表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

ルルとララの恋物語

以前短編で掲載した物語です。

紙飛行機の青い背に乗る幼虫に愛しさを感じていただけたら、作者として幸せです。

「あれ?こうちゃんはどこだ?」


紙飛行機は、地面の方を見て、こうちゃんがいないことに気づきました。


「しまった。風に乗るのが気持ち良すぎて、遠くに来すぎた」


紙飛行機の脳裏に2歳のこうちゃんのぷっくりした笑い顔が浮かびました。


そのこうちゃんを喜ばせようと、ママが持ってきた色紙でパパが紙飛行機を折ったのです。こうちゃんは紙飛行機をひどく喜んで、何度も何度もぶーんと腕をふりまわしていました。


「よーし、こうた。パパが外でとばしてあげよう。それっ」


その時のこうちゃんの嬉しそうな顔といったら。


『もっとこうちゃんを喜ばせたくて、調子にのりすぎた』


紙飛行機は、後悔しました。


「こうちゃん。もう戻れないよ、どうしよう」


まだ若い紙飛行機は、途方にくれました。




紙飛行機がどんどん風に流されて、ミカン畑の上を通ったときです。


「怖い。あの茶色いのは何なの?怖い……。どうしたらいいの」


突然風がやんで、か細い声が聞こえてきました。


紙飛行機は、声のする方へうまく着地しました。


見上げると、ミカンの葉に米粒より小さい黒い生き物がいます。


「君。ねぇ、君。何を泣いているの?」


紙飛行機は、小さな黒い生き物に尋ねました。


「さっき、私のそばを何か早いものが横切ったの。怖くて……」


「それは、たぶん鳥だよ。僕も鳥くらい飛べたら、帰れるのにな」


「あなたは、同じようなのにぜんぜん怖くないわ。ねぇ、あなた。帰れないのなら、私の傍にいて。一人じゃ心細いの」


「でも、ぼく……」


小さな黒い生き物は、声も体も震えていました。


紙飛行機は、再び吹いてきた風をつかまえて、ふわっとミカンの葉にのりました。


そして、あらためて小さな黒い生き物の顔をまじまじと見つめました。丸いつぶらな目が、こうちゃんととても良く似ています。


紙飛行機は、なんとなくここにいたくなりました。


『こうちゃんのところへは、もう戻れないし……。なんだかほっとけない』


「うん、いいよ」


紙飛行機は、思わず答えていました。




一緒にいるようになって、2人は、ルル、ララと呼び合うようになりました。


ララがルルが乗る風の音が歌みたいに聞こえると言ったのが、きっかけでした。


ルルは、そんなことを話すララをかわいいと思いました。


「ララ。どうだい!空を飛ぶのは気持ちよいだろう」


「ルル、本当ね。お日様までいけそうだわ」


ルルはミカンの木からうまく風をつかまえて、時々ララを乗せて、空を飛びます。ルルル、ラララ。ルルのまわりの風は、優しい音色でうたっています。ララは、ルルが優しいから、風も優しいんだと思っています。そのルルをびゅんと風をきる鳥たちがからかってきました。


「お~い。ノロマ。ノロマな青いやつが、いっちょまえに飛んでるぜ!!」


「ほんとだ!!ほんとだ!!」


すると、ルルはすましていうのです。


「そうだね。僕はノロマさ。でも、いいんだ。君たちみたいな飛び方では、大切な人は乗せられないだろうからね」


「ははっ。負け惜しみもはなはだしいぜ!!」


鳥たちは、言いたいことを言い終えると、さっさっと行ってしまいます。


「ルル、平気?」


「あはは。ララ、大丈夫だよ。この青い翼はララを乗せるためにある!!な~んてね」


そのルルの青い翼が、太陽に照らされて、美しく輝いています。


『まぶしくてきれい』


ララは、その度に優しいルルを好きになります。


そして、2人で色々な話をします。


かわいいこうちゃんのこと。


器用で優しいパパとママのこと。


ルルは無邪気に話してくれます。




そんな時、ララは怖くなります。


『ルルは、本当は帰りたいんじゃないのかしら?』


だから、ララは良くこう言いました。


「ねぇ、ルル。私って黒くて醜くて、何も知らなくて、一緒にいてつまらないでしょう」


ララは自分に自信がありませんでした。


「僕は、君との暮らしが楽しくて仕方がないよ」


「本当に?」


「うん。だってララったら、何もかも初めて見るもので、一緒にいて僕も楽しくなっちゃうんだもん」


そう言って、ララをみかんの木に戻します。


「ララは純粋で、大好きだったこうちゃんにそっくりだ。ちっとも退屈しないよ」


ララは、その言葉を聞いて少し安心するのでした。




雨の日も風の日も、2人はミカンの木に寄り添って、2人でやり過ごしました。


そんな中、ララは脱皮して、いも虫になりました。


体も大きくなって、食欲も前の数倍。


ミカンの葉は、あっという間になくなっていきます。


ララは、そんな自分を恥じていました。もう大好きなルルの背にも乗れません。


「ルルは何も食べないで平気なのに。ルル、私を嫌いになっていいのよ」


「何をいうのさ、ララ。どんなララだってララはララ。僕は大好きだよ」


そう言って、ルルはララをそっとその青い羽で抱きしめるのでした。




ある日のこと。


ミカンの葉が大量に食べられているのを、人間が見つけました。


人間は、ミカンの木を守るために、消毒液をかけることにしました。


シュッシュッ。鼻をつく嫌な匂いが2人に迫ってきました。


何も分からない2人も、ただ事でないことに気づいていました。


「ルル。私の事はよいから、逃げて」


その言葉を聞いても聞かなくても、ルルは決意していました。


「何としてもララを守る!!」


ララを無理やり葉の裏に隠れさせると、その上にルルが覆いかぶさりました。


シュッシュッシュシュシュー。ルルの体に消毒液がかけられました。


「ううっ」


ルルは思わず声をあげました。雨とは違って、毒が体の中にしみこんでくるのが分かります。


「ルルっ」


ララは、悲痛な声をあげました。


ルルはあっという間に気を失ってしまいました。




その後、雨が数日続きました。みかんの木を滴り落ちる強い雨に打たれて、ルルは意識を取り戻しました。


体はずっしりと重く、息をするのも辛い状態でした。


「ララっ。ララっ。大丈夫?!」


目を覚まして最初に気になったのは、ララのことでした。


ララの声はどこからもしません。


雨音だけがルルの耳に聞こえました。


見上げると、ララの大きさの立ったままのぶったいがありました。


「ララ。ララなの?お願い!!返事をしてよ!!」


ルルは悲しくて辛くて、声のかぎり叫び続けました。


「ララ。ララ。ララ……」


しかし、相も変わらず、雨音だけがルルを包んでいたのでした。




それから、しばらくの時が過ぎて、ルルの声はもうとうに嗄れて、立ち尽くしたララにも届かなくなりました。


でも、ルルは、一瞬たりともララから目を離しませんでした。


夜も昼もララを見つめ続けました。


ララが一生動かなくても、ルルは傍にいるつもりでした。


「ララ。僕たちはずっと一緒だよ」




2週間目の夜明けが近づいてきました。


東の空がだんだん金色に染まっていきます。


その時でした。


ララの体が金色に輝きだしたのです。


ルルは息を飲みました。


ゆっくりと、でも確実に、ララは、さなぎをやぶって、その黄金の羽を太陽のもとにさらけだします。


そして、羽が完全に広がった時……。


「ララ……」


ララは、それはそれは美しいアゲハ蝶になっていました。


ルルはただただ見とれていました。


ララは、太陽よりも輝いていました。




「ルル、ありがとう。私、あなたのおかげで蝶になれたわ。」


ララは、ひらひらと、ルルの下に舞い降りました。


「ルル、今度は私の番。私があなたをこうちゃんの元へ運んでいくわ」


「ララ……。あぁ、ララ、僕は……」


声にならない声をしぼりだして、ルルは泣きました。


ララは、前にルルがしたように、そっとその黄金の羽でルルを抱きしめました。


「ありがとう、ルル。本当にあなたを愛しているわ」




そう言うと、「待ってて」と、ララは空に舞い上がって、仲間を呼びました。


何匹ものアゲハ蝶が、優しくルルの体を空へと持ち上げます。


「あぁ、久しぶりだ。空を飛ぶって、やっぱり気持ちいい」


みかん畑を超え、菜の花畑をこえ、こうちゃんの家の赤い屋根が見えてきました。


「ララ、あれが、僕の生まれた家だ」


ルルは嬉しそうにララに報告しました。


「でも、もう僕のことは忘れているだろう」


「ルル……」


「いいんだ。僕はこうちゃんの家に帰れただけで満足だし、それに……」


ルルはララを見つめて言いました。


「いっしょにいたい人は、もうそばにいる」




「きゃはははは」


その時、子供の声がしました。こうちゃんです。手には赤い紙飛行機を持っています。


「こうた。外で飛ばさないの?」


「うん、家の中だけにする」


「まだ、青い紙飛行機のこと、気にしているの?」


「……」


「大丈夫よ。きっとお友達ができて、楽しくやっているわよ」


「ほんとう?」


「そうよ。お外にはちょうちょうや鳥がたくさんいるでしょう」


それを聞いて、ルルはララに笑いかけました。


赤い屋根の裏庭の花畑の上で、蝶たちはルルを下しました。


そして、ひときわ美しい一匹の蝶が、裏庭に住むようになりました。


ルルは思いました。


『もしかしたら、紙飛行機としては僕はもう飛べないかもしれない。だけど……、「ルル」としては、本当に誰よりも幸せなんだ』と。


今日も、ルルとララ、2人の笑い声が裏庭から聞こえてきます。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織花かおりの作品
新着更新順
総合ポイントが高い順
作成:コロン様
― 新着の感想 ―
[良い点] 紙飛行機とさなぎという登場人物からどのようなお話になるかワクワクしながら読ませていただきました。 とてもファンタジーで愛のあるお話でした! [一言] とっても暖かいお話でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ