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序章 第一話 はじまり

「あ…」


目覚めた時に、頬に流れた涙に気づく。


たぶん、家族がまだ揃っていたころの夢。


父と妹は、私が小学3年のころに、ドイツに向かう飛行機ごと行方不明になった。


懸命な捜索にもかかわらず、機体の破片すら見つからなかった。


まだ、なんだかボーっとしてはいるけど、でもとりあえず起きないと。


古びたアパート、隣の部屋を覗けばすぐにダイニングと向こうに玄関が見える。


限られた領域に築かれた生活圏は、快適ではないかも知れないし、将来を思うととても儚く感じる。


でも少なくとも「明日」程度の未来の居場所を約束してくれる束の間の温室だ。


目覚まし代わりのテレビがニュースを流してる。

『次のニュースです。昨年の12月に発売された世界初の脳波共振型VR器「エビデンス」使用中のユーザーが、相次いで意識不明の状態となる事態を受けて厚労省は…』



日差しで脚が変色してしまったテーブルの上にはラップに包まれた朝食が置かれている。


母の作りおき。


あぁ… まだ夢から覚めていない。


作りおきなんて、もうあるわけない。


何故なら母はもういないのだから。


だから、これはまだ夢。


出来るなら、作りおきなどではなく、せめて夢なら母の顔をしっかり見たかった。



意識が浮上してくる。


「絵美里!大丈夫か!?…」


いろいろ声が…

声が防護用のヘッドギアごしに聴こえる…


ああ、なんだ そうか…

踏み込んだところをカウンターをくらって気絶してたのね…


「だ…大丈夫だよ」


ここはチャンバラ道場(フリースタイル剣道が正式名らしい)

の床に片手をつき、身体を捻って起き上がろうとする。


「とりあえず、起き上がれても一度休憩だな」


コーチが手を貸しながら声をかけてくれる。



「石黒さん、絵美里さん…ごめんなさい。あまりにキレが良かったからつい本気になってしまって…」


そっと、とりまくような位置でアワアワしていた今日のスパーリングパートナーの高岳さん。長身スレンダーな女性。モデルさんだ。


「こちらこそ、ごめんなさい…集中にかけていたわ」



とりあえず、吐き気のない事を確めながら、ゆっくり移動して脇のベンチに腰かける。


高岳さんも隣に。

何とはなしに話しだす。

「石黒さん、本当にごめんなさい」


「ああ…いいって。私もボーっとしてたし。スパーなんだから気にしないで。


それより…


高岳さんてモデルさんだよね?Gan Gan にも出てた?」


「なんですか?やぶからぼうに?」

高岳さんはクスっと笑った。


「あ…深い意味はないんだけど、凄いなって思って」


「え?なんでですか?」


「だって、顔とか腕とか打ち所が悪かったら痣になるじゃない?仕事だって困るだろうし…その勇気と言うか…凄いなって」


「ああ、そっか…そうだよね、普通は」

あははと彼女は無邪気に笑った。


「?」


「…ハハ、ごめんなさい。何だか新鮮で。たぶん私は普通じゃないほうね」


それから、

集中力を高めるために始めたのは表向きの理由だったと彼女は人好きのする笑顔で答えてくれた。


たぶん、私はどこかが壊れてると思う、とも。


「私は、咄嗟に目を瞑らないの…つぶれないと言ったほうが良いのかな…


おかげで打ち込みの瞬間もしっかり見ているから、避けるだけなら何とかなるし…


理屈としてだけど、どんな攻撃も当たらなければダメージにはならない。


一ミリでも間があれば、攻撃も触れなければ痣にもならないって…」


彼女が語ったこの言葉が、とても印象に残った。


次の日

まさにこれと逆に、攻撃でなくとも当たればダメージが入る出来事を体験することになるとは、


この時は僅かにも考えていなかったのだが。

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