竜になった少女:邂逅Ⅱ
「あっ、おい、待て!」
少女を追いかけるが、割りと足が速く、着いて行くので精一杯だった。畜生、何故逃げる。
暫く苛立ち混じりに追いかけていたら、俄に視界が開けた。大きな泉を中心とした広場だった。名も知らぬ白い花が一面に咲き乱れ、日の光を浴びてゆらゆらと頭を揺らしている。
少女はどこに消えた? 視線を巡らせても、見当たらない。まさか、泉に飛び込んだのか?
泉のほとりにしゃがみこむ。波一つ立っておらず、鏡のようで美しいと思う反面、見えない水底から何者かがこちらを覗き込んでいるような薄気味悪さを感じた。
水面にゆらりと人影が現れる。咄嗟に立ち上がり、腰に提げた剣を、背後の人間の首めがけて抜き打つ。
「こんにちは」
さっきの少女だった。彼女は何故か、水の詰まった小瓶をペンダントのようにしてぶら下げていた。近くで見ると、思ったより幼い。身体が成長しきっていない感じで、十代前半といったところか。
しかし、刃を首のすれすれで寸止めされても眉一つ動かさずに涼しげな微笑を浮かべる彼女が、只の少女でないことはアホでも解る。
「何者だ。どうして私をここに連れて来た」
「わたしは“レヴィア”……旅の者です。貴女を連れて来た理由は、貴女とお話したかったからですよ。隣いいですか? お水飲みたいんです」
レヴィアと名乗った少女は何事も無かったかのように隣にしゃがみ込み、手で水を掬って飲み始めた。剣を仕舞い警戒を解いたふりをして、私も隣にしゃがむ。お話したい? どういうことだ。なんにせよ、こいつの動向に注意しなければ。
少女を一瞥すると、目が合った。少女は微笑む。その青い瞳の色は目の前の泉よりも青く深い色合いだった。
不意に、少女の身体の周囲を日光の下でも尚輝く青白い光が覆った。こいつ、魔法を使う気だ。尋常じゃない程の魔力だ。まずい! 先手を!
胸元にくくりつけてある短刀を素早く引き抜き、少女の白い喉元目掛けて斬り払う。しかし、少女は軽く身をひねるだけで、私の攻撃をいなした。
「……ちいっ!」
後ろに飛び退き転がって間合いを遠ざける。態勢を立て直しながら短刀を仕舞って、背負っていた槍を抜く。いつの間にか、少女の周りに、水の塊が幾つも漂っていた。あれを飛ばしてくるのか?
「もう、血気盛んですね。……けれど、それでこそ、わたしが選んだヒト」
「さっきの魔力……お前のモノか」
「そうですよ」
一歩、少女が踏み出す。一歩、私は後退する。
両手を広げて歩いて来て、どうぞ腹を串刺しにしてくださいと言わんばかりなのに、全く隙が無い。
義父譲りの、数多の修羅場を共に潜り抜けてきた槍、“獅子心槍”も、未知の脅威に対して萎縮しているように感じられた。十歩もない少女との間合いが、果てしなく長い。槍の柄を握る手に汗が滲む。