表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

神の小国:小国の番人Ⅱ

 野次馬が私を取り囲む中、その間を割って被害者と思しき男が出て来た。


「ありがとうございます! 助かりました!」

「当然の事をしたまでだ」


 男はしゃがみ込んで盗人の髪の毛を乱暴に掴み上げた。危うく盗人の首を切ってしまいそうだったので、剣をそっと避ける。


「てめぇ! よくもやってくれたな! 直に“審問官”が来るから、覚悟しとけよ!」


 審問官とは耳馴れぬ言葉だ。


「や、やめてくれ! 審問官に言われて俺はやったんだよ! ホントだよ!」

「うるせぇ! 言うに事欠いて嘘八百を! この国の法たる審問官が犯罪を唆す訳ないだろ!」


 男は盗人の顔を乱暴に地面に叩きつけ、立ち上がる。盗人は弱々しい呻き声を漏らす。体がわなわなと小刻みに震えているのが、靴底から伝わってくる。


「こいつは俺がふん縛っておきます。……申し訳ないのですが、今はこれくらいしか……それでもよかったら、受け取ってください」

「おう、かたじけないな」


 男の手から、紙幣を一枚受け取る。こんなに貰えるとは想定外だったが、これでなんとかあのイヤリングを買えるだけの金が揃った。


「おい誰か! こいつを捕まえとくのを、手伝ってくれ!」


 男が声をかけると、野次馬の輪の中から、体格の良い男が数人出てきて、盗人の手足を押さえた。どうやら、私はお役御免のようだ。盗人を踏みつけるのをやめ、剣をしまう。


「今度俺の店に来てくれたら、商品を安くしますよ。あそこにある果物屋です」


 去り際、男に声をかけられた。


「そうか。あとで寄らせてもらうよ」

「すみませんが、お名前をうかがってもよろしいですか? 他の店のやつにも、伝えたいので」

「エリスだ」

「え? そりゃまた、女みたいな名前ですね」

「……私は女だ」


 そう告げると、男は解り易いほど驚いた顔して、バツが悪そうに頬を掻いた。


「あ……そうですか。いや、短髪だし凛々しいもんだから、つい」

「まぁいいさ。よく間違われるし、女らしくないのも自覚してる」


 男の謝罪や野次馬の賞賛の声を軽く聞き流し、人の輪の外に出る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ