子は【かすがい】ですよ。
「な……何をやってるんですか!! こんな、こんな性質の悪いイタズラなんて……!!」
真っ青な顔で怒っているのは隆人の父親。
額に幾つもの青筋を浮かべている。
「警察の人まで巻き込んで、どういうつもりですか!!」
私は子供達の母親をちらりと見た。
驚きでただただ、声が出ない様子。
「……心配いらん。そいつらは全員、ワシが考えた茶番に付き合ってくれただけじゃ」
茶番?
そいつらって誰のこと?
まさか、和泉さんを含めて特殊捜査班の隊長まで……?
私は思わず、隆人のお祖父さんなる人をまじまじと見つめた。
見たことのある顔……じゃないと思う。誰だろう?
「何やってるのよ、お父さん!!」
子供達の母親が吠えた。
「ふざけるにもほどがあるわ!! こんな、こんなことして……何のつもり……」
言いながら彼女はポロポロと泣きだしてしまった。
ママぁ、と隆人が母親に駆け寄る。
「子供達のためじゃ」
静かだけど、厳かな口調。
「どういう……?」
お祖父さんはどっこいしょ、と近くにあったベンチに腰かけた。
「お前達、ワシの反対を押し切ってまで結婚したくせに……この頃、ようケンカしとるらしいのぅ?」
夫婦は一瞬だけ顔を見合わせ、そうして気まずそうに逸らした。
「隆人と拓斗は、不安じゃったんよ。父親も母親も同じぐらい好きなのに、2人がケンカばかりしとるちゅうて」
「そ、それは……雅人さんが!!」
「何言ってるんだ、俺だけのせいにするのか?!」
「やめんか!!」
2人とも口をつぐんだ。
「離婚の話まで出とったそうじゃのう?」
「……」
そんなに深刻な状態だったんだ。
それは、子供たちにしてみれば気が気でなかっただろうな……。
「隆人も拓斗も、思い出して欲しかったんじゃよ。家族がみんな、仲良くしていたあの頃のことを……」
そう言って老人は空を見上げた。
「金がなくて、子供達をあちこちに遊びに連れて行ってやることもかなわん。でも。ここならすぐに来られて楽しめる。星空を見て、家族みんなで楽しんだ……子供達は2人とも、この公園が大好きだったんじゃ」
確かに。
ここから見られる星空は文句のつけようもない。
まわりには視界を遮る高いビルもマンションもなく、木々の間から輝く星達がダイレクトに視界に飛び込んでくる。
吸い込まれてしまいそうな広い宇宙に、少しの間うっとり見惚れた。
「子供がさらわれた、なんちゅう一大事が起きれば、夫婦で協力し合わない訳にはいかんじゃろ。そういうことじゃ」
隆人の両親は再び顔を見合わせた。
「何じゃったかのぅ? あの便利グッズとやらは。そりゃ商品がヒットして儲かって、金の心配はせんでも良くなった。子供たちが他の子達と比べられて気まずい思いをすることもなくなる、それはよかったんじゃ……けどのぅ」
確かにそうだ。
この子の家庭の経済事情がどれほどだったかは知らない。
でもお祖父さんの口ぶりだと、相当苦しかったと見える。
他の子達がみんな持っている物を、金銭的な理由で持たせてあげられないというのは、親にとっても苦しいだろう。その家庭の教育方針は別として。
そして、子供達の世界は残酷だ。
親が貧しいから、ということでからかわれたり、いじめられたりする可能性は高い。
……あれ?
今、何か思い出しかけた……。