本当の光~HAPPY BIRTHDAY~
大切な家族へ。この一年も幸福でありますように……!
「あんな光、見たことがない。」
私は、その光を見てすぐさま追いかけた。
ここは、暗闇の世界。すべてが闇の中で存在している。私たちが、どこで生まれたか、なぜここにいるのかも、闇の中。
ただ一つはっきりしていることは、「光がほしい。」それだけ。
私は、さきほどの光を追いかけて、森の中をひた走った。
「あんな強くて暖かい光なら、きっと幸せを宿している。」
同じ光を見たのだろう。いつのまにか、一人ではなくなっていた。
「君もあの光を見たのか?」
いつのまにか隣を走っていた声の若い男が言った。
「えぇ。とても美しい光だった。」
と私は、答えた。
「俺も見たよ。暖かそうなオレンジ色をしていた。」
しわがれた声の男が言った。
「見ているだけで、幸せになれそうよね。」
少女のような声が続いた。
私たちは、光を見失わないように走りながら、いろいろな話をした。
「なんだか、あの光を見ると暖かい家を思い出すんだ。」
しわがれた声の男が言った。
「私は、誰かの温かい胸を思い出すの。もう一度、抱きしめられたい。」
少女がぐすっと泣きべそをかいた。
「僕は、あの光の中で眠っていたような気がするんだ。とても暖かかった。」
若い男が、懐かしむように言った。
私は黙っていた。
私があの光で思い出すことは、骨ばった手だった。その温かい手は、何度も何度も私の頭を撫でてくれた。私は一番それを愛おしく感じていた。そして、その骨ばった手は、遠い遠い昔に光の中へ消えて行った……ような気がする。そして、気づくとここにいた。
私たちは、それぞれの思いを抱きながら、光を追い求めた。
しかし、あの光。矢のように早い。
何度も見失いそうになった。
その度に私たちは励ましあった。しかし、もう限界に近い。足ががくがくしている。
ところが、幸運なことに数百メートル先であの光の動きが鈍くなった。
その時だ。
どさっ。私は、何かにけ躓いて転んだ。
「大丈夫よ。」
すぐさま立ち上がろうとした私の足を、何かがつかんだ。
「ううっ、い、いた…い…。」
人の声だ。
「もう…すこ…し……。もう……すこしで……」
「おい!かまうな!!光がいっちまうぞ!!」
「光をつかまえてから、戻ろう。」
男たちは、そう主張した。
私は何かを感じて、左足を掴んでいた手を、そっと握った。
骨ばった手。
「私は、ここに残る。この人を見捨てては行けない。」
「何言っているんだ!!光をつかまえるチャンスなんだぞ!!」
「光をつかまえても、この人を見捨てたら、私には意味がないの。三人で追いかけて。幸せになってね。」
そういうと、男たちも黙ってしまった。
「ちぇっ、俺たちだって何が大事か分かっているさ。」
「私も、このまま行くのはいや。心配だもの。」
そう言って、少女も座り込んだ。
「よし、介抱したら、その人を背負って光の所へ行こう。」
「ありがとう。」
私は、骨ばった手を自分の胸に引き寄せた。
少女も、その骨ばった手を握った。
その瞬間……。ぱぱぱぁー。
私から、光が発した。あたりが私の光に包まれて、明るくなった。
色とりどりの花が咲き出し……。美しい木々の緑がひろがっていく。
隣の少女を見ると、少女もまばゆい光を発している。私は、驚きながらも、すべてを悟った。
「そうか。光ってこういうことだったのか。」
若い男が、茫然として言った。
「この世界が、こんな美しい所だなんて初めて知った。」
少女がうっとりして言った。
見ると、他の二人の男も光を発していた。
骨ばった手の持ち主は、追いかけていた光に吸い込まれていった。
「光は私たちの中にあったのね。」
私たちを中心に光が折り重なり、広がっていく。本当に本当に暖かい光。
そして、全てを思い出した。
あの骨ばった手。
……お母さん……。
「おぎゃぁ。」
元気な産声があがった。
私は、生まれた。記憶は持ち合わせていないけれど、今思えば人としての温かさはどこからか持ってきたように思う。
そして続けて、もう一人女の子が生まれ、男の子が二人生まれた。なんと四つ子だった。
光の世界に、私たちは産み落とされた。その中でも私たちはきらきら輝けるだろう。
だって望んでこの世に生まれてきたから。
そして。きっと優しさは生まれる前からあったから。
おわり
最後までお読みくださり、ありがとうございました!