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序章 第九話 トトカルチョ

「フィジカルブースト、フィフス!」

「ファイアランス!」

「シールド!」

「ストレングスボディ!」

コロシアムの地下にある鍛練場にミリアの鍵言が響く。


ミリアが創った属性カードの性能試験である。


伯爵達は秘密保持のために1時間ほど鍛練場を貸しきりにした。


20メートルほど離れた、ミスリル合金の鎧を着せた案山子を仮想敵にみたてての攻撃。


物理法則を上書きして、ミリアの放った鍵言に応じた事象変成が起きる。


先にファイアランスが着弾し、拳大の穴を胸当てに穿ち、そのまま背中に抜けた炎の槍は、背後の土嚢を吹き飛ばしてやっと止まる。


と、すぐにダッシュしたミリアが一息で追い付き、魔術で生み出した盾でシールドバッシュを繰り出し、激突の勢いを回転運動に変換しつつ、腰を捻ってすれ違い様に鎧の胴を一閃。


剣で上下に真っ二つになった鎧が1拍おいてズレ落ちる。


伯爵、大賢者ともに目が点である。


漫画ならともかく…

現実世界で、ミリアのような線の細い娘が、金属製の…

しかもミスリル合金を、すれ違い様の不安定な姿勢から、剣で一撃で叩き切るなどあり得ない。


いろいろ手遅れな気もするが、

もしも、この世界にミリアの術式や術式カードによるブート技術、本当の意味でのデュアルブート技術が拡がった場合、世界に与えるインパクトは魔術版の産業革命が一夜にして唐突に起こった。それぐらいの影響力があった。




剣を鞘に納め、ミリアが歩いてくる。

「どうかな?」


声をかけられて、ハッとする二人。

「今のは全力だよな?」

伯爵は背中に寒いものを感じながら問いかける。


「えっ?かなり加減したんだけど、あの鎧は練習用に脆くしてあるのかな?」

ミリアは息一つ乱していない。

「…」

「……と、取り合えず、属性カードも使えることがわかったから、上で作戦会議だ」

「りょーかいっ!」

いろいろ、この世界の常識を置き去りして、ミリアは上階への階段を駆け上がる。


「見た目は天使かと思っていたら…」

「…中身はドラゴンだったのう」


「伯爵達?何かいった?」

階段の途中で振り返るミリア。


二人そろって、仲良く首を横にふったのであった。


ミリアはいったい、何と戦うつもりなのか…

オーバーキル必須であろう。



コロシアムに併設のオーナー貴族の施設は、広めの6LDKに似た間取りになっている。


そこのリビング兼ミーティングルームにミリア達は集まっていた。


「闇カラスからの報告では、耳長族の族長…エルフの王と王妃は健在だそうだ。世界樹の周りに結界を張って籠城しておられる。ただ結界をもしも破られたら…その時は最後の総力戦になるだろう。結界はもって2ヶ月というところだ」


「…ありがとう…」

こちらの世界の両親は無事とわかり、ミリーは安堵した。


「時間は限られている。各地の世界樹の『子枝』に残る耳長族(エルフ)の救出と、世界樹を守るための軍の編成を短期間に、しかも教会にも気づかれないようにやらなきゃならない。」と伯爵。


「なら…資金と武器に人材ね」

現代知識を取り込んだミリーなら、出来ることはたくさんある。


「ああ…そうだ。ただ…さすがに資金も底を尽きそうでな…ないものを憂いても仕方ないが、何とかしたい」

ミズホ辺境伯の資産をもってしても6000人近い難民(エルフだけではなく、小人族や妖精族、獣人族も疎開させている)の保護、避難のための移動、難民キャンプの維持でギリギリの状態である。


「伯爵?この世界には賭けの仕組みはあるの?」

ミリーの基本の共通語コモンの言語中枢はミリアベースなので「存在の融合」が進むと、身体のほうの「感覚」に引っ張られて、どうしても幼い言い回しが多くなるようだ。



「コロシアムにはトトカルチョがあるぞ。何か策があるのか?」


「まだ、何ともだけど…賢者レオナルド?」


「ワシはレオで良いぞ?」


「なら…賢者レオ、さっきの属性カードの上位バージョン創ったとしたら?勝てると思う?」


「内容にもよりけりじゃが…上位バージョンでなくともミリーが勝つであろうの。あのような術式はこの世界にはない上に、消費する魔力も極めて少ないようだからの。獣人でも発動できる魔力量じゃろ?その上、魔力がある限り、頭を潰されての即死以外、欠損も治せるときておる。それに加えてミリーの魔力量…複数魔術の同時行使…」

レオナルドは口に出して確認していき…はて?このスペック…魔王か何かだっただろうか?と、ふと彼は思った。


「良かった。トトカルチョは自分自身にも賭けられるの?」


「可能じゃよ。通常は奴隷が賭けに勝っても、主のものにされるがの」


「伯爵?」


「?」


「ダブス伯爵だっけ?そこ以外にこのカードは売れるかな?」


「あれはミリーの切り札ではないのか?」


「私はカードが無くてもデュアルブートできるよ。それに防具も軽く出来るから速さでも負けないと思う。だから他のオーナー貴族に売りながら、味方につけられるとこを取り込んじゃお?」


もの凄く軽く「とりこんじゃお」なんて言っているが、売りつけようとしているのは、ロストマジックも含む稀少な技術である。話にのらない馬鹿はいない。


「…なるほどな。その資金をトトカルチョに入れるんだな?」


「そう。でね、生活魔道具も創って、どっかで売れないかなと思って…」


「ミリーよ…念の為に聞くが、それはどんな魔道具かの?」


「えーと…」


そこで出てきた魔道具は、この時代に存在しえない物ばかり。

「お、オーパーツだな…」

伯爵も驚きを禁じえない。


さらに言えばミリーは、この世界に前例がないことを良いことに、創ってみたかった魔道具を、このさい自重なく製作するつもりなのだ。


例えば「空間拡張」の術式で荷車などを拡張する場合、日本でなら最大倍率3倍まで、おまけに拡張体積に応じた税が事象改変器具製造法により加算されたりする。



作戦会議の結果、いろいろ方針が決められた。

その一部。


・コロシアムの他のオーナー貴族に術式カード(リミッター付き)を販売による資金稼ぎと戦力の取り込み。


・ヒノモト商会(伯爵出資の商会)での魔道具販売による資金稼ぎ。

コンロ、計算機、浄化(洗濯)、拡張鞄など多数。


・伯爵の探索者パーティーによるレアな素材の採集、販売による資金稼ぎ。


・避難民自身が自活出来るだけの魔道具の製作と貸し出し


・闇カラス部隊を増強しての救出作戦の続行


この他にも細々とした内容が話し合われた。


次の興行まであと1日。


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