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大団円だね

「あんた、モミじーさんか?」

 突然、隆人のお祖父さん……岩井さんに話しかけられた私はびっくりして思わず声をひっくり返してしまった。

「は、はい……?」


 いや、私は別にモミじーじゃないんですが……。


「いやぁ~、噂に聞いとった通りのべっぴんさんじゃのう。隆人が一目惚れする訳じゃ」


「あの、どうして私のことをご存知なんですか? 私、この子とは一度ぐらいしか会った記憶がないんですが……」

 すると岩井さんはやれやれ、と困ったような顔になった。


「なんじゃ。覚えとらんみたいじゃぞ? 残念じゃったのぅ、隆人」

「……」


「……おいおい、泣かんでも……」


 え? 私のせい?!


「あんた昔、比治山公園前派出署におったことがあったじゃろ?」

 それは私が初任科を卒業してから最初に配属された交番だ。


「はい……」

「その頃、娘の家族がすぐ近くに住んどったんよ。隆人はのぅ……身体も小さいし、家も貧しかったけぇな、近所の子にようからかわれとった。そんな時、あんたが仲裁に入ってくれたそうな」


 そんなこと、あったっけ?

 記憶を辿ってみる。


 確かにあの交番の近くには幼稚園があって、よく通りかかる小さな子供達が押し合いへし合いしながらキャイキャイ騒いでいた記憶がある。


「ものすごく怖い顔で『この子のことをイジメたら許さないから』って、隆人のために怒ってくれたんだそうじゃ」


 思い出せない。


 もしそれが真実だったとしたら、つまり……子供の泣き声がうるさくて、面倒くさくて思わず怒鳴ったのかもしれない……。


「その直ぐ後ぐらいかのぅ。あんたが交通安全指導のイベントで幼稚園にやってきてくれたんじゃって。大好きなモミじーの格好をしとったって、えらい喜んどったよ」


 モミじー、と隆人は再び私にまとわりついてくる。


 そういうことだったのか。

 私が覚えていなかっただけで、この子はずっと覚えていてくれたんだ。


「モミじーに会いたい、会いたいちゅうてな……悪い思うたんじゃが、昔の伝手を頼ってあんたを割り出……いかんいかん、どうも古い癖が抜けんでのぅ」


 ほんとだわ。

 それじゃまるで、私が何かの事件の容疑者みたいじゃないの。


 で、この一連の茶番に私を巻き込むことが、お祖父さんから孫へのプレゼントだったと言う訳ね。


 なんてことかしら。


 けど、不思議と怒りは感じない。

 むしろ……。


「ところで、どうして身代金が500円なんですか?」


「ああ……それがのぅ。ワシの勘違いだったんじゃ」

 元捜査1課長は苦笑いする。


「え?」

「この公園の駐車料金が1日500円だと思ってたら、無料じゃったって」


 なんてつまらないオチなの……。


 私は見えないよう顔を背けて、深く溜め息をついた。


 

 それから。 

 ねぇねぇ、とコートの袖を引っ張られる。


「……なぁに?」

 面倒なことに巻き込んでくれた張本人だけど、全然憎めない。

 私はしゃがんで、隆人と目を合わせた。


「モミじー、大好き。僕、将来をモミじーをお嫁さんにするからね!!」


 あはは……。

 あなたが結婚できる年齢になる頃、私はいくつになっているのかしら?


 ふと思い出した。


「ねぇ、あの寒い中……ずっと、お店の外で待ってたの?」

「……?」


「ごめんね」


 ふと私は隆人の両親を見た。


 事件が現在進行中の間は、ピリピリとした空気を張り巡らせていたのに、今は落ち着いている。


『誘拐』された息子を間に挟んで、2人でゆっくりと星空なんか見上げている。


 ああ、私もいつかは和泉さんとあんな感じに夫婦になって……そうして子供が産まれて……きゃーっ!!


「郁美ちゃん、よかったね」

 突然、和泉さんが言う。


「え? な、何がですか……?」


「僕なんかよりずっと可愛い、年下の彼氏ができたみたいだね。おめでとう!!」


 和泉さんはしゃがんで隆人の頭を撫でると、

「ねぇ、隆人君。彼女のこと大切にしてあげるんだよ?」

「うん!」


 ちょ、ちょ、ちょっと待ったぁあああーっ!!


「ち、ちが……誤解です!! 私は、ちゃんと好きな人が……和泉さん?!」


「それより岩井さん。明日、お昼ご飯を奢ってくれますよね? 僕だって協力したんですから」


 なんですと?!


 あんたもグルだったのか……!!


 まさか、何度かかかってきた電話や、デザートとコーヒーが提供された頃にかけていた電話の相手は……?!


「ねぇ? 僕、回っていないお寿司がいいです~」

「あんたって、いつもそれね」

「だって、お肉より魚の方が高価なんですよ?」



 なんで、どうしてこうなるの?


 ふと、うちの上司も絡んでるんじゃないかと思い始めた私……。


 だとしたら許せない!!


 絶対に!!



 ※※※※※※※※※


 翌日。


「おう、どうだった? 念願の和泉との初デートは」


「……班長。岩井さんって方、ご存知ですよね……?」


 あ、目が泳いだ。


「いわい? ……祝いか。おい、まさか初回デートでいきなり結婚の約束を取り付けたんか? やるのぅ。さすがワシの娘みたいな……」

「……」


「もちろん、ご祝儀は弾むけぇの。楽しみにしとれ!! それよりも昨日お前が休んどる間に、とんでもない量の仕事が増え……おい? コラ待て!! なんで椅子を持ち上げ……ひぎゃあああっ?!」


 助けて、隊長さ~んっ!!


ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございます!!

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