序章 第三話 戦いの記憶
目を覚ましたものの、蘇生直後は血が充分に戻っているとは言えず、今は強い目眩におそわれていた。
「ゴフッ」と血を吐けば、世界が紫に染まり絵美里は意識を手放した。
「ふむ…まだ安定せぬか…
騎士の方々、この者の身体を清めお渡しいたしますゆえ、しばし外にてお待ちを」
「…うむ、早くするのだぞ」
「卿の命令あらば早急に」
施術官が深い礼をとったのを見て、部下の騎士たちは隣の待機部屋に移った。
★
モンスターと戦っていた。やけにリアルでゲームとも思えない。
何物をも粉砕せんとする鋭い爪が振り抜かれ、こめかみを掠める。
そこで痛みを感じる。
夢…ではない。
これはこの身体の記憶だ…
紙一重で回避し、敵の懐で沈みこむように鋭く旋回、剣の切っ先を下から上へ、斜めの太刀筋で脇腹から胸を通り、首に深い傷を与える。
だが
牛頭の怪物は(神話やゲームに詳しい者であれば、ミノタウルスと呼ぶであろうもの)
上体を後ろに反らし、すんでのところで致命の一撃を回避した。
同時に彼女は太刀筋に反することなく、身体を回転させ、瞬間的に加速すると、
狂ったように振るわれる爪の暴風圏から逃れることに成功する。
ミノタウルスは上半身血塗れではあるが、戦意は衰えていない。
睨みあうことしばし。
ミノタウルスが間合いを詰めるべく、土煙を上げながらダッシュ、それに対しカウンターを狙い、三歩の距離を一息で詰める。
剣でするどく刺突。
ミノタウルスの背中からは剣がはえ、この身体には深々と爪が刺さっていた。
やがて、両者はその場に倒れふし、体温を失う。
寒い…とても寒い…
記憶はそこで途切れていた。
実に、この短期間に二回も「死」の経験するものなど、そうそうおるまい。
ゆっくりと意識が浮上する。
遠くで話し声がする…?