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ダンジョンは土蔵から始まる

無軌道な若者が堕ちていく様を書こうと思い至る。

だが前述通りの展開になるかは不明。割と気ままに書き殴る作風ゆえ(/ω\)

「…んーだ、これ?」

 目の前の床一面に輝く、幾何学模様。

 丸い円陣の中に、更に小さく同心円。その間と内側には、見た事も無いグネグネとした文字らしき物が描かれている。

「これはあれか、中二心をくすぐると言われる、俗に曰う魔法陣・・・って奴、だな」

 問題は、なんでそんなもんがうちの土蔵の地下室にあるのかってーこった。


 俺の名前は陸地クガチ 明路メイジ、当年とって21歳、職業フリーター。

 オイ、職業のトコで眉を顰めた奴! それは正しい反応だ。

いや、俺にも言いたい事はある。そもそも、余り人付き合いが得意ではなかったが、妙な処で意地になる欠点があり、高校卒業後に勤めた会社(地味にブラックに近かったが)で上司と大喧嘩、後に自己退職という流れになったのは、仕方無いのではあるまいかと愚考する次第でありまして。

 うん、まあ、短気だったとは思う。思うんだが…あのくそ野郎の、下に仕事押し付けてうまくいったら自分の手柄として報告、自分が失敗したら俺やら下の奴に毎度当り散らしてきて、我慢ならんかったんだ。思わず手が出てしまったのも若気の至りというものだろう、許せ。

 許されなかったから、フリーターなんですがね、はっはっは!

 …よし、現実逃避はここまで。


「蛍光塗料、にしちゃ明るすぎるな。普通にLED位の光量あるし」

 更に、一定期間ごとに光が弱まったかと思ったら、円陣中心部から波紋状に光が波打って、また光量を回復させてるみたいだ。

 詰り、エネルギーの供給が何処からかあって、あの辺からされてるんだろう…多分。


◆◇◆


 好奇心は猫も殺す、だったか?

 2016年、8月。親父が死んで、その葬式を実家で挙げてから一月が経とうとしていた。

 死因は事故死、相手方十割の過失が認められて、本人の保険からも相手からもかなりの額が振り込まれた。そして沸いて出る、自称・親しい親戚共。

 取敢えず、片っ端から縁切りしてやったわ。何が目当てか分かりすぎるんじゃボケ。


 それはさておき。

 実家は父方の祖父が住んでいた割とでかい屋敷だ。なんでも爺様は、一代で財を築いたらしいのだが、その財源が何処から来ていたのか、周囲は勿論、一人息子である親父すら知らなかったらしい。

ただ、かなり猜疑心の強い人だったとは親父からも聞いていた。徹底的に秘密主義でもあったと。

 遺品の整理ついでに、祖父から親父が受け継いでそのまま放置していた土蔵の中も整理しようと思い立ったのが昨日。

朝から夕方まで、只管埃っぽい土蔵の中身を整理して、さて、一息つくかという時にそれは起こった。


「あ~、腹へったぁ。メシメシっと…カップラーメンくらいは、まだ残ってたよな」

 料理は出来なくもないが、広い屋敷に1人きりで、自分だけの晩飯を作る気にもならず。

ずっと屈んでいて凝り固まった腰を延ばすように、背を外らした。

その瞬間、


 メシィッッ――!


「は? お、おっ、おっとぉおおおおおち、おちっ、どああああっ!?」


 いきなり床が抜けた。そりゃ古い土蔵だとは知ってたよ。だけど、普通こう云うのって地盤がしっかりしたとこに造るもんじゃね?って言う先入観があって、床なんて気にしてなかったんだよ。

咄嗟に頭は庇ったけど、背中を強かに打ち付けて、そりゃー息が詰ったね。まじ苦しかった。

 暫らく痛みが引くまで、涙目になりながら浅い呼吸を整え、落ちて来た床の穴を見上げてたんだけど。

「…これ、地下室か?」

 そう、周りを見れば、明らかに人工物として整えられた、地下の一室にしか見えない。

 こんな物があるなんて、親父からは聞いていない。だとすれば、可能性は一つだろう。

「爺様関係の奴か…」

 正直、俺が生まれたときには既に死んでいて、印象といえば仏間に飾ってあった遺影くらい。刺々しい目つきに、産まれた時からそうなんじゃないかって位の、渋面顔。猜疑心が強かったって言われるのも納得だよありゃ。

 人は外見じゃないって台詞もあるが、限度もあるだろってレベル。あれが、一番ましな写真だってんだからなぁ。


 まあ、それはいい。問題は、ここをどうするかってことだ。

 気は進まない…進まないが、この屋敷が俺の所有物、財産になった以上、正体分からん地下室なんて放置するのも気持ちが悪い。

 もしも爺様がろくでもない犯罪とか、或いは猟奇殺人に手を染めて、死体をここに隠していたとかだったりしたら堪らんし。化けて出るなら過去に遡って出てくれよーと言いたい。

「えーっと…ライターはと。あった。」

 土蔵に開いた穴から降り注ぐのは、薄暗い白色電球の光。それは地下室から続いている通路までは照らさなかった。

仕方無く、ポケットから取り出したライターの小さく頼りない火を掲げて、俺は慎重に進んでいった。


◆◇◆

 そうして辿り着いたのが、冒頭の展開って奴だ。

 特に犯罪関係の物でもなさそうではあるので、見なかった事にして晩飯を喰いに戻ろうか。それが一番平穏な選択肢だろう。

「犯罪ってより、隠された神秘オカルト方面だよな、これ」

 爺様がそう云うのに気触れていたとしても、これまで問題にならなかったのなら大丈夫だろう。一体これが何なのか、気にはなるが。

 爺様が財を成したのは成人してからだって話は、親父から聞いた事がある。親父が20歳の頃に40代でぽっくりいって、それから10年位してから親父が結婚、一年後に俺が生まれた。

てことは、最短でもかれこれ60年は、『これ』は此所にあったって事じゃねえか?

「…何なんだろうなぁ、一体」

 足の爪先で、チョンと、円陣の禄に触らせる。

 ゾワッと来たね。マジでやばいって感じ。これは、『この世の物じゃない』って思ったよ。実際、その通りだったんだがな。


 だが、ここで俺の悪い癖が出た。こんな訳の分からんもん、怖がって堪るかという意地がな、止せばいいのに沸いちまったんだ。

元々、よほど堪るまで動じない胆力はある方だった。上司を殴ったのも、二年近く我慢に我慢を重ねた結果だったし。

 一歩踏み込んで、全身に鳥肌がたったね。二歩踏み込んで、悪寒がやばかった。三歩踏み込んで、魔法陣の中央を踏み抜いた。

 刹那、一面が真っ白に染まる。余りの眩しさに、思わず片腕で目を覆って瞑ったのは当然の反応だろう。


 そうして俺は――昏い、昏い石室の一角に、放り出されていた。

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