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序章 第二話 覚醒

その者は酷い混沌の中にあった。


懐かしい人の顔が、次々と浮かぶが、決まってそれらの顔には黒いモヤがかかって判然としない。


- 私を呼ぶのは誰? -


黒い染みのついた寝台の上に粗末なシーツのような布をかけられた人と思わしきもの。


- あなたは、何故泣いているの? -


周囲は大理石のような石材でローマ様式で建築された部屋の一室。


- 泣かないで、もう大丈夫。私がいるよ -


紅とも紫ともつかない魔法の光が、天井から吊るされた燭台に取り付けられた照明石から放たれている。


- 待って!そっちにいっては駄目! -


それは、ゆらゆらとゆれ壁面に、あたかも怪物のような影をつくっていた。


- 離さないで…何かに引っ張られてる? 光 … -


「がはっ、ゲホゲホ…」

跳ねるように上半身を起こすその人影は、十代前半の少女のようで。


銀色の髪は戦いの跡か所々黒く血で汚れ、慎ましやかな双丘を隠す粗末なシーツ以外、上半身はなにもつけていない。


少し垂れ気味ではあるが、ぱっちりとした目。しゅっと筆で引かれたような眉毛。


「この者…姿変わらず生まれ直したが…何を贄にした?」

コロシアムの地下で、蘇生を担当した術者は、そのすぐ脇で酷く戸惑う。


「それは珍しいことなのですか?」

フードを深くかぶっているため、わからないが…若い声の術者が問う。まだ赤の法衣は新しい。


ここには少女を含め三人の人影がある。


「ん?…そういえば君は初めてだな」

フードを深く被り猫背な施術官は、嗄れた声をしぼる。


「はい…」

少女が吐き出す血を、怯えながら布でぬぐっている。


「ここでの蘇生は神聖魔法にあらず、呪いの類いなれば。死の意味を曖昧にするために、自らの肉体の一部を贄とし、死の因果とともに無かったことにする。」


若い施術官は、年老いた施術官の背中に、得体の知れぬ尖った翼……悪魔の姿を幻視した。


「しかして喪った肉の部位に冥界の魔物の一部を備えて生まれ直す。これが、コロシアムでの蘇生の正体。」 

老いた施術官の目がフードの下で妖しく輝く。


「なんという…ではこの娘がさきほど戦って倒したモンスターは…」唾を飲む音がゴクリと響く。


「元は人間、この娘と同期のグラディエーターだ」

いつの間にか、入ってきた貴族と思わしき男が代わりにその問いに答える。


「ミズホ卿!?」

老いた施術官は驚いて振り返った。


縫い目のしっかりとした絹のようなシャツに、光沢のあるズボン、靴は編み込みのブーツ。それは、この空間には異質に過ぎた。

「…どこか目立たない部位が贄になっているのでは?」


「これは卿、…死を隠蔽するのはなまなかことではありません。腕一つ、足一つ、時には頭以外の全身を贄にせねば釣り合わぬ死もあれば…不思議なこともあったものかと」


「ゲホゲホ…○※ξΦ…」

「ん?もう話せたか…しかし言葉が…」


ミズホ卿と呼ばれた男と目があう。

平たい顔?東洋人?ここどこ?

彼女は盛大に混乱をきたしていた。


まず麻酔のように身体の一部に感覚がない。14歳の時に沖に流されて溺れかかった時のように息も苦しい。


視野から入ってくる情報は、そのどれもが連続する記憶に断絶を生むものばかり。


石黒絵美里(28)は某大手ソフトウェアメーカーの開発部で働く、父をドイツ人、母を日本人に持つハーフである。

それにしても…視界の端には自らの髪が見えるが、それは銀色などではなかったはずだ。


最近のお気に入り「フリースタイル剣道」いわいるチャンバラ道場に向かっていたはず。


そして同僚の美津子と話しながら歩いていて、そこへ…


居眠りと思われるワゴン車が迫ってきて、歩道の段差でバウンドした車体の下回りが見え、バンパーに弾かれて縁石で強かに頭を打った…はず。


助かるわけがない。

その直後に、頭上から降ってきた後輪に押し潰されたのだから…

護身用の術式は、そんな大質量を受け止め切れない。


美津子は…たぶん大丈夫。

弾かれて、歩道横の緑樹帯につっこんだのがチラりと見えたから。



絵美里の首もとには、蘇生前にはなかった、楓の葉のようなアザが浮かび上がっていた。


「やはり…」ミズホ卿と呼ばれた貴族は、ひとり呟く。


絵美里の生きた世界。


それは、魔法が「隠蔽」されずに一つの技術体系として発展した、私たちの知る世界とは微妙に異なった世界。


絵美里はごく普通のソフトウェア会社に勤めるプログラマだった。

私たちの世界のプログラマーと大変似通っている。


「事象変成技術課、主任技師」

彼女の役職名である。


(絵柄はスマホのようなものを操作して水が出たり、火がでたりする絵柄)


彼女の作る「ソフト」は実用的で便利なものが多く、要求リソースも極限まで減らしているので、端末に標準で搭載されるものが多かった。


いわいる天才の頭脳、リアルチートというやつである。


「お疲れさま」

「あ、お疲れさま~

エミーは週末はまたチャンバラ道場に行くの?」

「うん…なんかはまっちゃってね、剣道よりも面白くて」

「そうなんだ」

連れだって歩き。

そこへ、車がつっこむみ…私は死んで…そしてここは?


と、さきほどの見つめあうシーンへ


(どういうこと?私は助かった…いや、死んでどうにかなった?…ここは病院じゃないし。そもそも身体がおかしい、痺れてる?)

「…」卿発言

「○※ξΦ」(おかしい、相手の言葉は理解出来るのに、話せない。)


「この娘は、私がもらい受けよう。対価は金貨100枚だったな。私の工房に運んでくれ」

(ちょっとまて!買う?私を買う?どういうこと!?たった金貨100枚?私が?)


関西人がもしいたなら、こう絶叫したに違いない。

つっこむとこはそこかいっ!? と。


「はっ、かしこまりました」ミズホ卿付きの騎士が応える。


「卿も闘技に興味があったとは、良い趣味をお持ちで」

施術官はミズホ卿に揉み手をしながらそう言った。


(何が良い趣味なものか。私は予見にしたがったまでの話。確かに首にアザがある…)

「ああ、そうだな。この者が次のグレゴリオ杯を征する姿が目に浮かぶ。後は頼んだ」


ミズホ卿は部下にその場を託し出ていく。

「はっ!」部下たちはただちに略式の礼をとった。

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