全人類鬼ごっこ計画
人間、魔族、エルフ、ドワーフ…様々な種族が存在するこの世界は遠い昔、巨大な隕石が空から飛来して氷河期に突入、世界の生物はその時ほとんど死滅してしまった。
しかし魔族がエルフに魔力を供給し、エルフが結界を張る。確保された安全圏で人間が知恵を出し、ドワーフが生活必需品を作っていく。各種族が協力することで過酷な環境に抗える文明レベルを築き上げ氷河期を乗り越え出来上がったこの世界は争いのない平和な世界であった。
凍った大地に緑が生い茂り、生物たちが自由に出歩くようになった頃
結界に供給される魔族の魔力を奪い、膨大な魔力を手にした一人のエルフが現れた。
その者は一番強かった魔族を強襲し、魔族の有識者達に服従の呪いをかけ国を占領し独裁者となった。
独裁者はその強大な魔力で隣国を征服し人々を苦しめます。
人々は次第に恐れを込めてその者を「魔王」と呼ぶようになりました。
時が立ち、魔王が世界の半分を手に入れた頃、共生都市シンビオスには魔族で最も魔力の扱いに長けた者、エルフの中で最も結界術に秀でたる者、人間の中で最も賢い者、ドワーフの中で最も多くの物を作り上げた者、そして全ての者の希望たる者勇者の5人が一人の人間と共に魔王を倒すべく集まっていた。
短くはない時間をかけて5人は魔王を倒すべく、力を結集し技術、知識、力を託した史上最強の弟子を作り上げたのだ。
5人と弟子は行く。
呪いを掛けられ服従するしかない魔族の民を殺すことは出来ず、魔族達を足止めするため
一人、また一人と離脱していく。
ある日一人の人間が魔王の元に辿りつく。
その人間は三日三晩の激闘の末魔王を討ち果たし
世界に平和をもたらした。
ーside 私ー
魔王を倒し、共生都市シンビオスに戻ってきた私は都市官邸で首長オスローと対面していた。
「世界の危機を救ってくれたこと、誠に感謝している。」
よくある謝辞を貰いながら長い話を聞き流す。
魔王を倒した今、この世界は再び平和へと向かい、徐々に各国の都市機能も回復していくだろう。
人々の心が癒えるにはまだまだ、時間はかかるだろうがそれでも一歩を踏み出していくのだろうと思う。
では、私は何をすべきか、それが問題だ。
これから先、平和となったこの世界で強大な力を如何様にすべきか判断に悩むところである。
正直な話、魔王を倒すというそんじゃそこらの人間では成しえないことをしたことから
やりきった感、燃え尽き症候群というやつだろう。そういうのでいっぱいだ。
しかし強大な力には義務が付きまとう。
ノブレスオブリージュというやつだろう。
と、顔には出さないものの悶々としていたところオスローから気になる発言が飛び出した。
「 正直、言いにくいのだが魔王を倒し、比肩する者のいなくなった君を怖がる民も出てきている。
まだまだ小さいが君を排斥しようとする輩も存在している。
そこで君に提案だ、世界と鬼ごっこしてみないかね?」
この奇妙な提案から世界を股に掛けた私 対 人類の鬼ごっこが始まったのだった。