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学パロ短編集  作者: かの
4/7

お揃いトリオ

「ありがとうございました」


保健室。ノハが深夜に向かってぺこりと頭を下げる。


「ああ、お大事に」

「はい。失礼します」


もう一度深夜に頭を下げてから廊下に出る。

すると保健室から出て来たノハの姿を見つけた隆弘とテオがばたばたと駆けて来た。


「おい、ノハ、お前どっか怪我でもしたのか?」


ノハの額には絆創膏が貼られていた。


「転んだでござるか壁にぶつかったでござるか?!それとももしかして、さっき俺がお前にでこぴんした時打ち所が悪くって」

「テメェのでこぴんごとき痛覚すら反応しねえから安心しろ」

「何だとぉ!喰らえ!」


言いながらテオが隆弘の腕にでこぴんを繰り出すがその攻撃は隆弘の固い筋肉の壁に阻まれ、逆にテオの中指がダメージを受けてしまう。

痛みで廊下を転がるテオのオーバーリアクションを無視して隆弘はノハに向き直る。隆弘の目が心配そうに自分を見ている事にノハは気付いた。


「二人共有難う。大した事ない怪我なんだよ。ちょっと鋏が突き刺さっただけ」

「「それは大した事ある怪我だな!!」」


テオが叫んだツッコミは見事隆弘のツッコミと重なった。


「どうやったら鋏が額に突き刺さるでござるか!」

「珍しい事じゃないよ」

「いやいや鋏が額に突き刺さるなんてどんな珍事件だよ!」

「現に二人共毎日鋏が頭に突き刺さってるじゃないか」


隆弘とテオがノハに指摘された事実に閉口する。

そして、鋏といえば真っ先に連想せずにはいられない一人の人間が二人の脳裏に浮かんだ。

隆弘がもしかして、と。

ノハの額に鋏が突き刺さった理由の推測を口にする。


「その怪我、くるにやられたのか?」


葛城くる。

彼は常に鋏を持ち歩いている。しかも、それを本来の用途で使用している現場よりも激情した際人に向かって投げつけたり振りかざしたりしている現場の目撃回数の方が多い。

隆弘とテオも、くるが放った鋏が身体に突き刺さった数は一度や二度ではなかった。


「うん。そうだよ」


ノハが頷くと真っ先に憤慨したのはテオだった。


「俺らの天然天使になんて事を!どうするタカちゃん!処す?処す?」

「落ち着け、理由がなけりゃ振り回してこねえだろ」

「う、うぬ…」

「ノハ、鋏投げつけられる心当たりはあるか?」


理由がなければ振り回して来ない。

それは事実だが、くるが荒れている日は別だ。

たまたまノハがその八つ当たり、もしくはとばっちりを受けた可能性もないとは言い切れない。ノハに非がなかった場合力づくでも謝罪させてやるつもりで、隆弘はノハに尋ねた。


「帰ろうとしたらね、くるが昇降口で電話してるのが聞こえてきたんだ」

「それで?」

「斉賀とこれから待ち合わせをしてるみたいだったから、デート?って聞いたら鋏が飛んできた」

「そりゃ飛んでくるわな」

「ノハ、何でタカちゃんみたいな事言ったんだよ!」

「え?だって、隆弘がいつも言ってるよ」

「ん?俺?」

「くると斉賀が出かける時にいつも「デートか?」って」


隆弘は、いつもくると斉賀が外出すると聞けばそう言って茶化している事を思い出し頭を抱える。


「余計な事ばっか覚えやがって…」

「ノハ、それは冗談でござるよ」

「そうなの?」


ノハが首を傾げる。


「そうだよ」

「まったくノハはピュアでござるなあ…詐欺に引っかかりそうでお父さんまじ心配」

「とにかく、だ。くるにデートって単語使うと自分の身に危険が及ぶって分かったろ?これからはやめとけ」

「え…」


ノハがしょんぼりと眉尻を下げる。彼の想定外の反応に、隆弘とテオの脳内には疑問符が浮かぶ。


「どうしてそこで残念そうな顔をするんだよ」

「僕も鋏に突き刺さりたいから」

「「は?」」


ノハの言葉に隆弘とテオが目を丸くする。


「ど、どういう事でござるかノハ!まさか俺の知らない所でSMプレイに目覚めていたのか?!」


慌てふためきながらテオがノハに詰め寄る。


「違うよ」


ノハがゆっくりと首を横にふる。


「くるはさ、いつも隆弘と灰花とテオには鋏投げつけるでしょ?でも僕の方には飛んでこないじゃない」

「そりゃな」

「あれは主に隆弘が余計な事口走るからだからな」

「だから、仲間外れにされてるみたいで」


ノハの口から飛び出した突然の告白に隆弘とテオが驚く。

そんな事を思っていただなんて夢にも思わなかった。


「だから今日、はじめて突き刺さって嬉しかったんだ」


えへへ、とノハが屈託なく笑う。


「ぎゃあああままま眩しいでござる!ノハが清らか過ぎて俺の中に眠る邪悪が昇天しそうでござるううう!」

「落ち着け!鋏なんて突き刺さらない方がいいに決まってるだろ!」

「僕は皆とお揃いみたいで嬉しいよ」

「ぐあああああ!」


隆弘もテオ同様呻き出す。

暫くノハがきょとんとそんな二人を眺めていると、呻き声の不協和音は突如ぴたりと止んだ二人は顔をあげてノハに突進しそのまま抱きついた。


「馬鹿野郎!ダチを仲間外れになんて誰がするもんか!」

「そうだ!健やかなる時も病める時も喜びの時も悲しみの時も富める時も貧しい時も鋏を投げつけられる時も命ある限り俺達は一緒だ!」

「うん」


ノハは二人に強く抱き締められながら満足そうに笑う。

そんなやりとりが漏れ聞こえてくる保健室内で、深夜は


「よく分からんが怪我だけはするなよ…」


と呟いたのであった。



「と、いう訳で。これからは僕にも鋏を投げてね」

「意味分かんねえし言ってる事気持ち悪いし寄るんじゃねえ!」

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