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新秩序 -New Order-  作者: 不覚たん
ゴッドリング編

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39/67

パラベラム

 翌日、円卓会議が開かれた。

 場所はナインのマンション。テーブルを囲むように設置されたソファに、それぞれのメンバーが座した。

 三郎も当然のように参加した。今日は青村放哉と砂原次男までいる。

 まだ昼過ぎであるが、三郎は冷蔵庫から勝手にビールを拝借し、カウンターで飲み始めた。ナンバーズの欠番はふたつ。そして客人も二名いる。説明がなくとも、どんな状況かはすぐに分かった。

 ナインの説明も投げやりだ。

「ま、見ての通りだ。ナンバーズ・ファイヴに青村くんを、トゥエルヴに砂原くんを推薦したい」

 セヴンが愉快そうにチロチロと舌を出した。

「まるで先祖返りね。サンドイーターが復帰なんて」

 砂原らの一族であるサンドイーターは、かつて大陸で窃盗団をしていた。三角プシケから妖精文書ようせいもんじょを盗み出したのを契機に、追いかけっこをしながら日本へ流れてきた。そこでザ・ワンとの戦いに巻き込まれたことで、ナンバーズの初期メンバーとなった。

 砂原は飄々(ひょうひょう)とした態度で肩をすくめた。

「ま、俺は数合わせってところだ」

 すると隣でふんぞり返っていた放哉が、パーカーのフードをとった。

「なんだよおっさん、出戻りだったのか? こっちは新人の青村放哉だ。よろしく頼むぜ」

 右腕は、肘から先が失われたままだ。この状況で能力を使えるのかは不明だが、いまはとにかく青村がナンバーズに参加するという事実が必要だった。

 ナインが包帯の隙間から苦い笑みを見せた。

「いちど断られたんだがね。妹さんに打診すると言ったら、心変わりしてくれて」

「あたりめーだボケ。あんなガキがナンバーズになってみろ。お兄ちゃんに対してデケぇツラするに決まってんだろ。あと借金も……いや、それはチャラになったんだっけ。まあとにかくあいつはダメだ」

 すると、岩のようにどっと座していた八雲が野太い声で笑った。

「もし妹が来ていたら、あの青猫から二名加入ということになっていたわけか」

「青猫より青村だ。いや妹も青村だけど。あんたらが欲しいのは、ウチの家名だけだろ。だったら俺でもいいじゃねーか」

「ああ、話の通じる相手ならな」

 話が一段落したところで、一子が口を開いた。

「では……両名の加入について……意見のある人……挙手を……」

 まっさきに反応したのはナンバーズ・テン。名草梅乃だ。

「先日の話では、青村、浦井、ともに宗家から出してもらうことで決定したと記憶しているのですが?」

 抗議の視線はナインへ向けられていた。

 彼は乱れてもいないネクタイを整えた。

「意外と頑固でな。前向きに検討するとは言ってくれたものの、まだ踏ん切りがつかないらしい。しかし出雲は態度をかなり軟化させているぞ。少なくともザ・ワンとの戦闘の際には、俺たちに協力を要請すると言ってきた」

「浦井は?」

「出雲次第といったところだな。しかしそこまで待ってはいられない。あとから参加したいと言ってくるようなら、フォーティーンを新設するしかない」

 この案には誰もが渋い表情だった。ファイヴとトゥエルヴは入れ替えたのに、スリーを入れ替えるつもりはないらしい。

 八雲がゴツい手を挙げた。

「役職はどうするんだ?」

 旧ファイヴは餌食長えじきちょう、旧トゥエルヴは右衛士だった。

 セヴンがあきれたように肩をすくめた。

「ナシでいいんじゃない? ナンバーズの役職なんて、もともと箔をつけるためのこけおどしに過ぎないんだし」

 これに慌てたのはナインだ。

「待て待て。形式というのは遵守するからこそ機能するんだ。役職は俺が考えてきた。ファイヴが『黄泉長こうせんちょう』、トゥエルヴが『沙漠長さばくちょう』ということでどうだ?」

 そう言いながら、役職の書かれたプリントをテーブルに置いた。

 顔をしかめたのはセヴンだ。

「根の国だから黄泉? 怒られるんじゃないの?」

「いや、前に会ったときむしろ自慢してたくらいだし、大丈夫だろう」

「さしずめ『長老会』じゃなくて、『夜は墓場で運動会』ね。ていうより、なんなの? そもそもこの役職考えてるのってあんたなの?」

「違う。ナンバーズ結成時にみんなで決めたんだ。右衛士や左衛士はともかくとして」


 ナンバーズ発足前、東日本の能力者たちをまとめていたのは名草であり、浦井や猪苗代はその補佐役であった。そのため、名草とセットでナンバーズ入りした猪苗代は左衛士を名乗った。あとから加入した浦井も、例にならって右衛士となった。


 ナインは放哉へ向き直った。

「異論があれば考え直すが」

「俺は構わねーよ。いくらでも盛ってくれ。こっちも箔がつくってもんだ。宗家のクソどもに俺さまの凄さを知らしめるいい材料だからな」

「なら決まりだ。書記長、ジャッジを」

 だが慎重な一子は、すぐに裁定をくださなかった。

「反対のかた……いれば意見を……」

 しかし床で寝ている阿弖流為アテルイはもちろんのこと、一同は黙したまま挙手しない。

「ではただいまをもって……両名の加入を……承認します……」

 満場一致だ。


 するとすかさずナインが次の話題に入った。

「では三郎くん、自称ザ・ワンの様子について報告してくれ」

「おう」

 我関せずとばかりにカウンターでビールを飲んでいたが、瓶を置いてソファまで移動した。

「なんでもいい。思ったところを率直に教えてくれ」

「率直に、か。なんだかアホになってたな。以前はもっとまともだった気がするんだが」

「いまはまともではなくなったと?」

「やたらキレやすくなってる。あいつ、もう少し頭よかったはずだろ。それがいまじゃ、傲慢を絵に描いたようなザマでよ」

「いくら普段はクレバーでも、冷静さを失った瞬間ダメになるものは結構いる。そういう人間が冷静さを保てなくなったら、もう動物と同じだ」

「山野さんの話によれば、あいつの内部でホンモノの神の子が目覚めそうなんだと。それで頭がだいぶやられてんじゃないのかな」

 するとナインはきょとんとした表情になった。

「山野? 聞き間違えか?」

「あれ、言ってなかったっけ? 杉下さんを通じてたまに助言をくれるんだ。まだあっちの世界にいるみたいだぜ。生きてはいないっぽいけど。とにかく会話はできる」

 この説明は要領を得なかったらしく、一同の視線は梅乃へ注がれた。

「生き物の魂は、死後、エネルギーの壁を超えてひとつの海に集められるようです。ですからおそらく、山野さんもそこにいるのでは?」

 巫女服の女が言うともっともらしく聞こえる。

 セヴンはしかし疑わしそうに三白眼を細めた。

「ちょっと待ってよ。魂? これまでどれだけの命が誕生したと思ってるの? それらすべてが保存されているとでも?」

「保存されてはいませんね。たとえば、人体の約七割は水ですが、地上から水がなくなるような事態にはなっていません。やがては地球に還るのです。魂の器も似たようなもので、海に集まると溶けてなくなります。山野さんがどうやって自我を保っているのかは不明ですが」

「なんだかうさんくさいわね」

「であれば、ご自分で確認なさったらいかがです? 運さえよければ、睡眠時に夢としてアクセスできるそうですよ。あるいは深海デプスを使えば、お手軽に海へアクセスできるのだとか」

「ダメダメ。アタシ、そういうのやらない主義だから。ま、あんたがそこまで言うんなら受け入れてやってもいいけど……。でもちょっと待って。杉下が言ってるの? あいつ、ただラリってるワケじゃないってこと?」

 三郎はこれを鼻で笑い飛ばした。

「ただラリってるついでにアクセスしてるんだろ。まあとにかく、山野さんの言葉を聞いてるのは間違いない。ザ・ワンの動きを三角が止めてるとも言ってた。あんまり時間がないみたいだぜ」

 一同、にわかに沈黙した。

 動いているのは、気まぐれにどら焼きを食い始めた阿弖流為だけだ。

 ナインがひとつ呼吸をし、包帯で包まれた顔をあげた。

「梅乃くん、山野くんとの意思疎通はできるか?」

「おそらく」

「では頼む。詳しい話を聞き出してくれ」

「はい」

「俺は出雲と、当日の作戦について話を詰めてくる」

 ナインが話をシメようとすると、セヴンがふたたび目を細めた。

「待った。トモコちゃんはどうするの?」

「なにか?」

「まだ力が戻らないんでしょ? 手は打ってるの? いざとなったら機構の促進剤を使うとか……」

「……」

 ナインが答えに窮していると、梅乃が毅然とした態度で応じた。

「心配ご無用。彼女の代わりは私がつとめます」

「あんたが? つとまるの?」

「ええ」

 理由も述べず、ただ強情にうなずいた。絶対に譲らないつもりだ。

 とはいえ梅乃の態度からは不安が伝わってきた。表情に余裕がない。彼女の力がトモコの足元にも及ばないのは周知の事実だった。そしてそのことは、彼女自身がもっともよく理解している。

 ふと、砂原が短いあごヒゲを掻いた。

「ひとついいか」

 しばらく誰も返事をしなかったため、一子が代表して応じた。

「どうぞ……」

「俺の役職なんだが、前任と同じ右衛士にしてくれないか。いや、深い意味はないんだがな。なにせ出戻りだ。みんなだって、新しい役職おぼえるのは面倒だろう? 特に、こんな忙しい時期じゃあな」

 しかしその言葉の意味するところはひとつしかない。

 衛士は名草を補佐するものの役職だ。梅乃の決意を見た砂原は、これを捨て置くことができなくなったのだろう。

 一子は周囲の判断を待たず、即断した。

「許可します……」


 *


 その後、円卓会議が解散したのちも三郎は残った。ビールを飲むためだ。

 最近、次々に店が潰れているから、豊富にビールを揃えたスーパーを探すのも大変になってきた。しかしここならいくらか在庫がある。

 ほかに残ったのは家主のナイン、そして完全に居着いてしまった阿弖流為と、そして黒羽さやかだった。

「君たち、どう思う?」

 三郎が冷蔵庫を物色していると、ナインが唐突にそう切り出した。

「悪いとは思ってるよ」

「そうじゃない。ザ・ワンについてだ。勝てると思うか?」

 ビールあさりを咎められたわけではないらしい。三郎はハイネケンのキャップを取って瓶から一口やりつつ、ソファへ戻った。

「あの名草梅乃ってのはどの程度やるんだ? アベトモコほどは強くないんだろ?」

「ああ、比較にもならんレベルでな」

「なんだよそれ。全然だな」

 勝手にテレビのリモコンをいじるが、どのチャンネルもニュースしか流していなかった。それも、すでに分かりきった情報ばかり。

 ナインは溜め息をつき、天井を見上げた。

「能力を引き上げる方法はある。米軍の装備で強化するのとは違う方法でな」

「どんなだ?」

「体に直接エーテルを注ぎ込むんだ。山野くんもそうして力をつけ、青き夜の妖精たちに挑んだ」

「エーテル? 深海デプスでも使うのか?」

「いや、外部から照射する。前回は三角プシケとペギーが同時に加護を与えた。しかし今回はペギー単独での実行となるだろう」

「それでアベトモコみたいになれるのか?」

 三郎の素朴な問いに、ナインはキレのない返事をした。

「分からんな。あとは米軍の装備に賭けるしかない。問題は、梅乃くんの体がもつかどうか、だが」

 するとさやかが不安そうにつぶやいた。

「人体に過剰な量のエーテルを供給すると、ワーム化してしまうという話を聞きました」

「その通り。だから加減が難しい。梅乃くんのことだから、ちょっとやそっとでダメになるということはないと思うが……」

 この会話を、三郎はややうんざり気味に聞いた。

 今回の敵は特別に強い。のみならず、あらゆる妖精を動員できる。去年の戦いでは、青き夜の妖精だけでかなりの苦戦を強いられたのに、今回はさらにザ・ワンもどきが敵陣に加わるのだ。ひとつも手を抜けない。

「他人に配慮してる余裕があるのかよ? 俺は限界までやるぜ」

 三郎はビールを飲み干し、空き瓶をテーブルへ置いた。

 この数日、戦うための準備をしてきた。退くことはできない。そして今回の戦闘は、いちど衝突すればどちらかが消し飛ぶまで終わらないだろう。覚悟はとっくにできている。あとはやるだけだ。


(続く)

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