始まりは聖夜の夜に
今日は12月24日、雪は降っていないが賑やかなクリスマスイブだ。街ではシャンシャンと鈴の音や赤と白のおじさんを連想させるような歌が流れている。コンビニで弁当を買った俺は寮に帰る道を歩いていた。
周りでは子供が自分の魔力で作った雪で雪合戦をし、学生は空き地で模擬戦をしたりしている。
こんな普通の光景を見ると羨ましくなってしまう。そして少し恥ずかしくなる。なにせ自分は子供ですらできる魔法が使えないのだから。
「なんでだろうなぁ…」
手を出して力を込めてもなにも出てこない、出せない。風も起こせなければ火も出せない水も湧き出なければ光も出ない。
【俺は魔力を持っていない】
だが、いきなり使えなくなったわけではない。
生まれた時から俺は魔力を持っていなかった。理由は遺伝…親のせいだ。俺の父も俺と同様魔力を持っていなかった。世間からは【ゼロ】なんて呼ばれていた。だが父はそんなハンデを負いながら、魔法騎士の頂点を決める戦い【聖夜祭】で見事優勝した…らしい。
父はそのあとどこへ行ったのかはわからないが未だ頂点から落ちていないとだけ聞いている…そんな親父に憧れて魔法騎士見習いになった。
魔法騎士というのは文字通り魔法を使う騎士だ。なかには魔剣という剣自体に能力がある武器も使う者もいる。そして、その剣術や魔法を使って護衛や未開拓の土地の調査などをする。
そして年に1回その魔法騎士の頂点を決める戦い【聖夜祭】がある。それに勝った魔法騎士には真の頂点を決めるために前年度の優勝者と戦える。そして勝ったものに頂点の証である聖剣エクスカリバーが渡される。
「そう、俺は【聖夜祭】にでて優勝して2代目の【ゼロ】になる」
自分に宣言するように呟いた。
「そうそうその意気だよ」
「ぎゃぁぁ!」
やばい…聞かれてた!?
恥ずかしい…そう思ってその方向に向くと赤と白のおじさん(白ひげ+袋装備)がいた。
おじさんはほっほっほっと笑うと
「大丈夫だよ。おじさんはバカにしたりしないさ。でも勢いだけで目指せるほどそれは甘くないねぇ」
おじさんは袋をゴソゴソと探り一本の片手剣を取り出した。
「君にこの剣をあげようかなぁ」
抜くと剣は刃の部分がなく柄と鞘だけしかなかった。戻すとカチッとなって鞘からは勝手に抜けるのを防ぐためはまるようになっている。
「これ剣なんですか?…刃がないっぽいんですけど」
「大丈夫だよ、これは【創剣】という魔剣の一つ。君が創り、君を創る剣だ。…おっと、喋りすぎちゃったねじゃあださようなら。メリークリスマス」
おじさんは剣を置いていきなり消えた。
跡形もなく、一瞬で。
あのおじさんは一体誰なんだろう…そう思いながら俺は寮に帰った。