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夕日が照らす公園で

まゆこのような一人でも凛とした女の子が好きです♡

周りに人が多かったため、まゆこは話しに応じました。でもよい子の皆様はしらない人に話しかけられても知らんぷりしてください。ましてや、絶対についていってはだめですよ。

 夕日が照らす小さな小さな公園に、中くらいの影法師がぽつんと一つ。とぽとぽと歩いています。

そこへ、公園のすぐ横の通りから、数人の女の子達の声が聞こえてきました。その影は歩くのをやめました。

「あっ、まゆこがいる!あの子、いつも一人でいるよね。友達なんかいらないって顔してさぁ」

「何があってもすましているよね」

「そうそう、いじわる言われても平然としているし、なんか腹立つのよね」

「もう相手にしないで行こう、行こう」


まゆこと呼ばれた女の子は、じっと地べたを見つめ、立っていました。まゆこちゃんの表情は夕日に照らされて分からなかったけれど、その影はどこかさみしそうでした。そして、いっしょうけんめい背筋をのばしているようにも見えました。


その時でした。

「まゆこちゃん、こっちにおいで」

と木の下のベンチから、優しい声がしました。

まゆこちゃんがびっくりして振り向くと、そこには全く知らない、でも優しそうで、美人で、品の良いおばあちゃんが手招きしていました。


まゆこちゃんは、おばあちゃんのそばに行きました。おばあちゃんは、大切なものをいつくしむように、まゆこちゃんを見て、

「とつぜん、ごめんね。チョコレート食べる?」

と、たずねました。

まゆこちゃんは、黙って首を振りました。

「そうよね。知らない人から食べ物なんてもらってはいけないと教えられているわね」

おばあちゃんは、チョコレートをしまうと、まゆこちゃんの頭をなでました。そして、突然話し始めました。


「ある夏の日。右足の不自由な女の子が、散歩中に、お気に入りの麦わら帽子を風に飛ばされてしまったの。この公園の高い木の枝にひっかかってしまってね。背伸びしてもとれないし、足が悪いから、木にも登れない。女の子は途方にくれて、今にも泣きそうだった」


まゆこちゃんは、最初は驚きました。が、自分に声をかけてくれた、この優しそうなおばあちゃんと何となくもう少し一緒にいたくなって、話に聞き入りました。そして、心配そうにベンチの後ろにある高い木を見ました。


「そこに、男の子が通ったの。女の子は、頼んだわ。『あの麦わら帽子をとってください。』って。男の子は黙って木に登ってくれた。そして、何も言わず麦わら帽子を女の子に差し出したの。無事麦わら帽子は女の子の手に戻った」


まゆこちゃんは、ほっと胸をなでおろして、少し顔をあげました。


「でも、女の子は困ったままだったわ。『ありがとう』しか言えなくて、何かお礼がしたかったのに、思いつかなかった」


おばあちゃんは、そこまで話すと、くすっと笑いました。


「そうしたら、その男の子、女の子にチョコレートをにぎらせたの。『これをやるから、泣きそうな顔をするな』って」


おばあちゃんは、はにかんで続けました。


「このお話は、まだ終わらないわ。」

まゆこちゃんは、続きが気になりました。


「それ以来、二人は友達になった。自然と男の子は足が不自由な女の子の手助けをするようになった。女の子一人では行けないところも、男の子が手を引いてくれて、行くことができた」


まゆこちゃんは、しずかにじっと聞いていました。


「ねぇ、まゆこちゃん。その男の子、本当に優しいでしょう?」


まゆこちゃんは、こくりとうなづきました。


「ふふ。でもね、女の子は引っ越してきたばかりで何も知らなかったのだけれど、その男の子、実は学校中の嫌われ者だったの。いつも一人ぼっちだったって。だから、人からお金をまきあげたり、すぐケンカをふっかけてみたりしていたんですって」


まゆこちゃんは、驚いて目を見張りました。


「でも、女の子には、世界一優しい人に見えた。出会った時、女の子には男の子の本当の姿が見えたの。実際、その男の子は、女の子に出会ってから、悪いことはいっさいしなくなった」


まゆこちゃんは、おばあちゃんの顔を見つめて、何か考えているようでした。


「こんな歳になるとね、その女の子のように、人の本当の姿が見えようになるの。おばあちゃんから見るとね、まゆこちゃんは凛としたしらゆりのような、とってもすてきな子よ」


まゆこちゃんは、口をぎゅっと結んで、泣くのをこらえているようでした。


「おせじなんかじゃないわ。まゆこちゃんが、すてきなのは一目見て分かったもの。おばあちゃんの目を信じてみて」

まゆこちゃんは、一粒涙を流しました。


「学校中の嫌われ者だったその男の子はね、やがて大人になり、女の子と結婚して父親となった。今は、家族や周りの人に愛されて、とても幸せに暮らしているわ」


まゆこちゃんは、涙を溜めた目をかくして、笑おうとしましたが、無理でした。


「お話は、これでおしまい。最後まで聞いてくれてありがとう。まゆこちゃんなら、もう少し大きくなればすぐ友達ができるわ」


まゆこちゃんが、何か口を開きかけた時、声がしました。


「お~い、迎えに来たぞ~」

「あら、おじいちゃんが迎えにきたわ」

おばあちゃんは、嬉しそうに声をはずませました。


「じゃあね、まゆこちゃん。また会えたら会いましょう」


おばあちゃんは、杖をついて、ベンチから立ち上がりました。


右足が不自由なようでした。右足をかばうように歩いています。

まゆこちゃんは、それを見てはっとしました。

おじいちゃんに手をひかれて、公園を後にするおばあちゃんを見送りながら、まゆこちゃんは、気づきました。


『それじゃ、あのお話の女の子は……。じゃぁ、あのおじいちゃんが……』


まゆこちゃんは再び歩き出しました。

夕日が照らす小さな小さな公園に、ずんと長~い影法師が一つ。先ほどと打って変わって、いきいきと今にも駆け出しそうにみえました。

そして、目の錯覚でしょうか。まゆこちゃんの表情は夕日に照らされて分からなかったけれど、影法師がふふっと笑った気がしました。

   

  おしまい



最後までお読みくださり、ありがとうございました。

誤字報告をしてくださった方、ありがとうございました!

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織花かおりの作品
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作成:コロン様
― 新着の感想 ―
[良い点] お友達がうまく作れないのか、少し寂しそうなまゆこちゃん。 嫌味を言われても、泣いたりいじけたりせず、反撃したりもせず、背筋を伸ばそうとする?姿は、おもわず抱きしめたくなります。おばあちゃん…
[良い点] 幼い頃、寂しさを認識したときの成長や気付き。まゆこちゃんの心は沈みゆく夕日のように寂しいけれど、おばあちゃんのお話をきいて「大丈夫かもしれない」と思えたんだろうと思いました。
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