半分のさらに半分のスープ
何も持っていないようでも、きっと心の中にたくさんの何かを人は持っているのです。
「お前、温かいスープができたよ」
「あなた、ありがとう」
外は、木枯らしが吹いています。
老夫婦は、一日いっぱいだけ飲めるスープをかじかんだ手で包んで、ゆっくり飲み始めました。
「身体の具合はどうだ?」
「今日は大分調子が良いです。あなたこそこんな木枯らしが吹く中、森へ行くだなんて。ごめんなさい。私が働けないから」
妻は、肺を悪くしてだいぶたちます。
夫は元々木こりでしたが、事故で足を悪くしてから、少しの畑仕事と森で拾い集めた薪を売って、生計をたてていました。
それでこの時期毎日手に入るのは、ひと握りの野菜と肉でした。
それを、毎朝スープにして二人で飲むのです。
しかし、一日一食だけ、それも一握りの野菜と安い肉では十分な栄養は取れませんでした。
味もとても薄く、おせじにもおいしいとは言えません。
そこで夫は、煮込むお湯の量を半分にしました。
「お前、温かいスープができたよ」
「あなた、ありがとう。あら?あなたの分は?それに、今日はどうしてこんなに具が多いの?」
「いつもより薪が売れたのさ。おれは仕事をしながら食べることにした。外は冷えるから、その方が良いと思って」
「そうですね。薪が売れてよかったですね。でも、無理しないでくださいね」
妻は、以前より栄養が取れて元気になりました。
夫は、何も食べずに働き続けました。
でも、それも長いことは持ちませんでした。
妻が、だんだん元気をなくしていった夫の嘘に気づいたからからです。
「ごめんなさい。私が働けないから。私がお荷物だから」
妻は、泣きながら自分を責めました。
夫は、逆に謝りました。
「すまない。大切なお前を悲しませることをしてしまった」
それでも、夫は煮込むお湯の量を変えることはしませんでした。
味が濃く、少し美味しくなったスープ。
それを老夫婦は、さらに半分にして、大切に分け合いました。
量は半分ですが、二人は以前より仕合せでした。
妻は、スープが半分の半分でも、とても顔色が良くなりました。
夫が元気になっていくことが嬉しかったからです。
そして、夫もスープが半分の半分でも妻の元気な様子を見ると、さらに働く意欲が湧いてきて、寒い冬の季節も辛いと感じませんでした。
老夫婦は、半分のさらに半分のスープで冬を越え、春を迎えました。
あたたかい陽射しが部屋の中に入ってきます。
老夫婦の食事は、野菜や山菜が取れる季節になったので、一日三食食べられるようになりました。
でも、妻は時々いうのです。
「半分のさらに半分のスープ、本当においしかったわね」
おわり
お読みくださり、ありがとうございました。