彼らの家。
~神聖教会領・教会都市~
任務から帰った二人を待ち構えていたのは、二人と同じく神聖教会の騎士団の一員であるプレイヤー達でした。二人の姿を見るや否や、その場で最も背の高い男が二人がかりで、華やかに彩られた横断幕を広げます。それから彼らは一斉に言いました。
『お姉さま!!お疲れさまでした!おめでとう!ジゼルッ!!』
その歓迎ぶりときたら、この時の為に、わざわざお休みまでとった者もいるくらいです。
女はいつものように全員に感謝を伝えながら、集まった人たちの中心を目指します。ジゼルもそれに続きました。すると、人混みをかき分けて、可愛らしい少女が二人現れます。二人の頭には、自分たちが育てたきれいな花を、丁寧に丁寧に編み込んでつくったティアラがちょこんと乗っていて、それよりもずっとりっぱな花の冠と、とても素敵な花の首飾りをそれぞれが持っています。彼女たちは言いました。
「お姉さまッ!」「ジゼルお姉さまッ!!」
ところ変われば、人の立場もまた変わるようです。この少女たちにとって、ジゼルはお姉さまなのでした。
「あ・・・ごきげんよう。あなたたち」
ジゼルは、長旅のせいかいまとても疲れているような気がしていました。それでも、いつものように振舞うことを心がけます。そんなようすに、駆け付けた少女は口を半分開けてしばし不思議そうにしていましたが、きっとジゼルお姉さまの事だから自分たちには考え付かないような難しいことを思案しているのだろう。と思い。すぐにいつもの調子に戻ります。
「ジゼルお姉さま!任務お疲れさまでした!これ、お姉さまの為に私たちで作ったんです」
「白夜草と丘紫星の花でつくりました・・・!あの、ほんとうにおめでとうございます!」
ジゼルはこの時、彼女たちがいったい何を言っているのかほとんどわかりませんでした。ジゼルが理解するよりもずっと前に、二人が話し終えてしまったからです。ですが彼女は、その場の雰囲気に合わせて花の冠と首飾りを受け取ると、ただ一言、ありがとう。と言いました。
それだけのことでしたが二人の少女はすっかり上機嫌です。一人が前に乗り出して嬉しそうに言います。
「お姉さま!見てください!私ハーモニックソードが出せるようになったんですよ!・・・ほら!・・・ふ・・んっ!!」
少女がそう言って片手に力を込めます。すると、彼女の言うとおり、小さな手にはゆるやかなエレメントの流れが生まれました。それを後ろで見ていたひとりの男が、ひやかすように、それでも、とても嬉しそうに言いました。
「なんだよ、それじゃぁハーモニックヒノキの棒じゃないか」
それを聞いて、近くにいた人たちが一斉にわっと笑いました。少女は悔しそうに顔を赤くしましたが、彼女にとって、騎士団の仲間たちは、いざという時には必ず力を貸してくれるいわば兄妹のようなもの。健やかに育った彼女もまた、けっして気にしすぎるということはありません。それどころか、彼の言うハーモニックヒノキの棒を振り回してわーわーと彼を追い回すくらいに元気な女の子です。
まわりの人々は微笑ましいその様子を、腕を組んだり、鼻を鳴らしたりしながら眺めています。
そのあいだ、ジゼルはずっとどこかに取り残されているかのようなもやもやとした不安を感じていました。
すると今度は、もう一人の少女が少し前に出て、心配そうに言いました。
「ジゼルお姉さま・・・?どこか具合でも悪いのですか?」
彼女は精神感応のウィリを持っていましたので、ジゼルは慌てて、いつかの助言の通り心に鍵をかけ、やさしく微笑みます。
「いいえ。何でもありません」
少女は丸い瞳をもっと丸くして、不思議そうにジゼルの顔をのぞきこみました。思わず、ジゼルの指にぐっと力が入ってしまいます。それを、何かで感じ取ったのでしょうか。少しはなれた所にいた女が振りむいて、ゆっくりとジゼルに歩み寄りました。それから、彼女は大げさにまぁ!と言いました。
「素敵なティアラとネックレスですね?あなた方がつくってくれたのですか?」
気に入らない意地悪な男を追い回していた少女もすぐに駆け付けます。二人は顔を真っ赤にして体を小さくして、はい。と言います。
「ですが、ジゼル?わたくしを差し置いてこのようなものを賜るというのはいかがなものでしょうか?」
それを聞くと少女の一人が両手をばたつかせて必死に言います。
「ちがうんですッ!その。私たちみたいなのが、お姉さまに何かを・・・贈るなんて・・・ね?」
「は・・・はい。そそそそそ!そんな、恐れ多くて・・・ごめんなさい」
すると女は嬉しそうに目を輝かせて言いました。
「そうですか。では、この素敵なプレゼントは今回わたくしが頂くとしましょう。それで後日、ジゼルにはもっと素敵なプレゼントをご用意しましょうね?もちろん、わたくしと一緒に、3人で。お花はわたくしの花壇から摘みましょう?それでいかがでしょうか?」
その提案を聞くと二人は、泣きそうになりながら元気に、はい!と返事をします。ジゼルの手からそっとはなれたそれらを女はとても丁寧にあつかってそれぞれの場所に身に付けます。
「どうですか?似合っていますか?」
二人はまた元気に、はい!と返事をしました。
「ところでさ」
誰かが陽気に言います。
「今回の任務はどうだったんだよ?」
ふと投げかけられた質問に、誰もが耳をかたむけます。
自分に注目が集まると、女はわざとらしく人差し指を顎に当てて、しばらく考えてから申し訳なさそうに言いました。
「それが、少しあばれすぎてしまったようで・・・いけませんね?」
まわりからどっ、と笑い声が上がりました。
「まったく、これだからお姉さまは」
「毎度のことながら、相手も災難ねー」
「そーだなぁ」
「ええ、あの方々には大変申し訳ないことをしてしまいました」
しょんぼりと下を向いて、女がそう言いました。
また別の誰かが言います。
「まぁでもさ。皆の平和を守ってくれたんだから。な?」
「そうそ!善行善行!」
「皆さまにそう言っていただけると、わたくしも幸いです」
「まったく。なんでかなぁ・・・」
「ほんとほんと。こんなにお淑やかなのに」
「ふふふ。そうですねえ・・・なぜでしょうか」
ひきつづき彼女が恥ずかしそうにそう言うと、また周りからどっと笑い声が上がりました。
ジゼルはその様子を、やはり、どこか遠くから見ているような気がしていました。
そんな彼女に、ある者が声をかけます。その人物はブラウンの帽子をかぶったメガネの少年で、肩には大砲のような大きなカメラを乗せていました。
「あの・・・」
少年は器用に片手で手帳を開いてから続けていいました。
「ラグナペーパーの記者です。あなたがジゼルさんですよね?2~3聞きたいことがあるんですがいいですか?」
実は、この少年は新聞の出版、販売、取材をたった一人でとりおこなうSWEきっての変わり者でした。
見慣れないその人物に、ジゼルはまだ何も質問されていないというのにたじろいでしまいます。
「あ。あの、わたくしは・・・」
そもそも、彼女はいま、この少年に限らず、誰かと話したい気分ではありませんでした。そんなジゼルにお構いなしに、さっそく記者は図々しく切りだします。
「では、さっそく一つ目の質問なんですけど・・・」
ラグナペーパーの記者を名乗る少年が一つ目の質問を言いかけた時、彼の姿に気づいた騎士団の一人が彼を指さしながら大きな声で言いました。
「あー!お前ラグナペーパーの記者じゃねえか!なんでこんなとこにいるんだよ!どっかいけよ!」
その声を聞きつけて他の者も、少年に詰め寄る様に近づいてきます。彼らは上から抑えつけるように口々に言いました。
「お前このヤロウなんのようだ?ああん?」
「また訳の解らない記事のせるつもりじゃないんでしょうね?」
「出鱈目ばっか言ってっと頭かちわんぞこら・・・?」
「ひ・・・ひぃいー!」
まあ!なんて怖い人たちでしょう。相手が子供と言えど、自分たちの誤解を招くような記事ばかり書いている彼のことをだれ一人よく思っていないようです。
「沈めちまうか?」
「いや、高度計を壊したシップに乗せて飛ばしちまおう」
「そうするか」
「ひぃー!!」
彼らはダメ押しと言わんばかりに、そんなことまで言ってしまいます。どれだけ憎たらしい相手でも、そんなことは絶対に言ってはいけません。彼はガタガタと震えていましたが、自分の記事に対する情熱だけは誰にも負けませんでした。彼は震えながらも、怖い人たちの合間を縫って、懸命にジゼルに質問します。
「最近、あなたが行ったという鹿角砦のカトウさんってプレイヤーのことなんですけど。行方がわからなくなっているんです。いろいろと悪い噂の絶えない人だったみたいですけど。あなた何か知っていませんか?」
ジゼルはドキリとします。と、同時に。あの恐ろしい光景が次々と記憶からよみがえりました。呼吸があさくなって、とてもはげしくなります。汗までかきはじめてしまいます。
「あ。わたくしは・・・」
「まぁ!!」
ジゼルが何かを言いかけた時、女が嬉しそうにこちらにやってきます。彼女はそのままの勢いで、ジゼルに向けられていたレンズの正面に立ってしまいました。すっかりペースを乱された記者が口をとがらせながら言いました。
「ああっちょっと。今はジゼルさんにインタビューしてるのに!」
「まあまあ。どうかそんなことをおっしゃらないで下さい。わたくしが彼女に後を託したら、もうわたくしを取材することもかなわないのですよ?ね?ですから。ね?どうかわたくしを映してくださいな」
女はそう言って、その場でくるりと優雅に回って見せました。
それをみて、少年は深いため息を一つつきましたが、彼女の言うことにも一理あると思ったものですから渋々、取材対象を切り替える事にしました。
「では、改めて。鹿頭のカトウさんについて、何か知っていたら教えてください」
女は姿勢をととのえて少しだけ微笑みました。それから、そと行き用の、一段すきとおった声で答えます。
「はい、鹿頭のカトウさまは、査察に向かったわたくしたちに突然襲いかかってきました」
「え!?それは本当ですか?」
「ええ。本当です」
「で・・・では!?今回、彼の行方がわからなくなっているのと何か関係があるんですか?」
「はい、わたくしたちがほんの少しだけ本気を出しましたら。彼らは皆、元気に森の中へと逃げて行ってしまいました」
ひっそりと息をひそめて、聞き耳を立てていた騎士達がどっと笑いました。すっかり愉快になった彼らは次々とカメラの前に乱入します。ピースサインをしたり、変な顔をしたり、鼻を持ち上げたり、耳を耳の穴に入れるきみょうな特技を披露したりもうめちゃくちゃです。その真ん中で、女が優しく微笑みながらカメラに向かって言いました。
「カトウさん?鹿頭のカトウさん?わたくしたちは、いつでもあなた方を歓迎いたします。悪さをするのはほどほどになさって、どうか、いちど遊びに来て下さいね?」
女が言い終えると、近くにいた人たちが楽しそうに付け加えます。
「今度おれたちのお姉さまを困らせたら俺が許さねー!」
「私もッ!」
「もうわるさすんなよー!このヤロウ!」
これはもう、取材どころの騒ぎではありません。俺も私も僕もと、次々と乱入者が現れます。あわれひたいに嫌な汗をかきながらも、少年は次の質問に移ろうとします。
「では次の質問なんですけど・・・」
その途中で、女がすっと前に出て、少年の手を引きました。
「ああ。ちょっと・・・!」
彼女は嬉しそうにふふふと笑います。
「実は今日、ささやかですが夜会の準備があるのです。あなたも是非、ご参加くださいな?」
すると誰かが言いました。
「えーバレてたの?」
「流石・・・お姉さま・・ですッ!」
「まぁいいじゃん!お姉さまもそう言ってるし行こうよ!」
「ああっちょっと!まって!」
皆さまご存じ。今は六つある星の周期の中で、最も日が短いとされている黒星の年です。太陽は山の向こうに沈み、都市はほんのりと明るく照らされています。そこに集まった人たちは幸せそうに笑顔を浮かべながら、街の光の中に一人づつ溶け込んでいきました。




