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竜になった少女:邂逅Ⅳ

「ちっ、舐められたものだな。次は、外さないからな」

「えぇ、是非、わたしの心臓を……あっ、そうだ! ちょっと、見ててくださいね」


 そう言うと、少女はあろう事か槍の穂先を両手で掴み、胸にあてがった。振りほどこうにも、白樺の枝のような細腕からは考えられないほど力が強く、びくともしない。彼女の掌から流れ出す熱い赤い血液が、刃に刻印された黒鉄の獅子を紅に濡らす。


「なっ、何をしている! 馬鹿か?!」

「ふふっ、案外怖がりですね。でも、大丈夫ですから」


 槍の穂先が皮膚を切り裂き傷を押し広げ、ずぶずぶ肉の中へと突き刺さってゆく感触。それが、槍の柄から妙に生々しく伝わってくる。


「おい、死ぬぞ!」

「大丈夫、ですって。……あっ、入ってきますっ、貴女の冷たくて逞しい槍がっ、わたしの、ナカにっ。うふっ、ふふふふふふっ、痛いけど、嬉しい……げほっ」


 ずぶずぶと、切っ先が彼女の薄い胸の中に飲み込まれてゆく。どく、どく、と、湧水のように傷口から血が漏れ出し、少女の白いワンピースと咲き乱れる白い花を、赤く赤く染め上げていく。槍伝いに、いやというほど彼女の鼓動が感じられる。

 このまま少女を死なせては、ヤツの手がかりが無くなってしまう。槍を、引き剥がさないと。頭では解っていても、体が金縛りにあったかのように動かない。


「あぁっ、ぐうっ……逝ッちゃいます、わた、しっ……ふあぁっ……がぼっ……」


 少女はびくびくと痙攣しながら大量の血を口からぶちまけた後、一際大きくびくんと跳ねたかと思うと、がくりとうなだれ、動かなくなった。ずしり、と槍の重みが増し、完全に少女が事切れたことを悟ると、やっと槍が手から離れた。私はただ、血に塗れた少女を串刺しにしたままの槍を見つめ、呆然と立ちすくむことしかできなかった。


 何なのだこいつは。死体を見るのも人を殺すのも初めてではないが、こんな死に様は初めて見た。意味が解らない。自殺した? 私が殺したといえるのか? 理解不能だ。

 何にしても、これでヤツへの糸口が無くなってしまった。いや、こいつの身を改めれば何か見つかるか――

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