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異世界アバター冒険記  作者: 青ひつじ
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第6話 本当の目的は


「ここが目的地の五階です。主なモンスターはオーク。奴らはお世辞にも良いドロップを残す訳では無いので冒険者には不人気なのですが、今回のように魔石が目的の人には人気の狩り場です」


 ミルテイシアが説明する。

 通常、ダンジョンに挑む冒険者は自分自身を強化する以外に、ドロップを入手するという目的がある。


 ドロップとはモンスターを倒した際に残すアイテムである。

 それは食料だったり、武器防具の素材、魔道具の素材であったり色々だ。冒険者はドロップを売却して換金し、生活費に充てる。


 だが今回の壱成の目的は魔石である。

 オークは比較的魔石を良くドロップするらしい。


「魔石って売れないの?」

「もちろん売却できますよ。でも、他のドロップ品を売って魔石を購入するよりも効率的でしょう?」

「売買すると、それだけ店に手数料を取られるからかな?」

「そんなところですね」


 壱成達はこの日から数日間、ダンジョンの五階に籠った。

 朝から晩までオークを倒して魔石を集める。

 もういい加減、飽きて来た感じだ。


「えーっ、これだけ集めたのに百人分なの?」

「そうですよ、壱成どの。だから戦争はおカネが掛かるのですよ」

「ううう、中尉からは最低でも五百人分くらいは集めろと言われたのに……」


 壱成としては、かなり大量に魔石を集めた気分でいたのだが、ホムンクルスのスキルで実際に兵を作るとなると、この量でも百人分くらいしか作成できないと聞いて一瞬で気が萎えた。


「壱成どのの実力なら、もう少し深い階に潜っても大丈夫かもしれませんね。我々は訳あって五階までしかご一緒できませんので、また別の冒険者とパーティを組んで進んで見ても良いかもしれません」

「そうなの? 君達のほうがもっと強そうに見えるけど」

「ふふふ、ありがとう」


 五階より下に進めない訳というのが少し気になった壱成であったが、奇しくも直後に理由が明らかになる。


「姉さん、見つけたよ」


 寡黙なラシルドが何かを発見したようだ。


「本当ね、間違いないわ。やはり此処にあったのね」

「どうする? 一旦戻った方が良いかな」


 そう言いながらラシルドがちらっと壱成達を見やる。


「大丈夫でしょう。この階なら彼ら二人でも問題ないわ」

「分かった。準備するよ」

「お願いね」


 ミルテイシアとラシルドの会話から壱成達は取り残されていた。何の事かさっぱり分からなかったからである。


「すみません壱成どの。契約違反になってしまいますが、これでパーティを解除してもらえませんか。少し急用が出来てしまいましたので。お詫びに本日分の魔石とドロップ品は全てお渡しします」


 契約違反うんぬんよりも、この場この状況でパーティ解散というあまりの展開に壱成は当惑する。しかし彼らの表情から何かを悟った壱成は何も言わず、その場を後にした。


「ミシェル、こういった事はよくあるのか?」

「急なパーティ解散ですか? 冒険者の事はあまり詳しくありませんが珍しい部類に入るのではないかと思います」

「だよな。何か様子が変だったからね」


 しばらく待機したあと、壱成はミルテイシア達と別れた場所まで引き返す事にした。

 彼らに気づかれない様に、様子を伺おうと考えたのだ。


 その頃ミルテイシア達は、事を為すための準備が整っていた。


「いいかい姉さん。魔石は一つしか無いから一度きりだよ」

「わかってるわよ。あなたこそ、トラップの完成度は大丈夫なんでしょうね?」

「はは、姉さん。声が震えているよ」

「う、うるさい!」


 この隠し扉を開ければ化け物が動き出す。

 その事実が彼らを緊張感を最大限に高めている。


 彼らの本当の任務は、このダンジョンに隠された王家の神器だったのだ。

 長期間に渡る調査の末に、その隠し場所を発見した。


 そして、神器を守るガーディアンが居る事も既に調査済みであった。

 今から彼らが相対する敵だ。


「行くよ姉さん」


 返事を聞く前にラシルドが扉の仕掛けを解除する。

 ダンジョンの壁に細かい亀裂が無数に入ったかと思うと次の瞬間、もろく崩れ去った。


 崩れた入り口は二メートル四方程度の大きさであったが、中は巨大な空洞となっていた。

 入り口のちょうど対角線上に、土で出来た巨人が佇んでいる。


 宝を守るガーディアン、ゴーレムだ。


「ラシルド、早くトラップを設置するのよ!」

「わかってる。姉さんも気を付けて」


 既に動き出しているモンスターの気を引くべく、ミルテイシアはダッシュする。奴は巨人にあるにもかかわらず、熟練の冒険者に引けを取らないスピードで動くのだ。


 自身の身体能力だけでは避けきれないと判断したミルテイシアは風の魔法を駆使し、自らの移動スピードを高める。少し掠っただけで骨が砕けてしまうほど、ゴーレムの打撃は強力である。少しのミスも許されない。


「出来たよ姉さん! こっちに誘導するんだ」


 ミルテイシアによる必死の時間稼ぎにより、ラシルドのトラップ設置が完了した。


 彼が設置したのはフリーズトラップ。

 足を踏み入れると強力な冷気の魔法により、全身が凍り付いて身動きが取れなくなる。特別な魔石により大幅に強化されたそれは、例えゴーレムであっても抗う事は出来なかったようだ。


 狙い通りにトラップが発動し、ゴーレムがその場で固まる。

 そこまでは計画通りだったのだが、モンスターのパワーが想定外であった。


「おおお、なんて馬鹿力なんだ。これじゃあトラップが持たないよ!」

「直ぐ撃つわよ! 下がってなさい」

「分かったよ姉さん」


 尋常では無い程の強化がされたフリーズトラップであるにも関わらず、僅かな時間しかゴーレムを拘束出来ない。その事実が彼女の焦りを誘う。そうでなくともチャンスは一度きりなのだから。


 ミルテイシアは触媒となる魔石を握りしめると、素早くゴーレムの足元に移動する。


「フレイム・ピラー・マキシマム!!」


 ゴーレムに直接、魔法を叩き込んだあと自分は風の魔法を使って一気に距離を取った。


 数秒後、まばゆい光と共にゴーレムの体が高熱の火柱に包まれる。

 まさに灼熱の炎である。おそらく鉄で造られた鎧であっても一瞬で溶解してしまうだろう。


 成功だ――。


 二人がそう思ったのも無理は無い。

 十メートル以上離れた場所であっても肌が焦げるのではないかと思う程の威力なのだから。


 しかし、モンスターは活動を停止しては居なかった。

 確かに全身は焼けただれ、動きも随分と緩慢になっているが、その両足は着実に大地を踏みしめている。


「姉さん……一旦退こう」

「だめよ、他の冒険者に被害が出るわ。それに、神器を取り戻さないと」


 二人は戦いを選択した。

 モンスターがどれだけ余力を残しているのか分からない。先ほどまでと違い、風の魔法を使わなくてもギリギリ攻撃が躱せるようになっているものの、破壊力は衰えていなさそうだった。


「ぐぁぁぁぁぁあああ!!」

「ラシルド!!」


 風魔法のブーストが無い分、ラシルドの方が動きに余裕がなかった。

 そこをゴーレムに突かれたのである。


 僅か一振りで彼は戦闘不能になってしまった。


(まずい! 私ももう魔力が残り少ないのに!)


 適度にファイヤボールを撃ちながらヒット・アンド・アウェイを繰り返していたミルテイシアであったが、それももう限界だった。


 ラシルドを抱えて逃げるか、と一瞬頭を(よぎ)った時である。

 一個のファイヤボールがゴーレムの顔面を捕らえた。


(えっ? 私は撃ってない!)


 振り返ると壱成が立っていた。


「壱成どの!! 戻ってくれたんですね」

「なんだコイツ。直撃したのに涼しい顔してるぞ」

「強敵よ! ちょっとくらいでは死なないわ。撃ちまくって!」

「わかった!」


 壱成は一瞬とまどったものの、素早く粒子を操作して連続で火の玉を放つ。

 ここ数日間でさんざん撃ちまくったので、もう慣れたものである。連射もお手のものだった。


(すごいわ……あんな連射、高レベル魔術師でも出来ないのに……あ、ラシルドを助けなきゃ!)


 壱成が鬼の様に連射してくれているお陰でゴーレムの意識は完全に彼に向いていた。

 その隙を使い、ミルテイシアがラシルドの元へ駆けつけてポーションを使う。


 当然の事ながら、上級ポーションを出し惜しみしている場合では無かった。


「うっ……姉さん……」

「気がついた? 見て、壱成達が戻って来てくれたのよ。あなたは少し避難してなさい」

「僕も戦うよ」

「ダメよ、完全には回復してないわ。それより、フリーズトラップ用の魔石、まだあったよね。私にちょうだい」


「無理だよ、こんな状態でトラップ設置なんて。そもそも姉さん使えないじゃないか」

「トラップには使わないわ。異極爆破よ。火系統の魔法と混ぜ合わせてやれば、今の奴には相当堪えるはず」

「異極爆破だって? ばかな! 姉さんもタダじゃすまないぞ!!」


 ぐずっている弟から無理矢理のようにミルテイシアが魔石を奪い取る。


「姉さん、せめて僕を盾にしてくれっ。体は姉さんより頑丈なのだから」

「私の魔法はもう残り少ないの。あとはあなたが仕留めて頂戴。心配しないで。私も風の魔法で体を守るから、死ぬ事はないわ」


 風の魔法で防御出来る威力なんてたかが知れている。

 しかしミルテイシアにはもう、残された手段が他に無かったのである。


「壱成どの! 私が接近戦を行います! もう暫く、援護をお願いね」

「わかった」


 死ぬ事はないが、果たして五体満足で残る事ができるだろうか。

 彼女の頭に恐怖の二文字が浮かび上がる。

 ハイレベルポーションでも治す事ができないようなケガを負う可能性もあるのだ。


 ゴーレムのパンチを浴びて人形のように飛ばされるミシェルが視界に入る。あのNPC兵は確かEランクだったはず。とてもじゃないがゴーレムの攻撃に耐えうるだけの丈夫さは持ち合わせていないだろう。もはや一刻の猶予もならなかった。


 ミルテイシアが覚悟を決めて駆け出した。

 ゴーレムは相変わらずの出鱈目な攻撃元である壱成に意識を捕らわれている。懐に潜り込むのは簡単であった。


 彼女は魔石を直接ゴーレムの左足にあてがい、火系統の魔力を流し込む。

 残り少なくなっていた魔力が尽きる寸前、臨界点に達した事を感じ取った。


 異極爆破は即発動するので、距離を取るヒマは無い。

 もう雀の涙ほどしか残っていない魔力を全て注ぎ込み、風の魔法による障壁を作った。


 水系統の魔石の中で火系統の魔力が渦を巻き、行き場を失った魔力が魔石内に蓄積されたパワーを一気に開放する。


 まるでダイナマイトの爆破シーンのようだ、と壱成は思った。


 ミルテイシアが吹き飛び、ゴーレムの左足が粉々に粉砕される。

 片足を失った土の巨人はバランスを失ってその場に倒れ込んだ。


「姉さんっ!!」

「だ、大丈夫よ。私の事は良いから早く奴に(とど)めを……」

「くっ! ちくしょう!!」


 今まで全く感情という物を見せなかったラシルドが必死の形相でゴーレムに襲い掛かる。その光景を見た時、壱成はようやく事態を飲み込んだ。ミルテイシアが捨て身の攻撃をしたのだ、と。


 問題は何を優先するか、である。

 ゴーレムを倒すか、ミルテイシアを治療する。あるいはミシェルの治療か。


 こんな時でもやはり、壱成の心は冷静であった。

 所詮はアバターな世界なのだから。


 彼以外にとってはリアルなのだが。


 壱成は、まずミシェルの様子を見に行った。

 かなりダメージを受けていたものの、命に別状はなさそうだった。


「後で治療してあげるから、少し離れて居るんだ」


 そう指示すると、今度はミルテイシアの元へ向かう。

 こちらも命に別状はない感じだ。ただし至近距離で爆破を受けたためか外傷は酷かった。おそらく頭部と心臓の防御に注力したのであろう、手足のダメージが濃い。特に右腕などは千切れ掛かっている。


「巻き込まれるとマズいんで、少し移動しますね」


 壱成は彼女を部屋の隅に置くと、いよいよ戦いだとばかりにゴーレムと向き合った。

 しかしながら、あれ程ファイヤボールを叩き込んだのに一向に力尽きる気配が無い。


 このままではダメだと思い、彼は少し考えた。

 ファイヤボールを放つ際、TS系の粒子を多く練り込んで見る。


「とりゃっ! ……だめか」


 あまり変化がなかったので、今度はRbl系の粒子を増やしてみる。すると、明らかに火の玉の大きさが変わったのである。


(おおっ当たりかも)


 モンスターは片足を突いた状態でラシルドと闘っているため、狙いが付けやすい。

 それはもう、たっぷりとRbl粒子を盛り込んだ特大火の玉を壱成が放つ。


「でやっ!!」

「ギュォォォォオオオオオオ!!」


 なんとゴーレムが呻き声を上げた。


「なな、なんだ今のは?」


 ラシルドも目の前の敵に突然巨大な火の玉がぶつかって仰天する。


「もう一ついってみよう!」


 壱成は調子に乗って特大火の玉を連発する。


「ガ……ガガ……」

「すまん! 一つとか言いつつ大量に撃っちゃったよ。なはは」


 ゴーレムはもう、悲鳴さえ上げる事が出来ない。

 ズシン、と大きな音を立てて力尽きた。



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