神の小国:小国の番人Ⅱ
野次馬が私を取り囲む中、その間を割って被害者と思しき男が出て来た。
「ありがとうございます! 助かりました!」
「当然の事をしたまでだ」
男はしゃがみ込んで盗人の髪の毛を乱暴に掴み上げた。危うく盗人の首を切ってしまいそうだったので、剣をそっと避ける。
「てめぇ! よくもやってくれたな! 直に“審問官”が来るから、覚悟しとけよ!」
審問官とは耳馴れぬ言葉だ。
「や、やめてくれ! 審問官に言われて俺はやったんだよ! ホントだよ!」
「うるせぇ! 言うに事欠いて嘘八百を! この国の法たる審問官が犯罪を唆す訳ないだろ!」
男は盗人の顔を乱暴に地面に叩きつけ、立ち上がる。盗人は弱々しい呻き声を漏らす。体がわなわなと小刻みに震えているのが、靴底から伝わってくる。
「こいつは俺がふん縛っておきます。……申し訳ないのですが、今はこれくらいしか……それでもよかったら、受け取ってください」
「おう、かたじけないな」
男の手から、紙幣を一枚受け取る。こんなに貰えるとは想定外だったが、これでなんとかあのイヤリングを買えるだけの金が揃った。
「おい誰か! こいつを捕まえとくのを、手伝ってくれ!」
男が声をかけると、野次馬の輪の中から、体格の良い男が数人出てきて、盗人の手足を押さえた。どうやら、私はお役御免のようだ。盗人を踏みつけるのをやめ、剣をしまう。
「今度俺の店に来てくれたら、商品を安くしますよ。あそこにある果物屋です」
去り際、男に声をかけられた。
「そうか。あとで寄らせてもらうよ」
「すみませんが、お名前をうかがってもよろしいですか? 他の店のやつにも、伝えたいので」
「エリスだ」
「え? そりゃまた、女みたいな名前ですね」
「……私は女だ」
そう告げると、男は解り易いほど驚いた顔して、バツが悪そうに頬を掻いた。
「あ……そうですか。いや、短髪だし凛々しいもんだから、つい」
「まぁいいさ。よく間違われるし、女らしくないのも自覚してる」
男の謝罪や野次馬の賞賛の声を軽く聞き流し、人の輪の外に出る。






