剣一振りで異世界転生
気付けば、石造りの城に立っていた。
手には厳つい形状の曲刀がある。竜の牙から削り出したような威容、まさにドラゴンスレイヤーだ。
念願の武器をうっとりと眺める。
改めて周りを見渡すと、ローブを来た術師らしい人々が歓声を上げている。
「召喚の儀が成功したぞ!」
「これで我が国は救われる!」
そういえば女神が世界の救済がどうのと言っていたな。
「安心してください。私がこのドラゴンスレイヤーで全ての竜を倒してみせます!」
私がそう言うやいなや、場の空気が変わった。
「竜を倒す・・・?あなた何を言って」
そう術師の一人が口ずさむのと同時に、冠を載せた人物が近づいて来た。
王様、だろう。
「招かりし勇者よ。大儀である」
「はいっ。貴方様は、この国を統べる王とお見受けしますが」
「いかにも。我はこのイルグースを治める王、グラベルス・イル・グレイオである」
「お目にかかり光栄でございます。私は・・・菱村竜治と申します」
「異界の言は聞き取り難い。名は?」
「竜治です」
「リュージンであるか。これからよろしく頼む」
前世の古代、貴人以外は姓が無く呼ばれることがないって話はこの世界でも同様らしい。
(微妙に違うが、リュージン、竜神って感じで悪くないか)
そんなことを考えていると。
「して、リュージンよ。竜を滅ぼすと申したようだが」
「ええ。そのために女神様に願ってこのドラゴンスレイヤーを手にしたのです」
「ならぬ」
「えっ!?何故!?」
「見れば分かる、おぬし自身の技量、体力。とても竜に抗い得るに能わぬ。封印を解いたとて消し炭になるが必定よ。それよりも汝にはこのイルグースが直面する難題に対し助力をだな・・・いやしかしそれにも足りぬ。見れば分かる。何故だ?何故竜を屠る剣など携えて現れた。何らの力も与えられずに」
「いえ私は封印された竜を倒してですね」
「たわけが!既に封印された竜など、討伐の用も無い些事である!」
「もうよい、此度の召喚は『失敗』であった。この者は放逐する。野垂れ死ぬに任せよ。術師らは直ちに次の『勇者召喚』の準備を進めよ!」
こうして私は召喚されて間もなく見放されたわけである。嘘だろ!?