・出会い
◇◇◇
彼と出会ったのは偶然に見せかけた必然から
初めて会った私を彼は疑いもせずに優しくした
初めはどうでもよかったそんな彼の優しさを、意識するようになったのはいつからだろう?
これから私がする行為に、恐怖し始めたのはいつからだろう?
何て罪深い男だろう
何て罪深い女だろう
彼のことを恨みながらも、私は私自身も恨んだ
◇◇◇◇
私は餌、彼が獲物
餌はなんの感情も無く獲物を釣るもの
そう、思っていた
大いなる力を持っている彼
地獄の王はその力を欲した
かつて自分を滅ぼした神々に報復するために
私は餌として汚れた翼を隠し、綺麗な女性へと変化する
白い肌に大きな翡翠色の目
薄い金色の髪
誰が見ても美女だと言われるような完璧な美しさ
簡単に、彼も釣れると思っていた
「どうしました?」
わざと見つけさせるように仕込んだ罠に、彼は見事に引っかかった
私は困った顔を作り、彼がよく通る道で待っていた
足を捻挫させて
見事に引っかかった彼を内心嘲笑い、私は顔に安堵の色を浮かべる
「捻挫……ですか、家、何処ですか?」
まったく邪のない声、単に“困っている人”を助けたいと願う声だ
私の傍らに彼は跪き、足に手を添える
暫くすると、足の痛みが消えた
「俺、ちょっと妙な力あるんです、痛みは消しましたけど捻挫自体が直るのはもう少し後です。家に送っていきますから道教えてください」
そういって、彼はニッコリ微笑んだ、なんて馬鹿な男だろう
「ありがとうございます、でも大丈夫です、もう少ししたら直るんですよね?これ以上あなたに迷惑は掛けられませんから、私はもう少し休んでから一人で帰ります」
あんまり最初からベッタリしていると嫌がられるし彼の気を引けない
心の奥まで支配するにはもう少し引かなければ
容姿がここまで良い女だ、男なら放っておかないだろう
「そうですか、では気を付けて、これお守りです」
あっさりと傍を離れ、手に小さな玉を渡す
こんな対応されたの初めてだ、いつもなら男は無理矢理でも付いてくる
それに親切にしてやったのにこんなに素っ気なくされたら誰だって嫌な顔の一つはする
だがこの男は、渋りも嫌な顔もせずにお守りと称する物を渡して去っていく
………これは時間が掛かりそうだ