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彷徨いし魂を求めて  作者: スピニングコロ助
立志編
1/9

第1話 プロローグ

ジリリリリ──


 目覚まし時計が鳴り響く。

 つまり起きないといけない訳だが……時計を止めた後、ついまた枕に顔を埋めてしまう。


 この眠気、柔らかいベッドで横になれば再び眠りに就いてしまうと確信できる。それでも俺は、あと5分と軽い気持ちで枕へと落ちた。

 それもこれも、もう一つ目を覚ます手段があるからだ。


「秋人〜起きなさい!」


 そう、一階から聞こえて来る母さんの声。

 それでようやく起きるなら、目覚まし時計の必要はあるのか? そう自分で考えた事もあるが、まあ念の為だ。普通逆だけど。


「ふわあぁ……」


 あくびをしながらベッドから降り、制服に着替えて一階へ降りる。

 こんなに眠いのは、昨夜スマホを遅くまで見続けていたからだ。そんな事をすれば朝がつらくなるのは当然だが、ついつい後を引いてしまう。


「ほら、遅刻するわよ!」

「おー」


 既に焼かれている食パンを咥え、テレビに目を向ける。


「んじゃ、父さんは行って来るからな」

「いってらっしゃ~い」


 俺より一足早く、父さんが仕事へ向かった。


「早く食べなさい秋人!」

「うーい」


 母さんが急かすが、俺は適当に返す。

 いつも学校に着く時間は、授業が始まるまで十数分ほど余裕がある。だから家を出るのが数分遅れても間に合うんだ。

 まあ不測の事態を一切考えない計算だが。ちょっと遅刻しても大丈夫だろう。


「母さん、行って来ます」

「いってらっしゃい」


 食パンを食べ終わり、俺は鞄を持って学校へ向かった。


  *


 よし、ギリギリセーフ。何だかんだで今まで遅刻は無しだ。


「おっす秋人。今日は悪夢の日だぜ」


 悪友の河野陽平が声を掛けてきた。

 悪夢の日、というのは察しがつく。今日はテスト返却日だ。


「絶対赤点だ〜」


 と、陽平が言う。

 『絶対赤点』『勉強してない』これらのフレーズは、実は勉強しているが謙遜する人間と、本当に勉強していない人間に分かれる。陽平の場合は後者だ。


「俺はまあ、そこそこ取れれば良いかな」


 俺はテスト前に慌てて勉強して、悪くなければお世辞にも褒められない点数を取る。


「みんなおはよう。テスト返すぞー」


 ガラッと教室の扉が開き、担任の先生がやって来た。


「赤川〜」


 名字を呼ばれ、俺は教壇へ向かった。


「前より下がったぞー」


 そう言われ受け取った数学のテストは57点。うん、赤点じゃないけど別にチヤホヤはされないな。普通かと言われると平均に達しているかも怪しい。


「良かったじゃんか。俺は39だ……」


 陽平は赤点……あと1点及ばなかったか。数学苦手だからな。


「「「え〜すっご!」」」


 と、数人の女子が声をあげた。

 その中心に居るのは、クラスのマドンナ姫川さん。顔立ちも然る事ながら、成績も優秀な高嶺の花だ。


「98点とかなんで取れんの!?」

「惜っし〜!」


 周りにそう褒められ、姫川さんは恥ずかしそうに謙遜している。


「スゲェな〜姫川さん」


 俺がそう声を漏らすと、陽平がわざとらしく首を振った。


「お前には勿体ないにも程があり過ぎるぜ。そろそろ諦めた方が良いだろ」


 と、彼女を密かに狙っている俺に、嫌みったらしくニヤリと笑って言ってきた。うわ、めっちゃ腹立つ。バカの癖に正論を突き付けやがって。


  *


 ふう……屋上で食べる弁当は格別だな。

 全てのテストが普通以下だった傷も、このそよ風に流して貰おう。


「お前さ〜将来何になんの?」


 不意に陽平に聞かれた。


「ん〜……」


 そう言葉にならない返しをして、何も考えていないと遠回しに伝える。


 将来、か……本当、何になろうかな。夢とか目標とか考えた事がない。

 学校に来て、友達と駄弁って、適当に授業聞いて、テスト前だけ勉強してやり過ごす。これもある種の普通の高校生活だと勝手に思っているが、これからどうなるんだろう。


 そんな感じだから高校受験も中の下を選んで、今いるこの高校は大したレベルじゃない。

 ……そう言えば一度だけ、親の勧めで水泳習ったな。辞めちゃったけど。


「ま、これから考えようぜ」

「そうだな。まだ時間あるし」


 そう2人で結論づけ、再び弁当を食べ始めた。

 きっと、同じ感じでどうにかなっていく。周りにもそういう奴いるし。


ヒュウッ……


 まだ暑いとまではいかないが、ずっと外で日の光を浴びていると首筋が熱くなる。程よい風がそれを冷やしてくれた。

 そうそう、このぐらいが丁度いいんだ。


ガチャッ


「あ、赤川くん、河野くん」

「え、姫川さん」


 そこへ屋上の扉が開き、姫川さんが現れた。


 いつもはここに誰も来ない。


ビュウッ!!


 突風が吹いた。


 俺の弁当に入っていた『よく寿司に付いてる緑色のギザギザしたやつ』が、風に飛ばされてしまった。

 このままでは街にゴミとして飛んで行ってしまう。俺はそれを追い掛けた。


「あっ、とっ……」


 が、追い付けず。

 柵に手を突き、ヒラヒラと飛んで行くそれを眺めるしかなかった。


ボキッ!!


 鈍い音。


「えっ──」


 壊れるはずのないそれが、折れて落下する。

 予想だにしなかった俺は、それに体を預けていた。


「秋人ッッ!!」

「赤川くんッッ!?」


 2人が俺を呼ぶが、俺はもう戻れない。

 壊れた柵の一部を追って……俺は屋上から落ちた。


「────ッッッ!!?」


 本当に恐怖に苛まれると、声が出なくなるのか。俺は叫ぼうとしたが、実際には何も言わなかった。

 いや何か言えたとして、その声を誰かが聞き取ってくれたとしても、こんな状況の人間を助けられる訳がない。


 え、死ぬのか、俺。


 待ってくれ、そんなの嫌だ。だって、だって……


 俺にはまだ、やりたい事がたくさんあっ────

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