好きな人の前でその呼び方はやめて!!
会計を済ませ、私達は店を出て階段を降りる。
「モミじー!!」
やっぱりだ。
先ほど交番に「迷子」として預けたあの子だ。
迷いなく私のところへ駆け寄ってくる。
この寒い中、どれぐらい外で待っていたのだろう。
顔が真っ赤になっている。
「……何やってるの? パパとママは?!」
「……知ってる子……?」と、和泉さん。
「いえ、知らない子なんですけど……」
「モミじー、助けて!!」
モミじーって呼ぶんじゃないわよ!!
「ねぇ、坊や。何があったの? 詳しいことを話してごらん」
和泉さんがしゃがみ込んで男の子と視線を合わせる。
「弟が……タクトがさわられたの!!」
「どういうこと? 君、名前は? お家はどこ?」
「……」
「ああ、ごめんね。一度に質問されても困るよね。まず、お名前は?」
「……けんざきりゅうと……」
「りゅうと君だね。お家は?」
「わかんない……」
「パパとママのお名前は?」
和泉さんは男の子を抱き上げ、背中や腕をさすってあげている。
「けんざきまさと、みわこ」
両親の名前が判明したことで、この子の身元が判明する確率が格段に上がった。
和泉は携帯電話を取り出し、誰かに電話をかけ始めた。
「ああ、葵ちゃん? 悪いんだけど、ちょっと調べて欲しいんだ……」
※※※※※※※※※
りゅうと、と名乗った男の子は和泉さんの首にしがみついて、寒そうに震えている。
いったい何があったというのだろう。
弟がさらわれたとか、誘拐されたとか。
その時になって私は初めて、この男の子の全身をよく観察した。
子供服とはいえ、有名ブランドの物だ。
私の給料ではちょっと手が出ない。
「郁美ちゃん、わかったよ。佐伯区美鈴が丘に住んでるみたいだ」
それって高級住宅街じゃないの。
弟が誘拐されたとかなんとか……もしかしたら本当かもしれない。
そう考えたら途端にものすごく緊張して来た。
この子の言うことが本当なら、私はもっと真摯に応対するべきだった。
それなのに。
自分の都合を優先させてしまって。
なんてことだろう……。
「……郁美ちゃん……?」
「何でもないです」
「とにかく、この子を自宅に送って……両親に話を聞こう」
モミじー、とりゅうとは嬉しそうに、私にくっついてくる。
私は彼の手を握り締めた。
手袋はしてなかった。酷く冷たい。
そして私達は和泉さんの自家用車に乗り込んだ。
「ねぇ、何があったの? どうして弟がさらわれたってわかるの?」
私とりゅうとは後部座席に並んで座った。
「……今日、弟と2人でお祖父ちゃん家に遊びに行ったの。そうしたら、たくとがいなくなってた……」
どうにも要領を得ない話だわ。
「弟がいなくなったのに気がついたのはいつ?」
「……わかんない……」
「どうして私なの?」
すると。
りゅうとは私を見上げてにこっと笑った。
「モミじーだから!!」
何それ。
ちらりとバックミラー越しに和泉さんを見てみたけれど、彼はにこりともしていない。