田園調布とか芦屋とかね
しばらくして該当の地域に入った。
「……ここみたいだね」
さすが高級住宅街。大きな家が建ち並んでいる。
そしてあちこちに防犯カメラが。
【剣崎】と表札の出ている家の玄関に立つ。
和泉さんがチャイムを鳴らすと、女性の声で応答があった。
「……警察の者ですが」
いきなり通話の切れた音がしたかと思うと、バタバタ、と中から人が出て来る音が聞こえてきた。
まだ若い女性が髪を振り乱しながら走ってくる。
「リュウト!!」
「ママ!!」
やはり親も心配していたようだ。
女性はリュウトを抱き締め、頭を撫でた。
「タクトは?!」
「……」
「タクト、さらわれたんだよ!!」
「え……?」
「だって、ほらこれ!!」
リュウトはポケットから紙切れを取り出してみせた。
母親はその時になって初めて、私達の存在に気付いたらしい。
「あなた方は……?」
「警察の者です。ご子息が助けを求めて来られたので、保護しました」
和泉さんはいつでも警察手帳を携帯しているらしい。
それが本物だとわかった母親はしかし、ありがとうございましたと礼を言うだけで門扉を閉めようとした。
「待ってください。彼の言うことが本当なら、通報すべきです」
「……」
「見てみてママ、モミじーだよ!!」
ちょっと!!
母親は私を見て、怪訝そうな顔をした。
「ねぇねぇ、モミじー。中に入っていってよ」
リュウトは私の手を引っ張る。
あんたね、それどころじゃないでしょ?!
「僕も一緒でい~い? リュウト君」
和泉さんがニッコリ笑って話しかけると、うん! と元気な返事。
でも彼はすぐ真顔に戻り、何か言いたげな顔の母親に向かって言う。
「すぐに警察へ通報してください」