竜になった少女:邂逅Ⅰ
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朝が来る度に、私は焦燥感に駆られる。朝日を拝むことが出来るのは、長く見積もってあと五年。五年経てば、どう足掻こうと私は死ぬ。私の生命の蝋燭は、とてつもなく短い。
その事実に居ても立ってもいられなくなり、義父の厚意で所属させてもらっていた騎士隊を除隊し、私は旅立った。それが一ヶ月前だったか。今は、ヤツの情報を少しでも仕入れるため、竜が居るという噂のある地方を巡り放浪している。
「お母さん……」
銀の質素なイヤリング。握り潰してしまえそうなほど小さいこれだけが、母さんの形見だ。毎朝これに触れ、あの忌々しい出来事を思い起こす。そうすると、どろどろと、腹の底にドス黒い感情が沸き起こってくる。これが、私の、生きる力。コロす。ヤツを、コロす。待っててね、母さん。絶対、ヤツをコロして、仇を。
殺意を再確認して、私は宿を後にする。この街から北に行った山には、竜が住んでいるという言い伝えがある。とりあえずは、そこを目指す。朝焼けの中、欠伸をしていた番兵に軽く挨拶をして、私は街道へと出た。
太陽が顔を全て晒した頃、森に入った。情報が正しく、なおかつ何の邪魔も無ければ、夕刻前にはこの森を抜けられるだろう。
生い茂る草木と鳥の口ずさむ歌、無数の小動物の視線に取り囲まれながら、一人黙々と歩く。
不意に、何者かの巨大な魔力が感じられた。ざぁっと、木々の葉が擦れざわめく。呑気にさえずっていた鳥達が慌ただしく飛び立ち、小動物達は悲鳴を上げて逃げ出した。
「ちっ、凶獣か?」
背負った槍に手をかけ、周囲を警戒する。辺りは不気味なほど、しんと静まり返っている。
かさかさと草の擦れる音。視線を向けると、林道から外れる獣道の入り口で、白いワンピースを着た少女らしき人影がこちらに手を振っている。遠目で、顔はよく見えない。まさか、あれが魔力の主か? しかし、少女からは特に強い魔力は感じられない。
よくよく考えてみれば、こんな森に少女が一人で居るなんておかしな話だ。もしかしたら、彼女は迷うか攫われるかして、助けを求めているのではないか? ならば、早く少女の元に行ったほうがよさそうだ。
私が判断したと同時、少女はくるりと背中を向けて、獣道の奥へと入って行った。