マッチングアプリは難しい②
マッチングアプリを初めて数ヶ月後
俺は一人の女の子(名前はえみり、24歳)とやり取りをし、ご飯行きませんかと誘いをかけたら何とOKとのこと。
今日はデート日だ。髪をセットし、服もお気に入りのジャケットを来て、いざレッツゴー!
緊張して手汗がやばいことになっているが、まあすぐに収まるだろう。きっと。
待ち合わせ場所のカフェの前で待っていると、えみりからメッセージが来た。
『近くに着きました! 紺色のジャケットの方ですか?』
え! いるの! マジ?
『そうです!』
震える手でメッセージを返すと、アプリの写真通りの女の子が手を振ってこちらにやって来た。
長い黒髪を腰まで伸ばした、パッチリとした目が印象的な美人だ。ふう、緊張が止まらないべ。
「は、初めまして!」
「初めまして! ごめんなさい。少し遅れてしまって」
「全然全然! 集合13時だし、間に合ってますよ! むしろ僕の方が早く来ちゃって」
「そうですか? それなら良かったです」
えみりはそう言って、俺の隣に侍り言った。
「それじゃ、中に行きますか」
その後はカフェの中で、お互いの職業や趣味の話を繰り広げた。
彼女の名前は田代えみり。23歳で事務職をしているという。趣味は温泉巡り。肌に気を使っているためと言うが、女の子では比較的珍しい趣味なのかも知れない。
「宮田さんって、今まで何人とお会いしたんですか?」
0回と言ったら怪しまれるだろうか。うーん、3回くらいにしておこう。
「3回くらいかな」
「そうなんですね! 私も同じくらいです! 会った人はどんな感じでしたか?」
「えーっと」
どうしようか。適当にカナのことでも言っておくか。
「一人は保育士の人だったな〜。全く出会いがないって言ってたよ」
「そうだったんですね! 男性の保育士ってあまり聞かないですもんね」
「みたいだね〜。えみりさんは出会いないの?」
俺の質問に、えみりはフフフと笑いながら答えた。
「私も職場が女性ばかりで、全くないんですよー」
なら俺と付き合ってください! 幸せにしますから!
「そっかー。俺も男ばっかで出会いないんだよね」
「職場の出会いってありきたりに見えて、意外と難しいですよねー。はあー、私にもイケメンの彼氏が現れないかな〜」
おいおい。こいつ素直すぎないか? それってつまり、俺に興味がないって言ってるんだよな?
流石にやばいと思ったのか、えみりはわざとらしく咳き込んだ。
「って友達が言ってたんですよね! 確かに顔も大事だけど、1番は中身ですよね!」
「だ、だよね!」
おいおい! それは流石に無理あるだろー! 確かに俺だって可愛い子がいいけどさ、そんな口には出さんぞ?
その後は何となく気まずい雰囲気になってしまい、お互い無言のまま5分ほどが過ぎた。
「……そろそろ。帰りましょうか」
沈黙に耐えられなくなったのか、えみりは苦笑いをしながら俺に語りかけた。
「そ、そうですね」
俺も立ち上がり、二人で会計までゆっくりと歩いた。
「お会計、二人合わせて2500円です。お会計、別々になされますか?」
高いなー! カフェってこんなしたっけ? 普段行かないから分からなかった。
「一緒で大丈夫です」
俺はスマートに言って、財布から2500円を出しレジ前に置いた。
それを見たえみりが、自分の財布から千円を取り出して俺に渡す。
「流石に全額払って貰う訳には行かないですよ! これ、貰ってください」
「え、でも……」
「私奢られるの苦手なんです」
「そ、そう」
無理矢理押し通すのも悪いと思い、俺はその千円を財布の中にしまった。
レジの店員も気まずそうにこちらを見ながら、レシートを俺に手渡した。
えみりと別れてから、今日のお礼くらいはと思ってとりあえずお礼メッセージだけはマッチングアプリで送っておいた。
「今日はありがとうございました!」
返事は返っては来なかった。まあ、あの様子じゃそうなるよな。
マッチングアプリは難しい。