すくわれた金魚
金魚視点からのお話なので、あなたは金魚になります。舞台は祭り。人が考えた金魚視点を、どうぞお楽しみ下さい。略したら人魚視点ですね。
なんでもありません。
やあ。
僕は金魚だ。名前は金。
読み方は「きん」じゃないぞ。「こがね」だ。
僕の飼い主が付けたんだ、僕をすくいだしてくれた。
僕は、かつて金魚すくい用に養殖されていた。
その数一万匹程。デカい水槽だし、たくさん友達もいたから、別にこのままでも良かった。
正直楽しかった。
そんな僕にも、運命の時はやってくる。僕はとうとう出荷され、底の浅い、狭い水槽に20匹程と一緒に入れられた。
どんどん、周りの金魚がすくわれていく。僕は生まれつき体が小さく、友達の中でもあまりいい柄がついてなかったから、きっとすくわれることはない。案の定、祭りが終わる間近、僕だけが残っていた。おじさんが片付けを始めようとしている。
…なんだか虚しい。いきなり、連れられて。売れ残ったら、処分。毎回だぜ。そんな人気でもないのに。定番ではあるけど。
…今更、だな。
いいよ、おじさん。3時間程だか、面倒見てくれてありがとな。
「ああ、良かった!最後の一匹だ!」
ん、なんだ?一人の男子がこっちに来る。
「おじさん、まだとれる?!」
「おお、いいぞ。もう片付ける時間だが、特別な。」
「やったぁ!!」
え、何。僕をすくう気なのか?
うわぁっ?!うぉぉ…。
すくわれるってこんな気持ちなのか。少し癖になるな…。
「獲れたよ!おじさん!!獲れたよ!!」
「おう、よかったな坊主。ほれ、それ貸せ。袋に入れてやる。」
僕はお馴染みのあの巾着状のビニル袋に水と一緒に入れられ、男子に渡された。
急に見える景色が変わる。さっきまでいた水槽、こんなちっちゃかったのか。そりゃ狭えよな。
「じゃあね、おじさん!」
男子が走り出す。お、おいこらお前、走んな、酔うだろ…。
僕はあらかじめ用意してあったらしい水槽に入れられた。四角い、少し小さめの水槽。水草も付いてる。気が利くな。
男子がわくわくした目でこっちをじっと見ている。僕はその目を見つめ返す。僕らはずっと見つめあっていた。
「あら、本当に終わり間近に行ったの。よく一匹だけ残ってたわね。」
「うん!やっぱり一匹だけのがいいよ、たくさんいるとすぐ見失っちゃうんだ。」
「そうなのね。名前はもう決めたの?」
「うん!こがね!金って書いて、こがねだよ!」
「あら、いい名前ね。」
「えっへへぇ」
僕はこがねに決まったらしい。なかなかいい名前だな。きんじゃないのか。まぁ、こがねのが格好いいよな。
男子が水槽に顔を近づける。
「よろしくね、こがね!僕はゆうさく。出尾優作だよ!」
このお話は、私のデビュー作となるので、夢の短編小説にしました。きっと祭りの金魚たちはこんなこと思ってるんじゃないかな、と想像している時間はとても楽しく、指が止まることなく書き上げられました。如何でしたでしょうか。宜しければ感想、お聞かせ願えると幸いです。
これからも連載ものやまた短編など書いていこうと思いますので、「またこいつか」レベルでも、名前だけでも覚えて頂ければと思います。
お読み頂き、ありがとうございました。
では、また会える日まで。