昭和30年頃あたりとかね
隆人の祖父は空を見上げて、続ける。
「今度は仕事に時間を取られ過ぎて、家族と過ごす時間が犠牲になった。金がよう回るところには、ハイエナみたいな連中も集まってくる……」
「……」
「身の丈にあった暮らし、ちゅうもんがある。わしゃ別に、仕事を、商売を辞めろと言っとる訳じゃない。ただ、家族と過ごす時間だけは確保して欲しい……」
夫婦はすっかり黙りこむ。
「まぁ、わしが言っても説得力はないかのぅ。自分だって、仕事仕事で、家庭を犠牲にして……妻にも娘にも、愛想を尽かされたクチじゃけん」
いわゆる高度成長期時代と呼ばれた時代があった。
生活はどんどん便利になって、景気も上向きになった。
でも。
仕事第一で家のことは奥さんに任せっぱなし、家族に必要な物質的なものを備えることに必死だったお父さん達。
それはそれで立派なことだったのかもしれない。
だけど。
物質と精神は決して、比例なんかしていないのよ。
今の時代には【社畜】なんていう言葉が当たり前になるぐらい、仕事に追われて、ロクに休めない人もいるのが現状。
家族を養うため必死なお父さん達は、どれほどの重圧を感じていることだろう。
ふと、自分の上司を思い出した。
あの人は時々、定時に退社する。しなくてはいけない作業が残っていても、だ。
初めの頃は、なんて自己中心的な人だろう!! と、思って反発も覚えた。
けれど。
愛妻家の評判は伊達じゃなくて、真実だった。
あの人は時々だけど、家族と過ごす時間を大切にしたくて、優先順位を見極めていたのだと。
ガサツで野蛮で、デリカシーの欠片もない、典型的な中間管理職だと思ってた。
でも、意外にちゃんといろいろ考えているのね……。
「パパ、ママ……」
隆人が両親を見上げる。
「星が綺麗だね」
にっこり笑った幼子の笑顔につられるように、母親が膝を折って泣きだしてしまった。