい表情を浮かべた男の人が二人、それぞれ左右後ろに見えていました。3人とも、どこか近寄りにくい風でしたが、セイムは大喜びで、ピカピカに磨かれた酒場のテーブルの一つをすすめます。

彼女は中の様子を横目で見渡して、自分たちのほかに誰も居ないのかをまず確認しました。酒場の中には、NPCの男がただ一人、美味しそうにジョッキを傾けているだけでした。

「いえ、結構です。長居をするつもりはありませんから」

「そう、ですか」

セイムはとても残念そうに言います。ドロシーはと言うと、使者たちの素っ気ない態度からすでに、なにか悪い気配を感じ取ったのでしょうか、すっかり体を小さくして今にも泣いてしまいそうです。うす紫色の大きな瞳に涙をたくさんためていました。そんな彼女を無視したまま使者は言いました。

「あなたが、責任者ですか?」

「はい」

「単刀直入に申し上げます。グリモアにて報告した通り、もうご存じかと思われますが、先日行われた教会幹部会談にて、教会上層部でいくらかの人事異動が行われることが決定しました。それに伴い、組織全体で大規模な人事粛正が行われます。人々の自由意志と世界平和という組織の理念に則り、物流や資産の流動に支障をきたすような個人または団体がその対象となります」

セイムとドロシーは、この人がいったい何を言っているのかさっぱりわかりませんでした。練習もろくにせずに、大人の面接官の前に放り出されてしまった気分です。ですが、ドロシーはともかく、セイムは現実世界では来年高校生になるかという年ですし、なにより、この酒場をまかされている身です。それとなく浮かび上がる疑問を投げかけます。

「それは・・・。つまりどういう・・・この酒場はどうなってしまうのでしょうか?」

使者の眼鏡のレンズが白く光ります。

「この建物は、浮きシップの中継ポートとして改修され、辺り一帯には天然資源採取のための大規模プラントが建設される予定です」

彼女の言う浮きシップ。それは不思議な力で空を飛ぶ船の事です。その名前を聞いて、ずっと不安げだったドロシーの表情は急にぱぁと明るくなりました。なぜなら、浮きシップは、事あるごとにセイムが口にするくらいに彼が憧れていて大好きな乗り物だったのです。

「わぁ!やったねセイム!浮きシップが見られるかも知れないよ!やったね!」

ドロシーは勢いそのままに、セイムの手を取ります。

「セイムがせんちょーさんだ!やったねセイム!いっぱい、いっぱいおそうじ頑張ったんもんね?」

ですが、当のセイムはというと表情を曇らせたままです。

「すみません。ドロシー。少しだけ静かにしてください」

おまけに、ドロシーにそんな事まで言ってしまいます。彼女は初めて見るセイムにショックを受けてまた小さくなると同時に、これから自分たちがどうなってしまうのか何となくわかってしまいました。

セイムは謝る代わりに彼女の手をそっと気づかい不安そうに言います。

「では、僕たちはどうなってしまうのでしょうか?」

使者は、口元だけを動かして答えます。

「教会理念であるプレイヤーたちの自由意志の元、あなた方は、組織の需要が尽きるまで永遠に、資源採掘作業に従事して頂く事になります。」

「採掘作業?」

「はい。一日12時間昼夜を問わず作業を行い、その多くが危険なガスと地底生物が潜む採掘場です。繰り返しますが。これはあなた方の自由意志を尊重したうえでの要請になります」

「一日じゅうにじかん・・・・?危険生物・・・?!」

そうつぶやいて、ドロシーは顔を青くしました。自分たちが、大きな危険生物に食べられてしまう場面を想像してしまったのです。

「やだ!セイム私怖いよ!食べられたくないよ!」

当然、彼も食べられたくなどありません。ですが、とりあえずその心配は後にして、彼はなにかにせかされるように尋ねます。

「他に方法は無いんですか?」

セイムが苦しそうに言うと、女の眼鏡がまたきらりと光りました。

「ないわけではありません」

「本当ですか?!」

「っ!やったぁ!」

ころころと表情が変わるゆかいな二人を前に、彼女はつらつらと簡単そうに続けます。それが、彼女の教会組織での役割だったのです。

「はい。代替え案として。この地点を他勢力の動向に対応するための哨戒基地にする。と、いうものです」

「それはどうすればいいの?」

「この酒場はどうなってしまうんですか?」

二人は前のめり気味に尋ねます。すると彼女はとてもとても賢そうに眼鏡を指先で持ち上げてさらに続けました。

「はい。哨戒基地と、申し上げましても、この世界においての最大戦力は、ほかならぬ私達、プレイヤーの存在です。コロニーとしての機能や、外見上の体裁は一切問いません。これが、この酒場の今後についての質問の解答になります。続きまして、最低でも戦闘系のウィリを持つプレイヤーを15人、補助系のウィリを持つプレイヤーを4人以上この地に駐屯させることが出来れば。教会規定に則り、その地を哨戒基地と呼称することが出来ます。これが、この地域を哨戒基地にするためにはどうすればいいのか。についての解答になります」

雲の間からまっすぐにさした光を浴びる植物のように二人に活気がよみがえります。

「人を集めればいいんですね?」

「はい。簡潔に申し上げますとそう理解していただいて差し支えありません」

「わかりました。では、僕たちはここに人を集めます」

セイムの元気な声が、ガラリとした酒場に響きました。あっという間にしんと静かになる酒場の中に、今度は大人の女の声が響きます。

「わかりました。では、担当者にはそうお伝えさせて頂きます」

「はい。よろしくお願いします」

「よーし私も!ショーカイキチ!がんばろーね?セイム!」

「はい!」

「ご報告は以上です。では私はこれで失礼させて頂きます・・・っと」

別れの挨拶を前にして、彼等の真ん中をNPCが悠々と通過しました。テーブルには教会が発行しているコインが5枚置かれています。ハチミツ酒の代金です。

「あ。ありがとうございました!」

「またきてねー!」

都市からの使者は気を取り直して。では、とだけ言い残し。酒場を後にします。セイムとドロシーも外に出てお見送りをします。彼女たちのいく先には、憧れの教会都市があるものですから、それは必要以上に念入りになりました。むしろ、出来る事ならば、ドロシーはそのまま都市までついていきたいくらいでした。うっかりそんな魔が差してしまった彼女が申し訳なさそうにセイムの方を見ると、セイムも似たような顔をしています。二人は、自分たちが置かれている立場など忘れてくすくすと笑いました。

「そうだ・・・」

声が届くギリギリの場所で、光る眼鏡が再び二人に向けられます。

「期限は3週間ですので。あしからず」





浮きシップ・SWE独自の乗り物。空飛ぶ船。船体全体でエレメントを代謝することで揚力を生み出し浮かぶ。推進力や主な動力には結晶化したエレメントであるエレメントコア用いられる。元々は一種類のみだったがプレイヤーたちの手によって開発され今では多くの機種が存在する。用途や持ち主の趣向により様々な機能や形態が存在する。単純な物でも非常に高価(そもそもエレメントコアが貴重)で所有する事は大勢のプレイヤーたちの憧れ。


グリモア・GLIMOA。(Global.Link.Informationsharing.Management.Option.Attachment)教会から支給される情報共有端末。本のような形をしている。ページ全体がディスプレイの役割を果たしているスマートフォンのような存在。ページを破ると画面をそのまま紙として持ち歩くことが出来る。

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