神の小国:小国の番人Ⅰ
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私は、母親をの仇の竜を屠るために旅をしている。
私の旅には道連れが居る。千年近く生きたという彼女は、しかしながら、見た目は十代前半の少女のそれだ。
「見て! このイヤリング可愛いよ!」
露店に並ぶ青石のイヤリングを指差してはしゃぐ姿は、やはり見た目相応だ。
「それ、いくらだ?」
「百リィンだよ」
男店主が口にした値段は、ここいらの宿屋五泊分の相場だった。
碧い瞳を目一杯輝かせ、期待の眼差しを向けてきている彼女の手前、そんな金は無いなんて言えない。
「もう少し負からんか?」
「これが限界だなぁ」
「そこをなんとか」
「こっちも商売なんでね」
「頼むからさ、な?」
「この値で買う気が無いなら、さっさとどきな。商売の邪魔だ」
「……」
値下げ交渉に失敗してしまった時、不意に広場がざわついた。
「泥棒だっ! 誰か捕まえてくれー!」
声の主を探そうと視線をめぐらすと、小さな袋を抱えて人混みの中をするすると走り抜けてくる男が居た。あれが盗人か。
«レヴィア!»
彼女の名を頭の中で呼ぶとほぼ同時に、広場の真ん中にある噴水の中から人間の頭より一回り大きいくらいの水塊が現れ、盗人の頭に高速で飛びついた。
「がぼぼっ!」
いきなり水塊に頭を呑み込まれた盗人は目を見開き、肺の中の空気を少しでも出すまいと口元を押さえ、抱えていた袋を落とした。袋から出てきた林檎が、ころころと転がる。
「なんだ?! 魔法?! 一体どこから……」
驚愕している店主を尻目に、陸上で溺れかけている盗人の元に歩み寄る。
«レヴィア、いいぞ»
合図を送ると水塊は弾け、容赦無く盗人を濡らす。ずぶ濡れになった盗人は、四つん這いに倒れ込んだ。その背中を思い切り踏みつけ腹這いにさせてやると、潰れたカエルみたいな声を出した。腰に提げた剣を抜き、盗人の首元にあてがう。
「大人しくしろ。痛いのは嫌だろう?」
「げほっ、げほっ……くそっ!」
盗人は悪態をつくものの、抵抗はしなかった。